三国が超えるもの
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(*˘︶˘*).。.:*
――その様子を。
少し離れた場所で天馬たちと刃を交えながら、
琥珀もまた視界の端で捉えていた。
疾風と楓に挟まれ、
防戦一方へ追い込まれていく賢い穢れ人。
そして――
真白たちの前には、
いつの間にか優羽が立っている。
琥珀
「…………」
――ギィンッ!!
三国の槍を刀で受け止め、
琥珀は鋭く弾き返す。
その直後、死角から迫った影月の斬撃を身を沈めてかわし、続けざまに飛んできた鬼鹿毛の蹴りを腕で受け流す。
――ドッ!
数歩間合いをとる。
それでも琥珀の意識は、
目の前の三人だけには向いていなかった。
琥珀
(……おかしい)
ちらりと視線を巡らせる。
琥珀
(この戦場……
何かがおかしい)
間違いなく、
自分たちが優位に立っていたはずだった。
真白たちは追い詰められ、
澪斗も琥珀自身が足止めしていた。
それなのに――
いつの間にか、
戦況そのものがひっくり返り始めている。
琥珀
(どういう事だ……?)
眉間に、わずかに皺が寄った。
その時――
三国「――おい」
低い声が鼓膜を揺らす。
琥珀が視線を戻した、その瞬間だった。
槍を構えた三国が、これ以上ないほど不機嫌な顔で琥珀を睨みつけていた。
三国
「俺たち相手に考え事とは……随分と余裕だな」
三国は、ちらりと左右へ視線を走らせる。
三国
「どうやら俺たち、
侮られてるぞ。鬼鹿毛、影月」
影月
「なっ――!?」
影月の顔が見る見る引きつっていく。
影月
(あぁー、もう!
なんで三国様を挑発するようなことを!)
鬼鹿毛
(もう帰りたい……これなら……)
鬼鹿毛はげんなりと肩を落としながらも、
武器を構え直す。
そして琥珀へ険しい視線を向けた――つもりが、
思わず本音が口から漏れた。
鬼鹿毛
「小雲雀様のほうがよかった……」
琥珀
「……小雲雀?」
鬼鹿毛の零した呟きに、
琥珀は改めて三国へ視線を向ける。
そして何かに気づいたのか、
小さく鼻で笑った。
琥珀
「そうですか。
貴方、あの天馬の軍神のご子息でしたか。
道理で、どこか見覚えがあると思いました」
そう言って剣を軽く振り、
切っ先を三国へ向ける。
琥珀
「ですが……ふっ、くく……
実力の方は、お母様にはまだまだ
及ばないようですね」
そう言って口元に、
いつもの薄い笑みを浮かべた。
琥珀
「でもおかしいですね、
昔小雲雀と手合わせした時、
彼女の槍技はそれこそ、
よそ見する暇もないほどに
凄まじかったですが……貴方は、
鍛錬してから出直してきてはいかがです?」
ぴたりと三国の動きが止まった。
三国
「…………」
影月
(っ!? よりによって、
三国様が一番気にしていることを!)
鬼鹿毛
(挑発の天才なのか……?
……ほら、三国様……
凄まじく怒ってるじゃないか……)
数秒の沈黙。
三国《みくに》
「……ははっ、ハハハハ!
お前、面白いこと言うな……」
三国の口元は笑っているようだが、
その目は――まったく笑っていない。
三国
「鍛錬?なんで?
別に要らないだろ、そんなもん」
首を、僅かに傾ける。
―――ズンッ!!
大気を押し潰すような膨大な神気が、
一気に爆発した。
地面の砂埃が巻き上がり、
足元の小石がカタカタと震え出す。
三国
「ちょっと今から――」
槍をくるりと一回転。
――ドンッ!
石突を地面へ叩きつけるとともに言い放つ。
三国
「――本気出すわ」
鬼鹿毛の頬が、ぴくりと引きつった。
鬼鹿毛
(ほらぁ……)
ちらりと三国を見る。
鬼鹿毛
(めちゃくちゃ久しぶりに……
本気で怒ってるよ……)
隣では影月が、
すでに遠い目をしていた。
影月
(うわ……)
すっ、と琥珀を見る。
その瞳に浮かんでいたのは、
敵に向けるものとは思えない――
もはや、哀れみに近いものだった。
影月
(あの人……終わったな)
琥珀
「…………?」
なぜか突然、
二人から憐れむような視線を向けられ――
琥珀の眉が、わずかに寄った。
琥珀
(……なんだ、その目は)
次の瞬間。
――ガァンッ!!
三国の姿が、琥珀の視界から完全に消失した。
琥珀
「――ッ!?」
思考すら追いつかない。
先ほどまで数メートル先にいたはずの三国が、
次の瞬間には眼前へ迫っていた。
一直線に突き出された槍の穂先が、
琥珀の喉元へ迫る。
――ヒュンッ!!
琥珀
「っ!」
――キィンッ!!
咄嗟に剣を滑り込ませ、
穂先を横へ逸らす。
一撃目を凌いだ時には、
すでに二撃目が迫っていた。
――キンッ!
琥珀
「くっ……!」
さらに三撃目――キンッ!
弾かれれば、
即座に軌道を変えて次を繰り出す。
三国
「ほら!ほらぁ―!
お望み通り、よそ見できなくしてやるよ!!」
言葉の終わりを待たず、
怒濤の連突が襲いかかる!
キンッ!ガンッ!キィンッ!キンッ――!!
火花が散り、空気が弾ける。
狙いを変えながら繰り出される穂先を、
琥珀は必死に受け流すが――
琥珀
(くっ……!
急になんだ、この速さは……!)
反撃する暇など、まるでない。
一撃を逸らせば、
その瞬間には次の穂先が迫っている。
完全な――防戦一方。
その時。
戦場の向こうから、
絶叫が響き渡った。
灰燼
「琥珀ぁぁぁぁぁぁっ!!
すまん――!!」
琥珀
「――!」
聞き覚えのある声に、
琥珀の瞳が大きく見開かれる。
琥珀
(灰燼!?)
ほんの一瞬。
視線が、
声のした方向へ流れた。
琥珀
(まさか――
やられたのか!?)
――その一瞬を。
三国が、見逃すはずがなかった。
――ドシュッ!!
琥珀
「ぐっ……!」
寸前で身を捻ったことで、
狙われた急所から僅かに軌道が逸れ――
三国の槍が、
琥珀の脇腹を貫いた。
三国
「――だからよそ見すんなって言っただろ」
そのまま三国は槍を押し込み、
琥珀の身体を地面へ叩き伏せる。
――ドンッ!!
貫通した穂先が、
深々と大地へ突き刺さった。
琥珀
「がっ……!」
身体ごと、
地面へ縫い留められた。
琥珀
「くっ……!」
三国は槍を握ったまま、
地面に縫い留めた琥珀を見下ろす。
三国
「お前に言われなくたって、
母様にまだまだ届かないのなんて、
自分が一番わかってるよ」
琥珀
「…………」
その瞳が、
真っ直ぐ琥珀を射抜いた。
槍を握る手に、
ぐっと力がこもる。
三国
「母様を超えるために、
今の俺に足りないものは――」
琥珀の目が、
僅かに細められる。
三国《みくに》
「経験値だけだ」
琥珀
「…………!」
その言葉に――
琥珀の目が、
小さく見開かれた。
脳裏に蘇ったのは、
遠い昔に聞いた声。
小雲雀
『私に足りないものは、
経験値だけです』
凛とした声と、
自信に満ちた眼差し。
小雲雀
『力量と技術だけなら、
父上などとうに超えております――』
琥珀
「…………」
一瞬の沈黙。
琥珀
「……ふっ……ふふ……」
肩を震わせる。
三国
「……なんだよ」
琥珀
「まさか……」
痛みに顔を歪めながらも、
琥珀はどこか可笑しそうに三国を見上げた。
琥珀
「息子にまで、
まったく同じことを言われるとは……」
三国
「……?」
琥珀
「やはり貴方は――
小雲雀によく似ていますね。
どうやら私は……
藪をつついて蛇を出してしまったようだ」
そう話しながらも――
琥珀の手は、密かに槍へ伸びていた。
琥珀は軽口を叩いて意識を逸らしながら、
密かに突き刺さった槍から抜け出そうと試みる。
だが――
槍はまるで巨大な楔のように
大地へ深々と打ち込まれ、
ぴくりとも動かなかった。
鬼鹿毛
「無駄だ。
我ら天馬の槍は、
天界で最も重い武器として知られている」
鬼鹿毛が、
腕を組みながら琥珀を見下ろしていた。
影月
「貴方も天界にいたのなら、ご存知でしょう?」
琥珀
「……ええ。
もちろん知っていますよ」
琥珀は槍から手を離し、
小さく息を吐く。
そして、三国の槍をまじまじと見つめた。
琥珀
「ですが……
ここまでの重量とは思いませんでした。
小雲雀はあの細腕で、
随分と華麗に振るっていたものですから」
三国が僅かに眉を上げる。
三国
「当たり前だろ!
母様は天馬一の当主なんだからな!
あぁー、でも――
いずれ俺が天馬一になるんだけどな!」
そう言って三国は――
先ほどまで殺気を放っていた男と、
本当に同一人物なのかと疑いたくなるほどの、
太陽のような笑顔を琥珀へ向けた。
琥珀
「…………」
琥珀の口元が、
僅かに引きつる。
琥珀
「……そうですか。
ご勝手にどうぞ」
三国
「……?おう!」
一切嫌味が通じない三国に琥珀は小さく息を吐くと、ふと視線を横へ向けた。
琥珀
「ですが――
あの白い狐の元へ行かなくてよろしいのですか?」
三国
「白い狐?」
三国は一瞬首を傾げるも、
三国
「あぁ、真白様たちのことか。
必要ないだろ」
三国は、
真白たちのいる方向へちらりと目を向ける。
三国
「あっちには疾風と、
著莪様に優羽様もいるんだから。
俺たちが行く必要ないだろ」
槍の柄に手をかけたまま、三国はケロリと言い放つ。それから、地面へ縫い留められた琥珀を見ると、
三国
「それに、俺たちの任務は、
あんたの捕縛と見張りだよ。
……なっ、お前たち!」
鬼鹿毛・影月
「「仰る通りです! 三国様!
任務完了、お疲れ様です!!」」
二人とも、
心の底からほっとした顔をしていた。
鬼鹿毛
(……よかったぁー!)
影月
(いつもの三国様に戻った……!
ほんっとによかった……!)
三国《みくに》
「……?」
二人の安堵など露ほども知らず――
三国《みくに》だけが、
不思議そうに首を傾げていた。
最後までお付き合いいただき、
ほんとうにありがとうございます!
次回もお付き合いいただけたら幸いです。
(人´∀`).☆.。.:*・゜




