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僕は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
封印されし穢れ人――玉繭の里編

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237/258

三国が超えるもの

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*

――その様子を。



少し離れた場所で天馬たちと刃を交えながら、

琥珀《こはく》もまた視界の端で捉えていた。



疾風と楓に挟まれ、

防戦一方へ追い込まれていく賢い穢れ人。



そして――



真白たちの前には、

いつの間にか優羽《ゆうは》が立っている。



琥珀《こはく》

「…………」



――ギィンッ!!



三国《みくに》の槍を刀で受け止め、

琥珀《こはく》は鋭く弾き返す。



その直後、死角から迫った影月《かげつき》の斬撃を身を沈めてかわし、続けざまに飛んできた鬼鹿毛《おにかげ》の蹴りを腕で受け流す。



――ドッ!



数歩間合いをとる。



それでも琥珀《こはく》の意識は、

目の前の三人だけには向いていなかった。



琥珀《こはく》

(……おかしい)



ちらりと視線を巡らせる。



琥珀《こはく》

(この戦場……

 何かがおかしい)



間違いなく、

自分たちが優位に立っていたはずだった。



真白たちは追い詰められ、

澪斗も琥珀《こはく》自身が足止めしていた。



それなのに――



いつの間にか、

戦況そのものがひっくり返り始めている。



琥珀《こはく》

(どういう事だ……?)



眉間に、わずかに皺が寄った。



その時――



三国《みくに》「――おい」



低い声が鼓膜を揺らす。

琥珀《こはく》が視線を戻した、その瞬間だった。



槍を構えた三国《みくに》が、これ以上ないほど不機嫌な顔で琥珀《こはく》を睨みつけていた。



三国《みくに》

「俺たち相手に考え事とは……随分と余裕だな」




三国《みくに》は、ちらりと左右へ視線を走らせる。




三国《みくに》

「どうやら俺たち、

 侮られてるぞ。鬼鹿毛《おにかげ》、影月《かげつき》」



影月《かげつき》

「なっ――!?」



影月《かげつき》の顔が見る見る引きつっていく。



影月《かげつき》

(あぁー、もう!

 なんで三国《みくに》様を挑発するようなことを!)



鬼鹿毛《おにかげ》

(もう帰りたい……これなら……)



鬼鹿毛《おにかげ》はげんなりと肩を落としながらも、

武器を構え直す。



そして琥珀《こはく》へ険しい視線を向けた――つもりが、

思わず本音が口から漏れた。



鬼鹿毛《おにかげ》

「小雲雀様のほうがよかった……」



琥珀《こはく》

「……小雲雀?」



鬼鹿毛《おにかげ》の零した呟きに、

琥珀《こはく》は改めて三国《みくに》へ視線を向ける。



そして何かに気づいたのか、

小さく鼻で笑った。



琥珀《こはく》

「そうですか。

 貴方、あの天馬の軍神のご子息でしたか。

 道理で、どこか見覚えがあると思いました」




そう言って剣を軽く振り、

切っ先を三国《みくに》へ向ける。



琥珀《こはく》

「ですが……ふっ、くく……

 実力の方は、お母様にはまだまだ

 及ばないようですね」



そう言って口元に、

いつもの薄い笑みを浮かべた。



琥珀《こはく》

「でもおかしいですね、

 昔小雲雀と手合わせした時、

 彼女の槍技はそれこそ、

 よそ見する暇もないほどに

 凄まじかったですが……貴方は、

 鍛錬してから出直してきてはいかがです?」




ぴたりと三国《みくに》の動きが止まった。




三国《みくに》

「…………」



影月《かげつき》

(っ!? よりによって、

 三国《みくに》様が一番気にしていることを!)



鬼鹿毛《おにかげ》

(挑発の天才なのか……?

 ……ほら、三国《みくに》様……

 凄まじく怒ってるじゃないか……)



数秒の沈黙。



三国《みくに》《みくに》

「……ははっ、ハハハハ!

 お前、面白いこと言うな……」



三国《みくに》の口元は笑っているようだが、

その目は――まったく笑っていない。



三国《みくに》

「鍛錬?なんで?

 別に要らないだろ、そんなもん」



首を、僅かに傾ける。



―――ズンッ!!



大気を押し潰すような膨大な神気が、

一気に爆発した。



地面の砂埃が巻き上がり、

足元の小石がカタカタと震え出す。



三国《みくに》

「ちょっと今から――」



槍をくるりと一回転。



――ドンッ!



石突《いしづき》を地面へ叩きつけるとともに言い放つ。




三国《みくに》

「――本気出すわ」



鬼鹿毛《おにかげ》の頬が、ぴくりと引きつった。



鬼鹿毛《おにかげ》

(ほらぁ……)



ちらりと三国《みくに》を見る。



鬼鹿毛《おにかげ》

(めちゃくちゃ久しぶりに……

 本気で怒ってるよ……)



隣では影月《かげつき》が、

すでに遠い目をしていた。



影月《かげつき》

(うわ……)



すっ、と琥珀《こはく》を見る。



その瞳に浮かんでいたのは、

敵に向けるものとは思えない――



もはや、哀れみに近いものだった。


影月《かげつき》

(あの人……終わったな)



琥珀《こはく》

「…………?」



なぜか突然、

二人から憐れむような視線を向けられ――



琥珀《こはく》の眉が、わずかに寄った。



琥珀《こはく》

(……なんだ、その目は)



次の瞬間。


――ガァンッ!!



三国《みくに》の姿が、琥珀《こはく》の視界から完全に消失した。



琥珀《こはく》

「――ッ!?」



思考すら追いつかない。



先ほどまで数メートル先にいたはずの三国《みくに》が、

次の瞬間には眼前へ迫っていた。




一直線に突き出された槍の穂先が、

琥珀《こはく》の喉元へ迫る。



――ヒュンッ!!



琥珀《こはく》

「っ!」



――キィンッ!!



咄嗟に剣を滑り込ませ、

穂先を横へ逸らす。



一撃目を凌いだ時には、

すでに二撃目が迫っていた。



――キンッ!



琥珀《こはく》

「くっ……!」



さらに三撃目――キンッ!



弾かれれば、

即座に軌道を変えて次を繰り出す。



三国《みくに》

「ほら!ほらぁ―!

 お望み通り、よそ見できなくしてやるよ!!」



言葉の終わりを待たず、

怒濤の連突が襲いかかる!




キンッ!ガンッ!キィンッ!キンッ――!!



火花が散り、空気が弾ける。

狙いを変えながら繰り出される穂先を、

琥珀《こはく》は必死に受け流すが――



琥珀《こはく》

(くっ……!

 急になんだ、この速さは……!)




反撃する暇など、まるでない。


一撃を逸らせば、

その瞬間には次の穂先が迫っている。



完全な――防戦一方。



その時。



戦場の向こうから、

絶叫が響き渡った。



灰燼《かいじん》

「琥珀《こはく》ぁぁぁぁぁぁっ!!

 すまん――!!」



琥珀《こはく》

「――!」



聞き覚えのある声に、

琥珀《こはく》の瞳が大きく見開かれる。



琥珀《こはく》

(灰燼《かいじん》!?)



ほんの一瞬。



視線が、

声のした方向へ流れた。



琥珀《こはく》

(まさか――

 やられたのか!?)




――その一瞬を。



三国《みくに》が、見逃すはずがなかった。



――ドシュッ!!



琥珀《こはく》

「ぐっ……!」



寸前で身を捻ったことで、

狙われた急所から僅かに軌道が逸れ――



三国《みくに》の槍が、

琥珀《こはく》の脇腹を貫いた。



三国《みくに》

「――だからよそ見すんなって言っただろ」



そのまま三国《みくに》は槍を押し込み、

琥珀《こはく》の身体を地面へ叩き伏せる。



――ドンッ!!



貫通した穂先が、

深々と大地へ突き刺さった。



琥珀《こはく》

「がっ……!」




身体ごと、

地面へ縫い留められた。



琥珀《こはく》

「くっ……!」



三国《みくに》は槍を握ったまま、

地面に縫い留めた琥珀《こはく》を見下ろす。



三国《みくに》

「お前に言われなくたって、

 母様にまだまだ届かないのなんて、

 自分が一番わかってるよ」

 


琥珀《こはく》

「…………」



その瞳が、

真っ直ぐ琥珀《こはく》を射抜いた。



槍を握る手に、

ぐっと力がこもる。



三国《みくに》

「母様を超えるために、

 今の俺に足りないものは――」



琥珀《こはく》の目が、

僅かに細められる。



三国《みくに》《みくに》

「経験値だけだ」



琥珀《こはく》

「…………!」



その言葉に――



琥珀《こはく》の目が、

小さく見開かれた。



脳裏に蘇ったのは、

遠い昔に聞いた声。



小雲雀《こひばり》

『私に足りないものは、

 経験値だけです』



凛とした声と、

自信に満ちた眼差し。



小雲雀《こひばり》

『力量と技術だけなら、

 父上などとうに超えております――』



琥珀《こはく》

「…………」



一瞬の沈黙。



琥珀《こはく》

「……ふっ……ふふ……」



肩を震わせる。



三国《みくに》

「……なんだよ」



琥珀《こはく》

「まさか……」




痛みに顔を歪めながらも、

琥珀《こはく》はどこか可笑しそうに三国《みくに》を見上げた。



琥珀《こはく》

「息子にまで、

 まったく同じことを言われるとは……」




三国《みくに》

「……?」



琥珀《こはく》

「やはり貴方は――

 小雲雀によく似ていますね。


 どうやら私は……

 藪をつついて蛇を出してしまったようだ」




そう話しながらも――

琥珀《こはく》の手は、密かに槍へ伸びていた。




琥珀《こはく》は軽口を叩いて意識を逸らしながら、

密かに突き刺さった槍から抜け出そうと試みる。



だが――



槍はまるで巨大な楔《くさび》のように

大地へ深々と打ち込まれ、

ぴくりとも動かなかった。



鬼鹿毛《おにかげ》

「無駄だ。

 我ら天馬の槍は、

 天界で最も重い武器として知られている」



鬼鹿毛《おにかげ》が、

腕を組みながら琥珀《こはく》を見下ろしていた。



影月《かげつき》

「貴方も天界にいたのなら、ご存知でしょう?」



琥珀《こはく》

「……ええ。

 もちろん知っていますよ」



琥珀《こはく》は槍から手を離し、

小さく息を吐く。



そして、三国《みくに》の槍をまじまじと見つめた。



琥珀《こはく》

「ですが……

 ここまでの重量とは思いませんでした。

 小雲雀はあの細腕で、

 随分と華麗に振るっていたものですから」



三国《みくに》が僅かに眉を上げる。



三国《みくに》

「当たり前だろ!

 母様は天馬一の当主なんだからな!


 あぁー、でも――

 いずれ俺が天馬一になるんだけどな!」



そう言って三国《みくに》は――



先ほどまで殺気を放っていた男と、

本当に同一人物なのかと疑いたくなるほどの、



太陽のような笑顔を琥珀《こはく》へ向けた。




琥珀《こはく》

「…………」



琥珀《こはく》の口元が、

僅かに引きつる。



琥珀《こはく》

「……そうですか。

 ご勝手にどうぞ」



三国《みくに》

「……?おう!」



一切嫌味が通じない三国《みくに》に琥珀《こはく》は小さく息を吐くと、ふと視線を横へ向けた。



琥珀《こはく》

「ですが――

 あの白い狐の元へ行かなくてよろしいのですか?」



三国《みくに》

「白い狐?」



三国《みくに》は一瞬首を傾げるも、



三国《みくに》

「あぁ、真白様たちのことか。

 必要ないだろ」



三国《みくに》は、

真白たちのいる方向へちらりと目を向ける。




三国《みくに》

「あっちには疾風と、

 著莪《しゃが》様に優羽《ゆうは》様もいるんだから。

 俺たちが行く必要ないだろ」



槍の柄に手をかけたまま、三国《みくに》はケロリと言い放つ。それから、地面へ縫い留められた琥珀《こはく》を見ると、



三国《みくに》

「それに、俺たちの任務は、

 あんたの捕縛と見張りだよ。 

 ……なっ、お前たち!」




鬼鹿毛《おにかげ》・影月《かげつき》

「「仰る通りです! 三国《みくに》様!

 任務完了、お疲れ様です!!」」



二人とも、

心の底からほっとした顔をしていた。



鬼鹿毛《おにかげ》

(……よかったぁー!)



影月《かげつき》

(いつもの三国《みくに》様に戻った……!

 ほんっとによかった……!)



三国《みくに》《みくに》

「……?」



二人の安堵など露ほども知らず――



三国《みくに》《みくに》だけが、

不思議そうに首を傾げていた。



最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!


次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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