烏天狗に挟まれて
いつもお読みいただきありがとうございます!
最後までお付き合いいただけたら幸いです。
(*˘︶˘*).。.:*
――ガキィンッ!!
最後の氷槍が優羽の刃に弾かれて宙を舞った。
砕けた氷片が陽光を反射し、きらきらと光を散らしながら地面へ降り注ぐ。その中心で優羽は刀を振り抜いた姿勢のまま、静かに賢い穢れ人を見据えていた。
つい先ほどまで真白たちへ殺到していた無数の氷槍は、一本残らず地面へ叩き落とされている。
結界へ神気を注いでいた紡は、目の前に立つ優羽の背中をぽかんと見つめていた。
紡
「……ゆ、優羽さん……」
その瞳が、きらきらと輝き始める。
紡
「かっこいいですぅ……」
思わず漏れた、
心の底からの声だった。
真白
「紡! 気持ちは分かりますが!
今は見惚れている場合じゃありません!
集中してください!」
真白は結界へ神気を注いだまま、
横目で紡を一喝する。
紡
「は、はいっ! すみません!」
慌てて両手へ力を込め直す紡。
それでも一瞬だけ、ちらっ、
と優羽の背中を盗み見た。
紡
(やっぱり優羽さんはかっこいいですぅ……)
賢い穢れ人は、
じっと優羽を見つめていた。
賢い穢れ人
「……お前……どこから現れた?」
低い声とともに、
細められた瞳が優羽を値踏みするように動く。
優羽は答えない。
刀身についた細かな氷片を、
軽くひと振りして払い落とす。
――シャッ。
そして剣を構え直すと、
口元にわずかな笑みを浮かべた。
優羽
「……さぁ。どこでしょうね。」
賢い穢れ人の眉が、わずかに動いた。
賢い穢れ人
(……こいつ……)
視線が地面へ落ちる。
そこには、無数の氷槍の残骸が散乱していた。
賢い穢れ人
(我の氷槍を……
あれだけの数を、すべて……)
初めてだった。
目の前の者をただの邪魔者ではなく、
――明確な“脅威”として捉えたのは。
その、ほんの一瞬。
賢い穢れ人の意識が優羽へと向いた隙を、
疾風は見逃さなかった。
一気に地を蹴り間合いを詰めた疾風が、
抜き放った太刀を横薙ぎに振るう。
――ヒュンッ!
鋭い刃が、賢い穢れ人の首筋へ迫る。
賢い穢れ人
「……っ!」
寸前で上体を大きく反らす賢い穢れ人。疾風の太刀が鼻先を掠め、数本の髪を宙へ散らした。
疾風
「ちっ……! いい反応をする」
疾風は返す刃で斜め下から斬り上げる。
――ギィンッ!!
今度は、甲高い金属音が響いた。
疾風
「なっ……!?」
疾風の太刀を受け止めていたのは――
一本の、透き通った氷の刀。
賢い穢れ人の右手を覆うように冷気が渦巻き、
瞬く間に刀身を形作っていた。
白い冷気が、刃から細く立ち昇る。
賢い穢れ人
「……なるほど」
太刀と氷刀を噛み合わせたまま、賢い穢れ人がゆっくりと疾風を見る。
賢い穢れ人
「お前も……鬱陶しいな」
疾風
「お前に言われたくない!」
疾風が力任せに太刀を弾く。
――ガキィンッ!
互いの刃が離れた直後、
疾風は一気に踏み込み、
鋭い袈裟斬りを繰り出す。
だが賢い穢れ人は氷刀で太刀を受け流すと、
その勢いのまま疾風の脇腹へ刃を返した。
――ヒュンッ!
疾風
「っ!」
疾風は上体を捻り、紙一重でその刃をかわす。
氷の切っ先が衣を掠め、白い布の切れ端が宙を舞った。
賢い穢れ人
「――遅い」
かわした先を読んでいたかのように、
氷刀が即座に軌道を変える。
狙いは――首。
疾風
(……!速いっ)
この間合いでは、後ろへ退いても間に合わない。
その時――
楓
「若様ッ!」
鋭い声が飛んだ。
疾風の目が、
ほんの一瞬だけ楓を捉える。
疾風
(退けば斬られる――ならば!)
疾風は退くどころか、
迫る氷刀の内側へ潜り込むように踏み込んだ。
賢い穢れ人
「なに……!?」
疾風
「はぁッ!」
――ガキィィンッ!!
疾風が下から太刀を振り上げ、
振り切られる寸前の氷刀を強引に跳ね上げた。
賢い穢れ人
「……ッ! この馬鹿力がっ!」
大きく開いたその胴へ――
疾風の背後から、楓が飛び出した。
楓
「若様への無礼、許さん!」
賢い穢れ人は咄嗟に氷刀で楓の一撃を受け止める。
――ドガァンッ!!
凄まじい衝撃。氷刀に亀裂が走る。
賢い穢れ人
「な――」
疾風
「……叔父上の方が馬鹿力だ。」
その言葉に、
賢い穢れ人の瞳が見開かれた。
楓の一撃を受け止めた、ほんの一瞬。
その死角を縫って、
疾風はすでに背後へ回り込んでいた。
疾風
「――遅い」
振り向いた時には、
すでに疾風の太刀が走っていた。
――ザシュッ!!
賢い穢れ人
「ぐぁっ……!」
肩口から鮮血が弾け飛ぶ。
身体が大きく傾ぐ賢い穢れ人に対し、疾風と楓の猛攻はなおも続く。
疾風
「まだだ!」
賢い穢れ人
「っ!?」
疾風の蹴りが、無防備な腹部へ突き刺さった。
――ドンッ!!
賢い穢れ人
「がっ……!」
宙へ浮く身体。
その落下地点へ、楓がすでに回り込んでいた。
楓
「若様!」
――ドガァンッ!!
楓の峰が賢い穢れ人の身体を捉えた。
着地することすら許されないその身体は、
疾風の待ち構える方向へと弾き返された。
疾風
「あぁ!」
賢い穢れ人
(馬鹿な――!)
弾き飛ばされた先には、
すでに疾風が待ち構えている。
振り返れば楓、前には疾風。
逃げ道など――
最初から存在していなかった。
疾風
「これで――!」
踏み込む疾風。
賢い穢れ人は呼吸を乱しながらも、
反射的に壊れかけた氷刀を滑り込ませる。
賢い穢れ人
(くっ……!
なんだこいつらっ!速すぎる……っ!)
――ガキィィィンッ!!
辛うじて受け止めるも、ピシッ、と氷刀に走った亀裂が一気に刀身全体へ広がった。
――バキィィンッ!!
賢い穢れ人
「……!化け物どもめ」
氷刀が砕け散る。
無数の氷片が舞う向こうで、疾風と楓はすでに寸分の狂いもなく次の構えへと移行していた。
賢い穢れ人
(おかしい……)
荒い息を吐きながら、
二人を睨み据える。
賢い穢れ人
(なぜ我が……
ここまで防戦一方になっている……?)
疾風が動けば、
楓がその死角を埋める。
楓が斬り込めば、
疾風が逃げ道を潰す。
一方を警戒すれば、
もう一方が必ず視界から消える。
賢い穢れ人
(速いだけではない……)
その瞳が、
鋭く細められた。
賢い穢れ人
(こいつら……
互いの動きを見てから合わせているのではない)
そこで初めて――
賢い穢れ人の背筋を、
冷たいものが走った。
賢い穢れ人
(次に相手がどう動くのかを……
最初から分かっているのか……?)
その視線の先で、
疾風が不敵に笑った。
疾風
「相変わらず、
叔父上とは合わせやすいな」
楓
「……若様の鍛錬の賜物です」
賢い穢れ人
「…………」
確かに、この二人の連携は異常なほどに研ぎ澄まされている。
だが――
それだけではない。
胸の奥に引っかかった違和感が、
どうしても消えない。
賢い穢れ人
(おかしい……なぜ防戦一方になっている
……何かがおかしい……)
最後までお付き合いいただき、
ほんとうにありがとうございます!
次回もお付き合いいただけたら幸いです。
(人´∀`).☆.。.:*・゜




