見えない射手
紡
「どうしましょうか……
琥珀様、何もしゃべらなくなっちゃいましたね……」
疾風
「もうしゃべることはないでしょう。
そもそも禁忌の眷属たちは、互いの利益のために
手を組んでいるような者たちですから。」
楓
「若の仰る通りです。
元は立派な眷属だと言うのに。」
義久
「元が立派なだけに、
敵に回ると厄介なんですよ。
余計なことは言わない、聞かない、
そして見ない……と」
火の童子
「ん?
それって、どこぞの有名な猿のやつやん!」
義久
「えっ……?
そうなのですか?」
義久は意味が分からないのか、
ぱちくりと瞬きをする。
義久と火の童子のやりとりを横目に、
三国が感心したように口を開く。
三国
「それにしても、
澪斗様の水の鎖は凄いですね。
豊穣神社では、
ゆっくり見ることができませんでしたので」
疾風
「俺は何度か、
討伐任務でご一緒していますが……
あの拘束の援護があるのとないのとでは、
雲泥の差ですよ」
戦いを終えた里には、
ようやく穏やかな空気が戻り始めていた。
先ほどまで響いていた剣戟も、
怒号もない。
聞こえてくるのは、
時折吹き抜ける風の音と、
仲間たちの話し声だけ。
寿久
「しかし、豊穣神様はまだいらっしゃらないのでしょうか?
真白様、知らせは飛ばしたのですよね?」
真白
「はい。先ほど狐の窓でお知らせしたので、
すぐにこちらへ降りて来ていただけると……」
そんな仲間たちの会話をよそに、
その輪から少し離れた場所で――
琥珀は、
静かに真白を見つめていた。
穢れひとつ感じさせない、
澄み切った神気と透けるような白い髪。
琥珀
(……これが、
穢れ知らずの真白……)
真白
「ですが、確かに遅――」
鬼鹿毛・影月
「「三国様!!!」」
切羽詰まった声が、
穏やかだった空気を切り裂いた。
三国
「……っ!?」
振り返った三国の視界に映ったのは――
自分へ向かって、
一直線に迫ってくる一本の矢。
避けるには、
あまりにも遅かった。
その瞬間。
鬼鹿毛が、
三国の前へ飛び出した。
――ザシュッ!!
鈍い音とともに、一本の矢が、鬼鹿毛の胸を深々と射抜く。
鬼鹿毛
「ぐっ……!」
三国
「鬼鹿毛!!」
鬼鹿毛の身体から、
力が抜ける。
崩れ落ちるその身体を、
三国は咄嗟に抱きとめた。
三国
「鬼鹿毛!しっかりしろ!」
胸に突き立った矢を確認した三国の表情が変わる。
三国
「影月!
護りを頼む!」
影月
「御意!!」
その場にいた全員の表情が、
一瞬にして戦士のものへと変わった。
疾風は太刀へ手をかけ、
鋭く周囲を見渡す。
義久も視線を走らせるが――
気配すら感じられない。
義久
「一体……どこから……?」
――ヒュッ!
次の瞬間、
空気を裂く鋭い音とともに響く鈍い音。
――ドシュッ!!
楓
「ぐっ……!」
疾風
「叔父上!!」
今度は、一本の矢が楓の足を射抜いていた。
疾風が楓へ駆け寄ろうとするが、
――ヒュッ!
再び、何かが空気を切り裂いた。
義弘
「義久兄様!!」
義弘が兄の腕を掴み、
力任せに自分の方へ引き寄せる。
義久
「なっ――!?」
――ドッ!!
直後。
義久が立っていた地面へ、
一本の矢が深々と突き刺さった。
義久の顔から、
さっと血の気が引く。
あと一瞬、
義弘が気づくのが遅ければ――
その矢は、
確実に義久を射抜いていた。
火の童子
「なんや! なんや!
どーいうこっちゃ!」
蒼
「火の童子!!」
――ボッ!
火の童子へ迫っていた矢を、
蒼の焔が一瞬にして焼き尽くす。
だが、その直後――
火の童子
「蒼!!」
――ボッ!
今度は蒼へ迫っていた矢を、
火の童子の焔が焼き払った。
蒼
「……っ!」
火の童子
「蒼! 油断すんな!
周り警戒しときぃ!」
蒼
「……! うん!」
――ヒュッ!
さらに、
別方向から矢が一本また一本と飛来する。
真白は鋭く辺りを見渡す。
だが、
どこを探しても射手らしき姿は見当たらない。
真白
「……っ」
すぐさま、
その視線を仲間たちへと戻す。
三国に抱きかかえられた、
負傷した鬼鹿毛。
足を射抜かれ、
その場から動くことのできない楓。
そして今もなお、
どこから飛んでくるとも知れない矢が、
容赦なく仲間たちを狙っている。
このままでは、
負傷した二人を守りながら戦うことなどできない。
真白
(このままでは……!)
真白
「紡!
急いで結界を!!」
紡
「は、はい!!」
真白・紡
「「守護の理――護りを――」」
二人の神気が広がり、
仲間たちを包む結界が形成される。
その瞬間――
???
「相殺の理――解破」
――バシャァンッ!!
激しい水音が響き渡った。
真白
「……っ!?」
消えたのは、
真白たちの結界ではない。
琥珀の身体を幾重にも縛りつけていた、
澪斗の水の鎖だった。
水の鎖は一瞬にして形を失い、
大量の水となって地面へ崩れ落ちていく。
疾風
「……なるほど。
まんまとやられましたね」
真白
「……ええ。
三国様と楓様への攻撃は、
僕たちの意識を琥珀様から逸らすため……!」
雪兎
「最初から狙いは、
琥珀殿の解放だったということですか……」
紡
「だ、誰ですか……!?」
三国
「くっ……!」
三国が結界を飛び出し、
琥珀のもとへ駆け出す。
――ヒュッ!
――ヒュヒュッ!!
三国
「……っ!」
進路を塞ぐように、
無数の矢が次々と地面へ突き刺さる。
三国は咄嗟に足を止め、
後方へ跳んだ。
その身体が再び結界の内側へ戻る。
三国
「この正確な射撃……
まさか――」
???
「ありゃ。
気づかれてしまいましたか」
いつの間に現れたのか――
拘束を解かれた琥珀のすぐ隣に、
一人の男が立っていた。
その顔には、
この状況には似つかわしくないほど
軽い笑みが浮かんでいる。
???
「でしたら、
そこの結界の中で大人しくしていてくださいな。
一歩でもそこから出たら――
次は確実に頭を射抜きますよ?」
男は笑みを浮かべたまま、
真白たちを見渡す。
???
「それに……
その結界だって、
僕の術で“解破”できるんですから」
琥珀は拘束から解放された身体を起こすと、
凝り固まった身体をほぐすように、
大きく伸びをした。
琥珀
「手間を掛けて済まなかった。
――真月」




