『親バカな兎の眷属と、それをうまく転がす猫の眷属』
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(*˘︶˘*).。.:*
紡
「え……?
それって、兎の眷属から
禁忌の眷属が出たってことですよね……?」
雪兎
「……はい。
残念ながら、その通りです。
本来、兎の眷属から
禁忌の眷属が出ることは、
決してないはずなのですが……」
雪兎の思わぬ告白に、
誰もすぐには言葉を返せない。
重い沈黙だけが、
その場を包んでいた。
真白
「ですが、雪兎様。
なぜ兎の眷属からは、
決して禁忌の眷属が出ないと
言い切れるのですか?」
真白の問いに、
疾風たちの視線も雪兎へと集まった。
雪兎
「それは、
我々月の眷属の権能が、
強力すぎるからですよ!」
紡
「権能が強力すぎると、
禁忌の眷属にならないんですか?
でも……
他にも強力な権能の眷属はいますよね?」
月糸
「父様……
その説明では皆様に伝わりにくいかと。
“時”を操り、
未来を見通す権能を持つ者が、
悪意によってその力を使うことがないように――
月の神様が、
私たちに施したものがあるのです」
三国
「だけど、
現に出てるのはどういうことですか?
それじゃ、
今の話と矛盾してませんか?」
雪兎
「皆様が納得できないのも、
当然だと思います。
災禍の神が現世へ流された当時――
月の神様は、
一つの遠い未来をご覧になったそうです」
真白
「……未来?」
雪兎
「はい。
その未来では、
我ら兎の眷属が持つ“先見”や、
“時”に関わる権能が――
災禍の神の手に渡っていました」
雪兎が語る月の神が見たあり得た未来にその場の誰もが息を呑んだ。
雪兎
「特に“先見”は、
敵に渡れば恐ろしい力となります。
これから誰が自分を倒しに来るのか。
どの攻撃が成功するのか。
どの選択をすれば、
目的を達成できるのか――
それらを、
事前に知ることができてしまう」
その言葉に、
真白たちの表情が強張った。
雪兎
「月の神様がご覧になった未来では、
その力によって先を読まれ続け……
眷属たちはなす術もなく、
次々と消されていったそうです」
月の神が見たという、
あまりにも凄惨な未来。
その場に、
重苦しい空気が広がっていった。
雪兎
「だから月の神様は、
その未来を避けるため――
我ら月の眷属の魂に、
一つの守りを施されました。
月の神様への忠誠が、
外からの誘惑や悪意によって、
決して歪められないように」
真白
「……それが、
さっき月糸さんが言っていた……」
雪兎
「はい。
その守りがある限り、
災禍の神にどれほど誘惑されようとも、
我らが自ら寝返ることはありません。
だからこそ――
兎の眷属から禁忌が生まれることは、
本来ならば、
あり得ないはずなのです」
雪兎は一度言葉を切ると、
さらに続ける。
雪兎
「月の神様を裏切り、
災禍の神の側につこうとすれば――
魂に刻まれた忠誠が、
それを拒むように強く作用します。
激しい罪悪感と不安に苛まれ、
やがて正気を保てなくなるほどに。
それほど強い制約なのです。
だからこそ……
どうやってあの者がその制約を越え、
禁忌へと堕ちたのか――
私にも、分からないのです」
真白たちは、
黙って雪兎の話に耳を傾けていた。
月糸
「信じていただけるか分かりませんが、
兎の眷属から禁忌に堕ちた者は――
先ほどの者、
ただ一人です」
澪斗
「……なんと言うか、凄いですね。
兎の眷属の皆様の誓約の話もそうですが、
月の神様が見たという、
未来の話が……」
真白
「えぇ、僕もそう思います。
もし同じ権能を持つ禁忌の眷属が
他にもいたのなら――
今回、僕たちは何もできないまま、
全員やられていたかもしれません」
疾風
「確かに、
真白様の仰るとおりですね。
現にこちらには、
雪兎様と月糸様がいた。
お二人がいたからこそ、
相手を上回ることができた」
著莪
「向こうにも同じ数の禁忌の兎がいたなら……」
義久
「今頃我々は、
屍になってその辺に
転がっていたでしょうね」
三国
「それに、
こちらに雪兎様と月糸様がいたからこそ、
あいつもあっさり退いたってことか……」
火の童子
「せやけど、
あいつにも“先見”の権能があったんなら、
この未来も見えてたんとちゃうか?
それに兎の眷属は、
時を操ることもできるんやろ?
やったら時を操って、
アタイらに勝つことも
できたんとちゃうんか?」
その問いに、
雪兎がぱちりと目を瞬かせた。
それから、
感心したように火の童子を見る。
雪兎
「おや。
火の童子にしては珍しく、
鋭い指摘ですね!」
火の童子
(……なんや。
褒められた……はずよな?
なんでやろ……
まったく嬉しくない)
火の童子は、
なんとも言えない顔で雪兎を見つめた。
火の童子
(雪兎様といい、炎神様といい……
なんや古株の眷属は皆、
アタイのことただの脳筋で、
アホや思うてへんか?)
雪兎は、そんな火の童子の心中など知る由もなく、いつもの朗らかな笑みを浮かべている。
雪兎
「ですが、火の童子の疑問はもっともです。
彼には確かに、
未来が見えていたのでしょう。
あの者が有していたのは、
“先見”の権能だったようです。
ですが――
彼にできたのは、
未来を見ることだけだった」
蒼
「えっ……?
未来を見ることしかできなかったってこと?
でも兎の眷属は、
時を司る権能もあるのに?」
蒼が不思議そうに首を傾げる。
その問いに、
雪兎は一瞬だけ言葉を詰まらせた。
雪兎
「……それこそが、
我ら兎の眷属が持つ弱みの一つです。
一者の眷属に、一つの権能。
我ら兎の眷属は本来、
“先見”か“時”――
そのどちらか一方しか、
持つことができないのです」
三国
「……へぇ。
それは予想外でしたけど……
雪兎様と月糸様は、
どちらの権能も使ってませんでした?」
雪兎
「…………」
雪兎が、
今度は三国へ顔を向けた。
そして少しだけ目を丸くする。
雪兎
「おや……。
意外と三国も鋭いのですね……」
三国の眉が、
ぴくりと動いた。
三国
「…………」
三国
(ん?……
“意外と”って、どういう意味だ?
褒められたんだよ……な?)
少し離れたところから、
火の童子が無言で三国を見る。
三国も、
その視線に気づいた。
火の童子
「…………」
火の童子
(分かる。分かるで三国……)
三国
「…………」
三国
(……?なんで火の童子様は、
残念そうにこちらをみているのだ?)
雪兎
「私と月糸が、
どちらの権能も使ったように見えたのは
間違いではありません。
ですが、正確には――
両方の権能を有しているのは、
私ではなく月糸なのです」
三国
「……月糸様が?」
雪兎
「はい!」
先ほどまで説明していた時とは打って変わり、
雪兎の表情がぱっと明るくなる。
雪兎
「月糸は、
月の眷属で唯一――
“先見”と“時”。
その両方の権能を持って生まれた、
初めての兎の眷属なのです!」
雪兎は、
誇らしげに胸を張った。
雪兎
「私の娘は、
すごいのですよ!」
月糸
「……父様……
おやめください」
雪兎
「幼い頃から月糸はですね――」
月糸
「父様……」
雪兎
「それはもう、
飲み込みが早い子でして!
初めて時の権能を――」
著莪
(あぁー、そうだった!
雪兎は天界でも有名な
親ばかだった……。
話が壮大すぎて、
すっかり忘れてた)
月糸が止めようと口を挟むも、
雪兎は止まることを知らず、
月糸
「……父――」
義久
「雪兎殿!
貴方の娘が素晴らしいことも、
どれほど娘が可愛いのかも、
よく分かりました!
ですが、
ここで話していても落ち着きません。
続きは玉繭の社で、
ゆっくり聞かせてください!」
雪兎
「義久殿……!
分かっていただけますか!
確かに、
この場で語るよりも本殿で
話の続きをした方が良さそうですね!
では、参りましょう!」
雪兎はすっかり上機嫌になり、
歩き出してからも月糸の自慢を続けている。
雪兎
「それでですね!
月糸が初めて“時”の権能を使った時など――」
大きく頷きながら、
意気揚々と歩いていく雪兎。
義久
「えぇ、えぇ!
それは素晴らしいですね!」
自分が義久によって、
巧みに本殿へ誘導されているとも知らずに――
寿久
「流石だね……兄上は」
義弘
「ああなってしまった雪兎様を、
いとも簡単に本殿へ誘導するとは……」
こうして、
義久の機転によって、
一行はようやく玉繭の神社へと
戻ることができたのだった。
最後までお付き合いいただき、
ほんとうにありがとうございます!
次回もお付き合いいただけたら幸いです。
(人´∀`).☆.。.:*・゜




