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僕は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
封印されし穢れ人――玉繭の里編

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『禁忌の眷属・真月』

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*




緊迫感にそぐわない間の抜けた声が響く。



真月《しんげつ》

「いえいえ、お気になさらず!

 ですが、

 灰燼様はもうどうにもなりませんゆえ、

 そちらは諦めていただきます」



真月《しんげつ》は琥珀と軽く会話を交わすと、

真白《ましろ》たちに向き直り、



真月《しんげつ》

「取引いたしましょう。


 そちらの黒曜石を渡していただき、

 僕と琥珀様がここを離れるのを

 邪魔しないでいただきたい。


 そうしていただければ――

 これ以上、貴方たちに危害を加えることなく

 僕たちはここを去りましょう」



疾風《はやて》

「取引だと?

 信用できるはずがないだろう……」




三国《みくに》

「疾風《はやて》の言うとおりだ!

 お前たちは現に鬼鹿毛《おにかげ》と楓《かえで》様を、矢で射抜いた!」



真月《しんげつ》

「おやおや……

 分かっていらっしゃらないようですね。


 あれは――

 急所をわざと外した結果ですよ?


 本気で命を狙っていたのなら、

 どうなっていたか……


 貴方たちにも、

 お分かりですよね?」



義久

「姿も気配も捉えられず、

 的は絶対に外さない射手……鳩、ですか」



真月《しんげつ》の要求を前に、

義久は険しい表情を浮かべていた。



三国《みくに》

「ふざけるな!

 そんな取引、信用できるわけないだろ!」



真月《しんげつ》

「おやおや。

 随分と嫌われてしまったものですねぇ」



三国《みくに》

「当たり前だ!

 鬼鹿毛《おにかげ》と楓《かえで》様を射抜いておいて、よくそんなことが言えるな!」



真月《しんげつ》

「ですから――

 あれは急所を外したと

 申し上げているでしょう?」



三国《みくに》

「そういう問題じゃない!」



声を荒らげる三国《みくに》に、

真月《しんげつ》は困ったように肩をすくめる。



義久

「…………」



黒曜石を渡せば、

琥珀と共にこの場から逃がすことになる。



かといって拒めば、

あの見えない射手が、

いつ再び矢を放つか分からない。



義久

(さて……どうしましょうか)



真月《しんげつ》

「困りましたねぇ……

 僕としては、

 穏便に済ませたいだけなのですが」



三国《みくに》

「どの口が言ってるんだ!」



義久が答えを出せずにいた、

その時だった。



なおも言い争う真月《しんげつ》と三国《みくに》。



その隙を見計らい、

真白《ましろ》は義久のすぐ傍へと歩み寄った。



真白《ましろ》

「……義久様」



義久の耳にだけ届く、

かすかな声。



義久

「……?」




視線だけを向けると、

真白《ましろ》がすぐ傍に立っていた。



三国《みくに》

「大体お前は――!」



三国《みくに》の声に紛れるように、

真白《ましろ》がそっと義久へ顔を寄せる。



そして、

義久にだけ聞こえる声で短く何事かを囁いた。



義久

「…………」



その言葉に、

義久の瞳がわずかに揺れる。



それもほんの一瞬。



すぐに何事もなかったかのように、

表情を戻した。



真月《しんげつ》

「ですから、

 僕は取引を持ちかけているのですよ」



三国《みくに》

「信用できないって

 言ってるんだ!」



なおも言い合う二人。



その隙に交わされた、

真白《ましろ》と義久の短いやり取り。



真月《しんげつ》が、

それに気づいた様子はなかった。



やがて義久は、

静かに息を吐いた。



義久

「……分かりました」



その声に、

真月《しんげつ》と三国《みくに》の視線が義久へ向く。



義久

「交渉成立です」



三国《みくに》

「義久様!?」



真月《しんげつ》

「……ほう」



真月《しんげつ》は、

義久をじっと見つめた。



つい先ほどまで、

要求を呑むべきか迷っていたはず。



それが突然――

交渉を受け入れた。



真月《しんげつ》

(……さて)



わずかに目を細めながらも、

口元には相変わらず軽い笑みが浮かんでいる。




真月《しんげつ》

(何かありそうですねぇ……

 ですが……まあ、いいでしょう。

 最優先は黒曜石の回収と、琥珀様の奪還)



それさえ果たせれば、

ここに長居する理由はない。



真月《しんげつ》

「では――」



真月《しんげつ》が、

ゆっくりと歩き出した。



黒曜石を持つ義久との距離が、

少しずつ縮まっていく。



真白《ましろ》たちは、

その様子を警戒しながら静かに見据えていた。



下手に動けば、

どこから矢が飛んでくるか分からない。



そんな緊張が張り詰める中、

真月《しんげつ》はゆっくりと義久の前まで歩み寄る。



そして、

黒曜石へと手を伸ばしたその瞬間――




真白《ましろ》

(――今です)



――カッ!!!



真白《ましろ》の全身から、

凄まじい神気が迸った。



視界を埋め尽くすほどの眩い白光。



真白《ましろ》の浄化の神気が、

一瞬にして辺り一帯を白く染め上げる。



紡

「ま、眩しいですぅ……!」



三国《みくに》

「っ……!」



誰もが反射的に目を閉じた。

だが、狙いは彼らではない。



真白《ましろ》

「今なら――

 射手はこちらを狙えません!」



義久

「ええ!」



その言葉を合図に、

張り詰めていた空気が弾けた。



疾風《はやて》

「なるほど――そういうことですか!」



三国《みくに》

「なら、今のうちに!」



見えない射手さえ封じれば――

真月《しんげつ》を捕らえられる。



黒曜石も渡さずに済む。



琥珀もここから逃がさない。

――誰もが、そう思った。



だが……真月《しんげつ》だけは違った。

眩い白光の中――



彼は最初から、

目を閉じていた。



真白《ましろ》

「……っ!?」



その口元に、

わずかな笑みが浮かぶ。



真月《しんげつ》

「なるほど」



ゆっくりと伸ばされた手が、

迷うことなく黒曜石へ触れた。



真月《しんげつ》

「これが、

 貴方の策でしたか」




義久

「なっ……!?」



真月《しんげつ》

「いい手だと思いますよ」



そして、

閉じていた瞳をゆっくりと開く。



真月《しんげつ》

「――見えていなければ……ですが」




真白《ましろ》

「……! 待ってください!」



真白《ましろ》は咄嗟に手を伸ばしたが、

その手が届くよりも早く――



真月《しんげつ》と琥珀の足元から、

神気が一気に広がった。



真月《しんげつ》

「では、皆さん」



いつもの軽い笑みを浮かべたまま、

真月《しんげつ》が告げる。



真月《しんげつ》

「また、いずれ」



――フッ。



真月《しんげつ》と琥珀の姿が、

黒曜石と共にその場から消えた。



あとに残されたのは、

真白《ましろ》たちだけだった。




義久

「…………」



三国《みくに》

「……逃げられた……?」



静寂が訪れる中、

真白《ましろ》は真月《しんげつ》が立っていた場所を、

じっと見つめていた。




真白《ましろ》

「……すみません、義久様。

 結局、逃げられてしまいました」



義久

「いいえ。

 皆さんがご無事なら、それでよいのです」



そう答えた義久は、

負傷した者たちへと視線を向ける。



義久

「澪斗さん。

 負傷者の治療を――」



言いかけて、

義久は目を瞬かせた。



すでに澪斗は、

負傷者の治療に取りかかっていた。



義久

「……もう、

 始めてくださっていましたか」



その時、

紡が不思議そうに首を傾げる。



紡

「でも……

 あの人、どうして真白《ましろ》様の作戦が

 分かったのでしょう……?


 僕たちだって、

 何をするのか分からなかったのに……」




雪兎

「……それはあの者が、

 我ら兎の眷属から出た、

 禁忌の眷属だからでしょう」



真白《ましろ》たちの視線が、

一斉に雪兎へ向けられる。



いつもの朗らかな笑みは、

その顔から消えていた。



真白《ましろ》

「……え?」




雪兎

「おそらく、

 “先見”の権能で見たのでしょう。

 真白《ましろ》殿が、

 あの光を放つ未来を――」



全員

「…………!」



その場にいた者たちの表情が、

一斉に強張った。










最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!

ブックマークな評価など頂けたら大変嬉しいです!

次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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