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僕は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
封印されし穢れ人――玉繭の里編

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240/258

禍狐とおとぼけ兎

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*




賢い穢れ人の最後に残された顔さえも、

白金の光へ呑み込まれた。



――シュウゥゥ……。



真白

(……どうか安らかに。)



紡

「……終わりましたね……」



張り詰めていた空気が、

ほんのわずかに緩んだ――




賢い穢れ人の姿が完全に消え去ったあと――

その場に残されたのは、

地面に転がるひとつの黒い結晶だけだった。

 


黒曜石のように艶めくそれを、

真白たちが見つめる。



紡

「……? なんでしょう、あれ……」



真白

「分かりません。

 賢い穢れ人の

 中から出てきたようですが……」



その時――



琥珀《こはく》

「これは……

 回収しておいた方がよさそうですね」



その声に、

全員の視線が琥珀《こはく》へ集まる。



そして――



いつの間にか黒曜石は、

琥珀《こはく》の手の中にあった。



琥珀《こはく》は掌の上に転がる黒曜石を、

興味深そうに眺める。



琥珀《こはく》

「…………」



まるで最初から、

そこに立っていたかのような落ち着きだった。



三国《みくに》

「……は?……琥珀《こはく》!?」



三国《みくに》は、

慌てて自らの槍へ目を向けた。



三国《みくに》

「おまっ……!いつの間に!」



琥珀《こはく》はくすりと笑う。



琥珀《こはく》

「さて。

 いつでしょうね?」



琥珀《こはく》

「では――

 私はこれで失礼します」



琥珀《こはく》は黒曜石を握り込むと、

いつものように転移の術を発動させる。



――その瞬間。




――ドゴッ!!



琥珀《こはく》

「がっ……!?」



視界が、激しく反転した。

次に琥珀《こはく》が認識した時には――



その身体は、

凄まじい勢いで地面へ叩きつけられていた。



――ズザァッ!!



土埃を巻き上げながら地面を滑り、

そのままうつ伏せに倒れ込む。



衝撃で握っていた指が開き、

黒曜石が掌から零れ落ちた。



――カランッ。



黒い結晶が地面を跳ね、

琥珀《こはく》から離れた場所まで転がっていく。



琥珀《こはく》

(…………っ!何が起きた?)



琥珀《こはく》自身、

一瞬、理解が追いつかなかった。



確かに自分は、

転移の術を発動させた。



その直後の記憶が――ない。



気づいた時には、

地面に叩き伏せられていた。



琥珀《こはく》

(……なんだ?)



痛む身体を起こしながら、

琥珀《こはく》はゆっくりと顔を上げる。



その視線の先には――

著莪《しゃが》が立っていた。




著莪《しゃが》

「逃がすわけないでしょ」



琥珀《こはく》

「…………」



琥珀《こはく》の眉間に、

わずかに皺が寄る。



琥珀《こはく》

(私は……いつ殴られた?)



著莪《しゃが》が接近した瞬間すら、

記憶にない。



それどころか――



琥珀《こはく》

(なぜ、術が発動しなかった……?)



何かがおかしい。



先ほどから、

こちらが動こうとする瞬間を狙ったかのように、

ことごとく阻まれている。



琥珀《こはく》

(なんだ、この違和感は……)



思い返せば、

おかしなことはそれだけではなかった。



こちらが優位に立てば、

まるで示し合わせたかのように援軍が現れる。



狙いを変えれば、

その先には必ず誰かが待ち構えている。



逃げようとすれば――

術そのものが封じられる。



偶然にしては、

出来すぎている。



まるで、こちらの動きを、

最初から知っていたかのような。




その時。



紡

「……?」



地面に転がった黒曜石へ、

紡の視線が向いた。



紡

「なんでしょう、これ……?」



ころころと転がってきた黒曜石が、

紡の足元で止まる。



紡は不思議そうに首を傾げ、

しゃがみ込み拾い上げようと手を伸ばす。



???

「あー! 駄目駄目!

 いけませんよ!

 無闇に触ってしまっては!」



紡

「うわぁっ!?」



どこからともなく響いた、

場違いなほど朗らかな声。

誰もいなかったはずの場所から。



まるで月明かりを切り取ったような、

淡い光が集まり始めた。


その中心から、ひょこりと一人の男が姿を現した。



雪兎《ゆきと》

「危ないですよ!紡様!」



紡の前へしゃがみ込み、

黒曜石を覗き込む。



雪兎《ゆきと》

「こういうものはですねぇ、

 まず触って大丈夫なのかどうか、

 よーく観察しないといけませんよ!」



紡

「ゆ、雪兎《ゆきと》様!?」



いつもと変わらない、

のんびりとした声音。



その姿を確認した琥珀《こはく》の目が、

大きく見開かれる。



琥珀《こはく》

「……っ!お前は」



この独特の神気、忘れるはずがない。



琥珀《こはく》

「……くっ……くくっ……」



全てを理解した琥珀《こはく》の口元が、

ゆっくりと歪んだ。



琥珀《こはく》

「は……ははは……!」



突然笑い始めた琥珀《こはく》に、

紡がびくっとする。



紡

「な、なんですか……?」



琥珀《こはく》

「そうか……そういうことか……!」



琥珀《こはく》

(すべてが繋がった。

術が発動しなかったのも、

攻撃された瞬間を認識できなかったのも、

こちらの行動が、

異常なほど都合よく阻まれ続けた理由も!)



地面へ伏したまま、

琥珀《こはく》は雪兎《ゆきと》を睨み上げた。



その瞳には怒りと――

わずかな戦慄が宿っていた。



琥珀《こはく》

「月の眷属――雪兎《ゆきと》……!」



雪兎《ゆきと》の笑みがほんの少し深くなり、

ゆっくりと琥珀《こはく》を見る。



雪兎《ゆきと》

「おや?」



そしていつものように愛想よく琥珀《こはく》に声をかける。



雪兎《ゆきと》

「これはこれは、琥珀《こはく》殿!

 お久しゅうございますなぁ!

 いやはや、覚えておいででしたか!」



ぱっと両手を合わせ、



雪兎《ゆきと》

「しかし……

 久方ぶりの再会がこのような形とは。

 誠に残念でございます」



本当に残念そうに、

雪兎《ゆきと》は眉を下げる。

 


琥珀《こはく》

「よく言う……!」



琥珀《こはく》は歯を食いしばりながら、

身体を起こそうとする。



琥珀《こはく》

「まさか……

 お前まで来ていたとはな……!」



吐き捨てるように叫んだ直後――



琥珀《こはく》は、諦めたようにふっと力が抜け、

乾いた笑いを漏らす。




琥珀《こはく》

「……ははっ、今の神々は……

 随分と協力的になったものだ。」

 


雪兎《ゆきと》

「…………」



琥珀《こはく》

「天馬に、烏天狗……

 それだけでも十分すぎるというのに――」



鋭い視線が、

雪兎《ゆきと》を射抜く。



琥珀《こはく》

「先を見通す目に――

 時を操る月の兎までいたとはな……

 最初から、我らに勝ち目など

 なかったようなものじゃないか!」



それを聞いた雪兎《ゆきと》は――

照れたように頬を掻いた。



雪兎《ゆきと》

「いやぁ~。

 そんなに褒めないでくださいな!」



琥珀《こはく》

「褒めてなどいない!」



著莪《しゃが》

「絶対褒めてないよ……」



雪兎《ゆきと》

「おや、そうでしたか?」

 


雪兎《ゆきと》はくすくすと、

いつもの柔らかな笑みを浮かべる。



そして、

こほん、と小さく咳払いした――次の瞬間。



その瞳だけが、

すっと鋭くなった。



雪兎《ゆきと》

「ですが……貴方方が、

 最後まで私達の存在に気づかないこと。

 それこそが、今回の勝利の鍵でございました」



琥珀《こはく》

「…………私達?」


琥珀《こはく》の表情から笑みが消える。



雪兎《ゆきと》

「ええ。」

 


雪兎《ゆきと》は楽しそうに頷くと、

意味ありげに琥珀《こはく》の背後へ視線を向けた。



琥珀《こはく》

「…………?」



その視線を追うように。



琥珀《こはく》が、

ゆっくりと振り返る――。 



雪兎《ゆきと》

「私一人では、

 これだけの戦況の中――

 何度も時を留めながら、

 皆様を支援するのは難しかったでしょう」




琥珀《こはく》

(――“私達”……?

 まさか……もう一人――!?)



雪兎《ゆきと》

「よくやりましたね、月糸《つくし》」



雪兎《ゆきと》がそう言って、

優しく微笑んだ――その瞬間。



――ジャラァンッ!!



琥珀《こはく》

「なっ――!?」



冷たい感触が、

全身を締め上げた。



見れば、

いつの間にか――



澪斗の水の鎖が、

琥珀《こはく》の両腕、胴、両脚へ

幾重にも巻きついていた。



琥珀《こはく》

「っ!!?」



動こうとするも、――ギチッ!

水の鎖がさらに締まる。



琥珀《こはく》

「っ!!!」



澪斗

「…………」



少し離れた場所で澪斗が、

静かに印を結んでいた。



琥珀《こはく》

(……分が悪いなどという話ではない。

 気づいた時には、

 すべてが終わっている……)



雪兎《ゆきと》

「さて」



雪兎《ゆきと》が、ゆっくりと琥珀《こはく》の前へ歩み寄る。


いつもの柔らかな笑顔だが。

その目だけは――

月夜のように冷たかった。



雪兎《ゆきと》

「禍狐の琥珀《こはく》。

 貴方には――」



琥珀《こはく》の前で足を止める。



雪兎《ゆきと》

「お聞きしたいことが、

 山ほどあったのですよ」



琥珀《こはく》

「…………」



雪兎《ゆきと》は、

にっこりと笑った。



雪兎《ゆきと》

「それでは――」



水の鎖に拘束された琥珀《こはく》を見下ろし。



雪兎《ゆきと》

「尋問を始めましょうか」



琥珀《こはく》

「…………」




最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!

ブクマや評価など頂けたら大変励みになります!

次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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