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僕は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
封印されし穢れ人――玉繭の里編

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見えない射手




紡《つむぎ》

「どうしましょうか……

 琥珀《こはく》様、何もしゃべらなくなっちゃいましたね……」



疾風《はやて》

「もうしゃべることはないでしょう。

 そもそも禁忌の眷属たちは、互いの利益のために

 手を組んでいるような者たちですから。」



楓

「若の仰る通りです。

 元は立派な眷属だと言うのに。」



義久

「元が立派なだけに、

 敵に回ると厄介なんですよ。

 余計なことは言わない、聞かない、

 そして見ない……と」



火の童子《かのこどうじ》

「ん?

 それって、どこぞの有名な猿のやつやん!」



義久

「えっ……?

 そうなのですか?」



義久は意味が分からないのか、

ぱちくりと瞬きをする。



義久と火の童子《かのこどうじ》のやりとりを横目に、

三国《みくに》が感心したように口を開く。



三国《みくに》

「それにしても、

 澪斗様の水の鎖は凄いですね。


 豊穣神社では、

 ゆっくり見ることができませんでしたので」




疾風《はやて》

「俺は何度か、

 討伐任務でご一緒していますが……


 あの拘束の援護があるのとないのとでは、

 雲泥の差ですよ」




戦いを終えた里には、

ようやく穏やかな空気が戻り始めていた。



先ほどまで響いていた剣戟も、

怒号もない。



聞こえてくるのは、

時折吹き抜ける風の音と、

仲間たちの話し声だけ。




寿久

「しかし、豊穣神様はまだいらっしゃらないのでしょうか?

 真白《ましろ》様、知らせは飛ばしたのですよね?」




真白《ましろ》

「はい。先ほど狐の窓でお知らせしたので、

 すぐにこちらへ降りて来ていただけると……」




そんな仲間たちの会話をよそに、

その輪から少し離れた場所で――




琥珀《こはく》は、

静かに真白《ましろ》を見つめていた。




穢れひとつ感じさせない、

澄み切った神気と透けるような白い髪。




琥珀《こはく》

(……これが、

 穢れ知らずの真白《ましろ》……)




真白《ましろ》

 「ですが、確かに遅――」




鬼鹿毛《おにかげ》・影月《かげつき》

「「三国《みくに》様!!!」」



切羽詰まった声が、

穏やかだった空気を切り裂いた。



三国《みくに》

「……っ!?」



振り返った三国《みくに》の視界に映ったのは――



自分へ向かって、

一直線に迫ってくる一本の矢。



避けるには、

あまりにも遅かった。



その瞬間。



鬼鹿毛《おにかげ》が、

三国《みくに》の前へ飛び出した。



――ザシュッ!!



鈍い音とともに、一本の矢が、鬼鹿毛《おにかげ》の胸を深々と射抜く。



鬼鹿毛《おにかげ》

「ぐっ……!」



三国《みくに》

「鬼鹿毛《おにかげ》!!」



鬼鹿毛《おにかげ》の身体から、

力が抜ける。



崩れ落ちるその身体を、

三国《みくに》は咄嗟に抱きとめた。




三国《みくに》

「鬼鹿毛!しっかりしろ!」



胸に突き立った矢を確認した三国《みくに》の表情が変わる。



三国《みくに》

「影月《かげつき》!

 護りを頼む!」



影月《かげつき》

「御意!!」



その場にいた全員の表情が、

一瞬にして戦士のものへと変わった。



疾風《はやて》は太刀へ手をかけ、

鋭く周囲を見渡す。



義久も視線を走らせるが――

気配すら感じられない。



義久

「一体……どこから……?」



――ヒュッ!



次の瞬間、

空気を裂く鋭い音とともに響く鈍い音。



――ドシュッ!!



楓

「ぐっ……!」




疾風《はやて》

「叔父上!!」



今度は、一本の矢が楓の足を射抜いていた。

疾風《はやて》が楓へ駆け寄ろうとするが、



――ヒュッ!



再び、何かが空気を切り裂いた。



義弘

「義久兄様!!」



義弘が兄の腕を掴み、

力任せに自分の方へ引き寄せる。



義久

「なっ――!?」



――ドッ!!



直後。



義久が立っていた地面へ、

一本の矢が深々と突き刺さった。



義久の顔から、

さっと血の気が引く。



あと一瞬、

義弘が気づくのが遅ければ――



その矢は、

確実に義久を射抜いていた。




火の童子《かのこどうじ》

「なんや! なんや!

 どーいうこっちゃ!」



蒼

「火の童子《かのこどうじ》!!」



――ボッ!



火の童子《かのこどうじ》へ迫っていた矢を、

蒼の焔が一瞬にして焼き尽くす。



だが、その直後――



火の童子《かのこどうじ》

「蒼!!」



――ボッ!



今度は蒼へ迫っていた矢を、

火の童子《かのこどうじ》の焔が焼き払った。



蒼

「……っ!」



火の童子《かのこどうじ》

「蒼! 油断すんな!

 周り警戒しときぃ!」



蒼

「……! うん!」



――ヒュッ!



さらに、

別方向から矢が一本また一本と飛来する。



真白《ましろ》は鋭く辺りを見渡す。



だが、

どこを探しても射手らしき姿は見当たらない。



真白《ましろ》

「……っ」



すぐさま、

その視線を仲間たちへと戻す。



三国《みくに》に抱きかかえられた、

負傷した鬼鹿毛《おにかげ》。



足を射抜かれ、

その場から動くことのできない楓。



そして今もなお、

どこから飛んでくるとも知れない矢が、

容赦なく仲間たちを狙っている。



このままでは、

負傷した二人を守りながら戦うことなどできない。




真白《ましろ》

(このままでは……!)




真白《ましろ》

「紡《つむぎ》!

 急いで結界を!!」



紡《つむぎ》

「は、はい!!」



真白《ましろ》・紡《つむぎ》

「「守護の理――護りを――」」



二人の神気が広がり、

仲間たちを包む結界が形成される。



その瞬間――



???

「相殺の理――解破」



――バシャァンッ!!



激しい水音が響き渡った。



真白《ましろ》

「……っ!?」



消えたのは、

真白《ましろ》たちの結界ではない。




琥珀《こはく》の身体を幾重にも縛りつけていた、

澪斗の水の鎖だった。




水の鎖は一瞬にして形を失い、

大量の水となって地面へ崩れ落ちていく。




疾風《はやて》

「……なるほど。

 まんまとやられましたね」



真白《ましろ》

「……ええ。

 三国《みくに》様と楓様への攻撃は、

 僕たちの意識を琥珀《こはく》様から逸らすため……!」




雪兎

「最初から狙いは、

 琥珀《こはく》殿の解放だったということですか……」



紡《つむぎ》

「だ、誰ですか……!?」



三国《みくに》

「くっ……!」



三国《みくに》が結界を飛び出し、

琥珀《こはく》のもとへ駆け出す。



――ヒュッ!



――ヒュヒュッ!!



三国《みくに》

「……っ!」



進路を塞ぐように、

無数の矢が次々と地面へ突き刺さる。



三国《みくに》は咄嗟に足を止め、

後方へ跳んだ。



その身体が再び結界の内側へ戻る。



三国《みくに》

「この正確な射撃……

 まさか――」




???

「ありゃ。

 気づかれてしまいましたか」



いつの間に現れたのか――



拘束を解かれた琥珀《こはく》のすぐ隣に、

一人の男が立っていた。



その顔には、

この状況には似つかわしくないほど

軽い笑みが浮かんでいる。



???

「でしたら、

 そこの結界の中で大人しくしていてくださいな。


 一歩でもそこから出たら――

 次は確実に頭を射抜きますよ?」



男は笑みを浮かべたまま、

真白《ましろ》たちを見渡す。



???

「それに……


 その結界だって、

 僕の術で“解破”できるんですから」




琥珀《こはく》は拘束から解放された身体を起こすと、

凝り固まった身体をほぐすように、

大きく伸びをした。



琥珀《こはく》

「手間を掛けて済まなかった。


 ――真月《しんげつ》」










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