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僕は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
封印されし穢れ人――玉繭の里編

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245/258

『親バカな兎の眷属と、それをうまく転がす猫の眷属』

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*

紡

「え……?

 それって、兎の眷属から

 禁忌の眷属が出たってことですよね……?」




雪兎《ゆきと》

「……はい。

 残念ながら、その通りです。


 本来、兎の眷属から

 禁忌の眷属が出ることは、

 決してないはずなのですが……」



雪兎《ゆきと》の思わぬ告白に、

誰もすぐには言葉を返せない。



重い沈黙だけが、

その場を包んでいた。



真白

「ですが、雪兎《ゆきと》様。


 なぜ兎の眷属からは、

 決して禁忌の眷属が出ないと

 言い切れるのですか?」



真白の問いに、

疾風たちの視線も雪兎《ゆきと》へと集まった。




雪兎《ゆきと》

「それは、

 我々月の眷属の権能が、

 強力すぎるからですよ!」



紡

「権能が強力すぎると、

 禁忌の眷属にならないんですか?

 でも……

 他にも強力な権能の眷属はいますよね?」



月糸《つくし》

「父様……

 その説明では皆様に伝わりにくいかと。


 “時”を操り、

 未来を見通す権能を持つ者が、

 悪意によってその力を使うことがないように――


 月の神様が、

 私たちに施したものがあるのです」 




三国《みくに》

「だけど、

 現に出てるのはどういうことですか?


 それじゃ、

 今の話と矛盾してませんか?」


 

雪兎《ゆきと》

「皆様が納得できないのも、

 当然だと思います。


 災禍の神が現世へ流された当時――


 月の神様は、

 一つの遠い未来をご覧になったそうです」



真白

「……未来?」




雪兎《ゆきと》

「はい。


 その未来では、

 我ら兎の眷属が持つ“先見”や、

 “時”に関わる権能が――


 災禍の神の手に渡っていました」



雪兎《ゆきと》が語る月の神が見たあり得た未来にその場の誰もが息を呑んだ。



雪兎《ゆきと》

「特に“先見”は、

 敵に渡れば恐ろしい力となります。


 これから誰が自分を倒しに来るのか。


 どの攻撃が成功するのか。


 どの選択をすれば、

 目的を達成できるのか――


 それらを、

 事前に知ることができてしまう」



その言葉に、

真白たちの表情が強張った。



雪兎《ゆきと》

「月の神様がご覧になった未来では、

 その力によって先を読まれ続け……


 眷属たちはなす術もなく、

 次々と消されていったそうです」



月の神が見たという、

あまりにも凄惨な未来。



その場に、

重苦しい空気が広がっていった。




雪兎《ゆきと》

「だから月の神様は、

 その未来を避けるため――


 我ら月の眷属の魂に、

 一つの守りを施されました。



 月の神様への忠誠が、

 外からの誘惑や悪意によって、

 決して歪められないように」



真白

「……それが、

 さっき月糸《つくし》さんが言っていた……」



雪兎《ゆきと》

「はい。


 その守りがある限り、

 災禍の神にどれほど誘惑されようとも、

 我らが自ら寝返ることはありません。


 だからこそ――


 兎の眷属から禁忌が生まれることは、

 本来ならば、

 あり得ないはずなのです」



雪兎《ゆきと》は一度言葉を切ると、

さらに続ける。



雪兎《ゆきと》

「月の神様を裏切り、

 災禍の神の側につこうとすれば――


 魂に刻まれた忠誠が、

 それを拒むように強く作用します。


 激しい罪悪感と不安に苛まれ、

 やがて正気を保てなくなるほどに。


 それほど強い制約なのです。


 だからこそ……

 どうやってあの者がその制約を越え、

 禁忌へと堕ちたのか――


 私にも、分からないのです」



真白たちは、

黙って雪兎《ゆきと》の話に耳を傾けていた。



月糸《つくし》

「信じていただけるか分かりませんが、

 兎の眷属から禁忌に堕ちた者は――


 先ほどの者、

 ただ一人です」





澪斗《みなと》

「……なんと言うか、凄いですね。


 兎の眷属の皆様の誓約の話もそうですが、

 月の神様が見たという、

 未来の話が……」




真白

「えぇ、僕もそう思います。


 もし同じ権能を持つ禁忌の眷属が

 他にもいたのなら――


 今回、僕たちは何もできないまま、

 全員やられていたかもしれません」





疾風

「確かに、

 真白様の仰るとおりですね。


 現にこちらには、

 雪兎《ゆきと》様と月糸《つくし》様がいた。


 お二人がいたからこそ、

 相手を上回ることができた」




著莪《しゃが》

「向こうにも同じ数の禁忌の兎がいたなら……」




義久《よしひさ》

「今頃我々は、

 屍になってその辺に

 転がっていたでしょうね」



三国《みくに》

「それに、

 こちらに雪兎《ゆきと》様と月糸《つくし》様がいたからこそ、

 あいつもあっさり退いたってことか……」




火の童子《かのこどうじ》

「せやけど、

 あいつにも“先見”の権能があったんなら、

 この未来も見えてたんとちゃうか?


 それに兎の眷属は、

 時を操ることもできるんやろ?


 やったら時を操って、

 アタイらに勝つことも

 できたんとちゃうんか?」



その問いに、

雪兎《ゆきと》がぱちりと目を瞬かせた。



それから、

感心したように火の童子《かのこどうじ》を見る。



雪兎《ゆきと》

「おや。


 火の童子《かのこどうじ》にしては珍しく、

 鋭い指摘ですね!」




火の童子《かのこどうじ》

(……なんや。

 褒められた……はずよな?


 なんでやろ……

 まったく嬉しくない)



火の童子《かのこどうじ》は、

なんとも言えない顔で雪兎《ゆきと》を見つめた。



火の童子《かのこどうじ》

(雪兎《ゆきと》様といい、炎神様といい……


 なんや古株の眷属は皆、

 アタイのことただの脳筋で、

 アホや思うてへんか?)



雪兎《ゆきと》は、そんな火の童子《かのこどうじ》の心中など知る由もなく、いつもの朗らかな笑みを浮かべている。




雪兎《ゆきと》

「ですが、火の童子《かのこどうじ》の疑問はもっともです。


 彼には確かに、

 未来が見えていたのでしょう。


 あの者が有していたのは、

 “先見”の権能だったようです。


 ですが――


 彼にできたのは、

 未来を見ることだけだった」




蒼《あお》

「えっ……?

 未来を見ることしかできなかったってこと?

 でも兎の眷属は、

 時を司る権能もあるのに?」  



蒼《あお》が不思議そうに首を傾げる。



その問いに、

雪兎《ゆきと》は一瞬だけ言葉を詰まらせた。



雪兎《ゆきと》

「……それこそが、

 我ら兎の眷属が持つ弱みの一つです。

 

 一者の眷属に、一つの権能。

 

 我ら兎の眷属は本来、

 “先見”か“時”――


 そのどちらか一方しか、

 持つことができないのです」




三国《みくに》

「……へぇ。


 それは予想外でしたけど……


 雪兎《ゆきと》様と月糸《つくし》様は、

 どちらの権能も使ってませんでした?」




雪兎《ゆきと》

「…………」



雪兎《ゆきと》が、

今度は三国《みくに》へ顔を向けた。



そして少しだけ目を丸くする。



雪兎《ゆきと》

「おや……。

 意外と三国《みくに》も鋭いのですね……」



三国《みくに》の眉が、

ぴくりと動いた。



三国《みくに》

「…………」




三国《みくに》

(ん?……

 “意外と”って、どういう意味だ?

 褒められたんだよ……な?)



少し離れたところから、

火の童子《かのこどうじ》が無言で三国《みくに》を見る。



三国《みくに》も、

その視線に気づいた。



火の童子《かのこどうじ》

「…………」



火の童子《かのこどうじ》

(分かる。分かるで三国《みくに》……)



三国《みくに》

「…………」



三国《みくに》

(……?なんで火の童子《かのこどうじ》様は、

 残念そうにこちらをみているのだ?)




雪兎《ゆきと》

「私と月糸《つくし》が、

 どちらの権能も使ったように見えたのは

 間違いではありません。



 ですが、正確には――


 両方の権能を有しているのは、

 私ではなく月糸《つくし》なのです」



三国《みくに》

「……月糸《つくし》様が?」



雪兎《ゆきと》

「はい!」



先ほどまで説明していた時とは打って変わり、

雪兎《ゆきと》の表情がぱっと明るくなる。



雪兎《ゆきと》

「月糸《つくし》は、

 月の眷属で唯一――


 “先見”と“時”。


 その両方の権能を持って生まれた、

 初めての兎の眷属なのです!」



雪兎《ゆきと》は、

誇らしげに胸を張った。



雪兎《ゆきと》

「私の娘は、

 すごいのですよ!」



月糸《つくし》

「……父様……

 おやめください」



雪兎《ゆきと》

「幼い頃から月糸《つくし》はですね――」



月糸《つくし》

「父様……」




雪兎《ゆきと》

「それはもう、

 飲み込みが早い子でして!

 初めて時の権能を――」



著莪《しゃが》

(あぁー、そうだった!


 雪兎《ゆきと》は天界でも有名な

 親ばかだった……。


 話が壮大すぎて、

 すっかり忘れてた)



月糸《つくし》が止めようと口を挟むも、

雪兎《ゆきと》は止まることを知らず、



月糸《つくし》

「……父――」



義久《よしひさ》

「雪兎《ゆきと》殿!


 貴方の娘が素晴らしいことも、

 どれほど娘が可愛いのかも、

 よく分かりました!


 ですが、

 ここで話していても落ち着きません。


 続きは玉繭の社で、

 ゆっくり聞かせてください!」




雪兎《ゆきと》

「義久《よしひさ》殿……!

 分かっていただけますか!


 確かに、

 この場で語るよりも本殿で

 話の続きをした方が良さそうですね!


 では、参りましょう!」




雪兎《ゆきと》はすっかり上機嫌になり、

歩き出してからも月糸《つくし》の自慢を続けている。




雪兎《ゆきと》

「それでですね!

 月糸《つくし》が初めて“時”の権能を使った時など――」




大きく頷きながら、

意気揚々と歩いていく雪兎《ゆきと》。



義久《よしひさ》

「えぇ、えぇ!

 それは素晴らしいですね!」



自分が義久《よしひさ》によって、

巧みに本殿へ誘導されているとも知らずに――




寿久《としひさ》

「流石だね……兄上は」



義弘《よしひろ》

「ああなってしまった雪兎《ゆきと》様を、

 いとも簡単に本殿へ誘導するとは……」



こうして、

 


義久《よしひさ》の機転によって、



一行はようやく玉繭の神社へと

戻ることができたのだった。



最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!


次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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