穢れ人にも輪廻はありますか?
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(*˘︶˘*).。.:*
著莪
「僕もいるんだけど?」
――ザシュッ!!
賢い穢れ人
「――っ!?」
鋭い斬撃音とともに、
背中を灼けるような痛みが駆け抜けた。
鮮血が宙へ散る。
大きく前へよろめきながらも、
賢い穢れ人は強引に体勢を立て直し、
荒い息を吐きながら振り返る。
そこに立っていたのは――
血のついた刀を片手に、
穏やかな笑みを浮かべる著莪だった。
著莪
「随分頑丈なんだね。
今の一撃でも、まだ胴が繋がってるなんて」
著莪は刃についた血を静かに払いながら、
どこか感心したように視線を賢い穢れ人へむけた。
賢い穢れ人は背中の激痛に顔を歪め、
浅い呼吸を繰り返しながら問い詰めた。
賢い穢れ人
「……お前は、琥珀様と戦っていたはず……っ」
著莪
「ん? あぁ、
琥珀なら――天馬の子達に捕らえられたよ」
まるで世間話でもするように、
著莪はちらりと後方へ視線を向けた。
その視線を追うように、
賢い穢れ人も後方へ目を向ける。
飛び込んできた光景に、
その瞳が驚愕に大きく見開かれた。
そこには、三国の放った神槍によって地面へ縫い付けられ、身動きを封じられた琥珀の姿があった。
賢い穢れ人
「……琥珀様……!」
次の瞬間、
賢い穢れ人は傷ついた身体を引きずるようにして、琥珀のもとへ向かおうとする。
だが、その一歩は著莪によって阻まれる。
著莪
「君には少し、聞きたいこともあるんだよね。――禍狐の琥珀とは、どういう関係なのかな?」
問いかける声は、どこまでも柔らかく優しい。
けれど、その表情は恐ろしいほどに冷ややかだった。目は一切笑っておらず、ただ口元だけが歪んだ笑みを形作っている。
賢い穢れ人
「関係?関係とはなんだ?」
心底理解できないといった風に首をかしげる穢れ人に、著莪は小さく息を吐いた。
著莪
「なるほど……。
まず、そこからか……」
顎へ指を添え、少し考え込む。
著莪
「うーん……そうだね」
やがて、
幼子へ言葉を教えるように口を開いた。
著莪
「理由や形はどうあれ――
自分じゃない誰かと繋がることだよ」
賢い穢れ人
「自分ではない誰かと繋がる?」
賢い穢れ人は眉を寄せる。
どうやらこれでも意味が伝わらないらしい。
著莪
「うーん……
まだ分かりづらいか」
少し考え――
著莪
「なら君と災禍の神は、
親神と、そこから生まれた眷属――
いわば“親子”だね」
それから著莪は、
自分自身を指差した。
著莪
「僕と真白君達は、
仕えている親神は同じ。
ただ、僕は親神の“子”から生まれて、
真白君は親神様から直接生まれている。
生まれ方は違っても、
同じ狐の眷属だから――“同族”」
著莪は視線を琥珀へ向け、
少し考える。
著莪
「琥珀と……
あの火の眷属、灰燼は……
”仲間”になるのかな」
賢い穢れ人
「…………」
しばらく考え込んでいた賢い穢れ人が、
やがて口を開いた。
賢い穢れ人
「……違う」
著莪
「ん?」
賢い穢れ人
「父様以外は……どれも違う」
著莪の目が、
僅かに細くなる。
賢い穢れ人
「父様に言われたから……
琥珀様の言うことを聞いていた」
著莪
「…………」
著莪の表情から、
笑みが僅かに薄れた。
著莪
(……禁忌の眷属が二人も介入してきたから、
てっきりこの子自身が、
何か重要な存在なのかと思ったけど……)
目の前の穢れ人を、改めて観察する。
人に近い姿。
言葉を理解し自分で考え、問いに答える知性。
明らかに、通常の穢れ人とは違う。
著莪
(……どうやら違うようだね。
ならば、なぜあの二人は、
わざわざここへ……?)
著莪が思考を巡らせた――その時。
優羽
「著莪兄様――!」
遠くから声が飛んできた。
著莪
「ん?」
優羽
「ごめんなさい!
油断してしまいました!」
優羽が駆けてくる。
衣服のあちこちは裂け、頬にも小さな傷が走っていたが、それでも足取りに乱れはない。
著莪
「優羽。
随分手酷く吹っ飛ばされてたけど、
身体は大丈夫かい?」
優羽
「はい!かすり傷です!」
著莪はちらりと、
優羽のぼろぼろになった衣服を見る。
著莪
「ふふっ。
流石だね」
著莪
(本当にかすり傷かな……)
そんな言葉を飲み込み、
著莪は剣を握り直した。
著莪
「じゃあ――
さっさとあいつを祓っちゃおうか」
優羽
「はい!」
著莪
「優羽は僕と交代ね。
真白君達をちゃんと守るんだよ」
優羽
「お任せください!」
その会話を聞きながら――
賢い穢れ人は、
静かに右手を持ち上げた。
背中から流れた血が、
地面へぽたり、ぽたりと落ちる。
著莪の一撃は思ったよりも深く、
賢い穢れ人
(くっ、まともに動くことは難しいか……
ならば――)
賢い穢れ人
「…………」
――ゴォッ!!
周囲の空気が、一瞬にして凍りつく。
賢い穢れ人の周囲に無数の冷気が渦巻き、
一本、二本、十本と――
鋭利な氷槍が次々と作り出されていく。
賢い穢れ人
「――消えろ」
――ヒュヒュヒュヒュンッ!!
無数の氷槍が、
一斉に二人へ襲いかかる。
著莪
「!」
優羽
「来ます!」
ガキィンッ!!ガァンッ!!キィンッ!!
優羽はその場から動かずに、
真白達の結界へ届きそうになる氷槍だけを見極め、次々と刃で弾き落としていく。
対して著莪は――
飛来する氷槍の隙間を縫い、
一直線に賢い穢れ人との距離を詰めていた。
賢い穢れ人
「来るな……!」
新たな氷槍を作ろうとした――
その時には。
著莪
「――遅いよ」
著莪は目の前にいた。
賢い穢れ人
「――っ」
著莪の刃が閃き、
今度こそ穢れ人の身体を一刀両断にした。
――ドサッ。
刀についた血を振り払いながら、
著莪は倒れた穢れ人を見下ろす。
著莪
「…………」
――ズ……。
著莪
「……へぇ」
傷口が蠢いていた。
黒い靄が集まり、
切断された身体を繋ぎ合わせようとしている。
賢い穢れ人
「……ぐ……っ……」
著莪
「……まだ再生するのか」
その表情から、
完全に笑みが消える。
著莪
「真白君の神気を付与してあるのに、
祓いきれない……」
刀身を見つめると淡い白金の光があった。
確かに真白の神気は残っている。
著莪
「やっぱりこの穢れ人……
他の奴らとは違うみたいだね」
疾風
「著莪様!」
声とともに、
それぞれの戦いを終えた者達が集まってくる。
疾風、三国、火の童子、そして澪斗。
少し遅れて、
義久達――猫の眷属三兄弟も姿を現した。
義久
「…………」
地面でなお再生を続けようとする穢れ人へ、
冷めた眼差しを向ける。
義久
「武器への神気付与では……
祓いきれませんでしたか」
義久の呟きに、穢れ人は――
賢い穢れ人
「……ぐ……く……」
苦しげな呻き声を漏らすことしかできず、
立ち上がる力すら、もう残されてはいなかった。
それでも災禍の神の神気が身体にしみつくように残り、彼が事切れることさえ許さない。
そこへ、
優羽と共に真白と紡がやって来た。
著莪
「真白君、ごめんね。
武器への付与だけでは祓いきれなかったんだ」
著莪の言葉を聞きながら、
真白は倒れ伏す賢い穢れ人へと目を向けた。
賢い穢れ人
「……ぐ……ぅ……」
掠れた呻き声。
死ぬこともできず、ただ苦しみだけを与えられ続けているその姿に――
真白の眉が、悲しげに寄せられた。
敵として何度も刃を向けられた相手。
それでも今の真白の瞳にあるのは、
敵意ではなく、ただ苦しみ続けるひとつの命を見つめるような――
痛ましげな色だけが滲んでいた。
真白
「……紡」
紡
「……はい」
真白
「苦しみから……
解放してあげましょう」
紡もまた穢れ人を見つめ、
小さく頷いた。
紡
「はい……」
真白は一歩前へ出る。
真白
「皆さん。
少し離れていてください」
義久たちが静かに距離を取る。
真白と紡は、
苦しみ続ける穢れ人の前に並び立つと――
そっと両手を合わせた。
二人の身体から、
白く澄んだ神気が立ち昇っていく。
真白・紡
「「浄化の理――」」
重なった声とともに、
柔らかな光が穢れ人を包み込む。
真白・紡
「「祓い給え……」」
真白と紡が印を結ぶと、穢れ人の足元にまばゆい五芒星陣が浮かび上がり、天を突く光の柱が立ち昇った。
その聖なる光の中で、賢い穢れ人は己の肉体が光の粒子となって溶けていくのを、ただ静かに見つめていた。
賢い穢れ人
(我ら穢れ人にも……
輪廻などというものが、あるのだろうか……)
消えゆく意識の中で、
ふと――ひとつの姿が浮かんだ。
賢い穢れ人
(次は、あいつと――)
なぜ、そんなことを願ったのか。
今の彼にはまだ分からなかった。
その続きを思い描くより先に、賢い穢れ人の姿は聖なる光の中へ溶けるように消えていった。
最後までお付き合いいただき、
ほんとうにありがとうございます!
次回もお付き合いいただけたら幸いです。
(人´∀`).☆.。.:*・゜




