勝手に帰っちゃ駄目ですよ!
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最後までお付き合いいただけたら幸いです。
(*˘︶˘*).。.:*
ボッ !
低く重い破裂音とともに、
灰燼の右肩が内側から弾けた。
吸収したはずの紅い焔が吹き出す。
灰燼
「……なんや?」
自身の肩を見つめる灰燼の瞳に困惑の影が差す。
異変はそれだけに留まらない。
ボォッ!!
次いで左肩からも燃え上がるような音が響いた。漆黒の焔を喰い破るようにして溢れ出したのは、澄み渡るような蒼炎。
灰燼
「っ……!?」
その瞬間――
灰燼の口元から、
余裕の笑みが完全に消え去った。
体内で暴れ狂う二色の焔を灰燼は必死に、
己の『黒い焔』へ変換しようとする。
しかし、抗おうとするほどに、
新たな神気が濁流のように体内へとなだれ込んでくる。
内側から膨れ上がる神気に耐えきれず、
灰燼の身体がミシミシと奇妙な音を立てて軋み始める。
黒い焔の隙間からは、
変換しきれない紅と蒼の焔が次々と漏れ出していく。
灰燼
「待て……
なんや、これ……!」
己の――黒の焔。
爛々と燃え盛る――紅の焔。
凍てつくほどに澄んだ――蒼の焔。
吸収した焔が、
己の内から次々と溢れ出していく。
初めて起きた現象に、
灰燼の顔には恐怖の色が浮かんだ。
瞳孔が収縮し、
呼吸が次第に乱れていく。
灰燼
「っ……ぐ……!」
三色の焔が激しく揺らめく様が、
義久の冷徹な瞳の奥に映り込んでいた。
灰燼が恐怖に顔を歪めるその様子を、
義久はただ静かに見つめていた。
そして戦場の喧騒の中、
小さく呟く。
義久
「――時は満ちました」
灰燼
「……あ?」
濁った眼差しで義久を睨みつける灰燼。
義久は淡々と言葉を紡ぐ。
義久
「どれほど優れた器であろうと――
無限に入るわけではない。」
灰燼の瞳が、僅かに見開かれた。
義久はそれを見逃すことなく、
淡々と言葉を続けた。
義久
「貴方が神気を吸収すると聞いた時、
私は一つ疑問に思ったのです。」
義久の冷ややかな視線が、
灰燼を覆う黒き焔へ向けられる。
義久
「もし本当に、
際限なく神気を取り込めるのなら――
なぜ貴方は、吸収した焔を必ず自分の焔へ上乗せして、
すぐに放っていたのでしょうか。」
灰燼
「…………っ」
その瞬間、
灰燼の表情が僅かに強張った。
義久
「答えは簡単です。」
義久は、
ゆっくりと灰燼へ視線を戻す。
その瞳には温度がなく積年の底知れぬ怒りだけが静かに宿っていた。
義久
「貴方は――
奪った神気を、
いつまでも己の中へ
留めておくことができない。」
灰燼
「……!」
義久
「だから吸収するたびに、
己の焔へ変えて外へ吐き出す。」
義久の口元にほんのわずかな、冷たい笑みが浮かぶ。
義久
「つまり――」
義久が、
ゆっくりと片手を上げる。
義久
「ですから――
満たして差し上げたのですよ。」
灰燼
「……まさか……!」
限界を超えて暴れる三色の焔に照らされながら、
灰燼はようやく悟った。
自分は二人の神気を奪っていたのではない。
最初から――
喰わされていたのだ。
義久の策にまんまと乗せられていたことに気づき、灰燼の顔に戦慄が走る。
義久
「ええ。」
義久が、
いつもの穏やかな笑みを浮かべた。
義久
「貴方が――
もう何も吸い込めなくなるまで。」
灰燼
「貴様……!」
義久は、
火の童子と蒼へ一瞬だけ視線を向ける。
そして再び、
灰燼を真っ直ぐ見据えた。
義久
「吐き出す暇もないほど――
その器を満たしてしまえばいい。」
灰燼の顔から、
完全に笑みが消えた。
灰燼
「ほんならこの後どうするつもりやねん。
ワイは限界が来とるさかい、
このまま爆発して共倒れになるだけやで?」
義久
「まさか!ご冗談はお辞めください!
ここから消え去るのは貴方だけですよ!」
義久の口元から、
それまで浮かんでいた笑みが消える。
義久
「あの日のことを、
私は一度たりとも忘れたことはありません。
三百年――
我ら猫の眷属が抱き続けてきた怒り。
その身をもって、悔いるといい。」
灰燼
「……あぁーなるほどな、
お前あの時のシャーシャー言うてた猫かいな
やっと思い出したわ。
そういやあの時燃やしてもうた
お前を庇った同族は――」
義久
「貴方が気にすることはないですよ。
もう消えるのですから。」
義久
「変質の理――炎。」
幾百もの光の糸が空を走り――
火の童子と、
蒼の焔へ飛び込んでいく。
火の童子
「おぉ!なんや!?」
白銀の絹糸は焔に触れても燃えることなく、
それどころか――
紅蓮と蒼炎に触れたところから、
白銀だった絹糸が徐々に色を変え始める。
火の童子、蒼、そして灰燼から吸収した神気によって、絹糸そのものが焔の性質を帯びていく。
さらにそこへ、玉繭の神の蚕が蓄えてきた神気が重なり、焔へと上乗せされていく。
義久
「我らが守り続けてきた、
玉繭の神様の蚕の糸。」
義久が指を動かす。
無数の絹糸が、
二つの焔を絡め取るように束ねていく。
義久
「この糸は神気を吸収し――
その神気が持つ性質を、
己のものへと変える。」
蒼
「……すごい」
義久
「人の世では物語にもなりましたね……
決して燃えぬと謳われた――」
義久の瞳が細くなる。
義久
「火鼠の皮衣。」
ふっと、
口元に笑みが浮かぶ。
義久
「あれも――
我ら猫の眷属が生み出した代物ですよ。」
灰燼
「……何をする気や……!」
義久
「貴方が先ほど、
お二人の神気を己の力へ変えたでしょう?」
義久の指が――
すっと。
灰燼へ向けられる。
義久
「ですから我々も――
同じことをするだけです。」
灰燼
「――――!」
絹糸が一斉に輝いた。
火の童子
「うおっ!?」
蒼
「……これは……!」
灰燼から吸収された神気が、
絹糸を通して火の童子と蒼へと流れ込む。
ゴオオオオオオオオオオオッ!!!
火の童子
「うわぁっ……!」
蒼
「おぉ……」
その威力に蒼も、目を見開いた。
紅と蒼、二つの焔が混ざり合い、さらに絹糸から注ぎ込まれる膨大な神気を呑み込んでいく。
やがて二色の境界が消え、
紅でもない、蒼でもない。
そこに現れたのは――
すべてを焼き尽くすかのように燃え盛る、
純白の焔だった。
火の童子と蒼は一瞬言葉を失った。
火の童子
「……まさか……
この焔を目にする日が来るとはな……」
蒼
「蒼の焔より……
強い……白い焔」
白い焔が、
熱風とともに天へ立ち昇る。
義久
「さぁ!今ですよ!」
火の童子
「まかしと気ぃ!蒼!
いっけぇぇぇぇぇぇ!!」
蒼
「――焼き尽くせ!!」
二人が同時に腕を振り抜く。
ゴォォォォォォォッ!!!
白炎が――
灰燼を呑み込んだ。
灰燼
「これはあか――
ぐあああああああああっ!!」
灰燼は白炎を防ごうと、
反射的にその神気を吸収しようとする。
しかし、
限界まで神気を取り込んだ身体は、
もはや新たな神気を受け入れることができない。
白い焔に焼かれ、
灰燼を覆っていた黒い焔が次々と消えていく。
その凄まじい焔は、灰燼の手足を拘束していた絹糸すら焼き尽くした。
炎の性質を得た絹糸でさえ、複数の神気が融合して生まれた白炎の力には耐えきれず、ついには焼き切れていった。
灰燼
「くそ!……!
押し返せえやぁぁぁぁぁ!!」
黒い焔が、
白炎に押し潰されていく。
灰燼
「なんでや……!
ワイの焔が……!ぐっ……ぁ……!
……こんな……ところで……!」
焼け崩れていく口元が、
僅かに震える。
そして――
灰燼
「琥珀ぁぁぁぁぁぁっ!すまん!」
残った力を振り絞り、
灰燼が片腕を突き出した。
空間が歪む。
黒い亀裂が、
その眼前に開き始める。
火の童子
「逃げる気か!」
灰燼
「あほぉ!こんなところで……
死んでたまるかぁ……!」
焼け落ちていく身体を引きずりながら、
空間の裂け目へ手を伸ばす。
灰燼が、
裂け目へ身体を滑り込ませようとした――
そのとき。
義久
「――どちらへ?」
灰燼
「…………っ!?」
目の前に――
義久が逃げ道を塞ぐように立っていた。
義久
「いけませんねぇ。
私は帰ってよいなどとは、
一言も申し上げておりませんよ。」
灰燼の表情が、
僅かに強張った。
義久は笑みを浮かべたまま、
静かに告げた。
義久
「逃がしませんよ……」
その一言と同時に、義久が扇子を閉じる。
パチン。
シュルルルルルルルッ!!
灰燼
「なっ――!?」
四方八方から、
無数の白銀の糸が灰燼へ幾重にも巻きついていく。
灰燼
「やめろや……!
離せぇぇぇぇ!!」
足掻けば足掻くほどに、
幾重もの糸が容赦なく巻きついていく。
一重、十重、百重――
激しい抵抗も虚しく、
やがて灰燼の姿は――
巨大な白い繭の中へ、
完全に呑み込まれた。
義久
「三百年。」
繭を見つめながら、
義久が静かに呟く。
その左右へ、
寿久と義弘が並ぶ。
義久
「随分と――
時が流れてしまいましたが。」
白い繭の隙間から、
最後の黒い焔が漏れる。
だがそれも。
シュッ――
絹糸へ吸い込まれ、
跡形もなく消えた。
義久は、
静かに目を細める。
そして――
義久
「これで――終わりです。」
三兄弟が、
同時に印を結ぶ。
義久・寿久・義弘
「「「封!」」」
ギュルッ――!!
絹糸の繭が、
一気に収束した。
白い光が弾け――
灰燼の気配が、
完全に消えた。
最後までお付き合いいただき、
ほんとうにありがとうございます!
次回もお付き合いいただけたら幸いです。
(人´∀`).☆.。.:*・゜




