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僕は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
封印されし穢れ人――玉繭の里編

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232/258

積年の怒り――猫の眷属の三兄弟

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*

穢れ人が、

結界の目前でぴたりと動きを止めた。




次の瞬間――




その周囲に、

冷気が渦を巻く。




空気中の水分が凍りつき、

白い霜が瞬く間に広がっていく。




真白《ましろ》

「……っ!?」




穢れ人が片腕を持ち上げる。




その頭上で冷気が一点へと凝縮し、

鋭く尖った巨大な氷の槍が形作られていった。




紡《つむぎ》

「えっ、術!?

 ……って、そうだ……!」




紡《つむぎ》の脳裏に、

義久《よしひさ》の言葉が蘇る。





紡《つむぎ》

「義久《よしひさ》さんが言ってました……!

 あの穢れ人は、

 術も使うって……!」




その横で、

結界を支えていた真白《ましろ》が思わず声を上げた。




真白《ましろ》

「っ……それ、

 僕も一緒に聞いてましたよ!」




紡《つむぎ》

「あっ……そうでした!」




紡《つむぎ》がハッと目を丸くする。




真白《ましろ》

「そうでした! じゃありません!

 紡《つむぎ》、今は目の前に集中してください!」




紡《つむぎ》

「は、はい!」




慌てて前へ向き直った紡《つむぎ》が、

再び結界へ神気を注ぎ込む。

 



穢れ人が、

無造作に腕を振り下ろす。


 


ヒュン――!




氷の槍が空気を切り裂き、

凄まじい勢いで多層結界へと突き刺さる。



――バリィィィンッ!!




一枚目の結界が砕け散る。




その勢いは止まらず、

そのまま二枚目へと――




――バキィィンッ!!




一撃で二枚の結界が粉々に弾け飛んだ。




真白《ましろ》

「二枚同時に……!?」




砕けた結界の光と氷の欠片が、

無数の煌めきとなって辺りへ飛び散る。




穢れ人は残りの結界も砕こうと、

再び冷気を纏う。



渦巻く冷気が一点へと集まり、

鋭く巨大な氷の槍を形作っていく。



そして――



残された結界へ狙いを定めるように、

ゆっくりと腕を持ち上げた。





真白《ましろ》

「っ……もう一度来ます!」




紡《つむぎ》

「は、はい!

 真白《ましろ》様!このままじゃ、

 残りの結界まで……!」




その様子に、

灰燼《かいじん》と対峙していた澪斗《みなと》が気づく。

 



澪斗《みなと》

「……まずい!」




澪斗《みなと》は灰燼《かいじん》から視線を逸らさぬまま、

片手で素早く印を結ぶ。





澪斗《みなと》

「守護の理――護りを!」





バシャァァァァッ!!





真白《ましろ》と紡《つむぎ》の足元から、

幾筋もの水流が勢いよく噴き上がった。




水流は瞬く間に鎖のように形を変え、





ガシャンッ!!




一本、二本と――

幾重もの水の鎖が残された結界へ巻き付き、

その表面を縦横に覆っていく。




真白《ましろ》

「これは……澪斗《みなと》さんの!?」




次の瞬間――




水の鎖を伝って、

澪斗《みなと》の神気が一気に流れ込んだ。




淡く輝いていた結界へ、

澄んだ水色の光が重なっていく。





澪斗《みなと》

「真白《ましろ》様! 紡《つむぎ》!

 僕の神気も結界に重ねます!」




澪斗《みなと》は印を崩さぬまま、

指先へさらに神気を集中させる。




次の瞬間――




澪斗《みなと》の神気を宿した水の鎖が、

残された結界へ幾重にも巻きつき、

砕かれかけた守りを外側から強固に支えていく。




澪斗《みなと》

「二人とも!

 その鎖に神気を流し込んでください!

 僕の鎖と二人の結界を繋いで、

 残った結界を補強します!」






真白《ましろ》

「……っ、澪斗《みなと》さん!

 ありがとうございます!

 紡《つむぎ》!」




紡《つむぎ》

「はい!」




二人も神気をさらに注ぎ込む。




真白《ましろ》と紡《つむぎ》の白い光。




そこへ、

澪斗《みなと》の水の神気が重なり――




残された結界が、

先ほどまでとは比べものにならないほど強く輝いた。




そして――




穢れ人の腕が振り下ろされる。




巨大な氷の槍が、

一直線に結界へと放たれた。




ガッキイイイーンッ!!




凄まじい衝撃が走り、

幾重にも重なった結界が激しく震える。




澪斗《みなと》の水の鎖によって補強された結界は、

辛うじてその一撃を受け止めた。




だが――




バキィンッ!!




真白《ましろ》たちの結界を覆っていた水の鎖が、

一本、また一本と、

衝撃に耐えきれず弾け飛んでいく。




砕けた神気が、

無数の水飛沫となって宙へ散った。




澪斗《みなと》

「っ……!」




澪斗《みなと》の想像を遥かに上回る威力だった。




たった一撃。



それだけで、

幾重にも張り巡らせた水の鎖の半分近くが失われている。



残された鎖も、

今なお激しく震えていた。




結界を守れたことに安堵する間もなく、

その光景を見つめる澪斗《みなと》の表情が険しくなる。




澪斗《みなと》

(まずい……!

 思っていた以上に、術の威力が強い……!

 これじゃ長くは持たない……。

 この補強も――

 時間を稼ぐのが精一杯だ……!)




澪斗《みなと》の焦りをよそに――




穢れ人の周囲に、

再び冷気が集まり始めた。




白い冷気が渦を巻き、

空気中の水分が瞬く間に凍りついていく。




パキ……パキキ……。





その音を聞いた澪斗《みなと》の表情が強張る。




澪斗《みなと》

「また……!」




真白《ましろ》と紡《つむぎ》の結界へ視線を向ける。




次の一撃まで、

残った水の鎖が耐えられる保証はない。




今すぐ二人のもとへ駆けつけたい。




だが――




背後から吹きつけた熱気に、

澪斗《みなと》は振り返った。




ゴォォォォォッ!!




灰燼《かいじん》の黒い焔と、

火の童子《かのこどうじ》と蒼《あお》が放つ焔が激しくぶつかり合う。




澪斗《みなと》

「っ……!」




ここを離れれば、

今度は灰燼《かいじん》を抑える者が足りなくなる。




真白《ましろ》たちの援護へ向かいたい。




けれど、

火の童子《かのこどうじ》と蒼《あお》を残していくこともできない。




澪斗《みなと》の視線が、

二つの戦場を何度も行き来する。




澪斗《みなと》

「あぁ! もう!

 ここを離れられないし……

 どうしたらいいんだ!」




その時――




義久《よしひさ》

「ならば澪斗《みなと》。

 私と交代いたしましょう!」




澪斗《みなと》

「えっ!?」




突然聞こえた声に、

澪斗《みなと》が勢いよく振り返る。




そこに立っていたのは――




義久《よしひさ》だった。




そしてその両脇には、

寿久《としひさ》と義弘《よしひろ》の姿があった。




澪斗《みなと》

「よ、義久《よしひさ》様!?

 一体どこにいらっしゃったんですか!?」




義久《よしひさ》

「まぁまぁ。

 野暮なことは聞かないでください。」




義久《よしひさ》はそう言って、

いつもの調子でさらりと受け流す。




だが――




次の瞬間には、

その表情から笑みが消えた。




鋭い眼差しが、

黒い焔を纏う灰燼《かいじん》へ向けられる。



義久《よしひさ》

「それよりも今は、

 真白《ましろ》君たちの支援に向かってください。」




義久《よしひさ》の左右で、

寿久《としひさ》と義弘《よしひろ》も静かに前へ出る。




三人が並び、

澪斗《みなと》と灰燼《かいじん》の間へ立った。



義久《よしひさ》

「ここは――

 我ら猫の眷属にお任せを。」




澪斗《みなと》

「…………」




澪斗《みなと》はすぐには頷けなかった。




視線の先では、

灰燼《かいじん》の黒い焔が未だ激しく燃え盛っている。




澪斗《みなと》

「ですが……!

 あの灰燼《かいじん》とかいう奴は、

 火の童子《かのこどうじ》様と蒼《あお》の神気を――」




義久《よしひさ》

「大丈夫、心得ております。」




義久《よしひさ》の口元に、

僅かな笑みが浮かぶ。




すでに何かを見つけた者の、

確信に満ちた表情だった。




義久《よしひさ》

「先ほど、

 あの禁忌の眷属の焔を無効化した――

 貴方の術。」




澪斗《みなと》

「僕の……?」




義久《よしひさ》

「ええ。

 あれを見て、

 我々も突破口を見いだしましたので。」




澪斗《みなと》の目が僅かに見開かれる。




寿久《としひさ》

「義久《よしひさ》兄様の言うとおりだ。」




寿久《としひさ》も一歩前へ出る。




義弘《よしひろ》

「ここは我ら三兄弟に任せて、

 真白《ましろ》君と紡《つむぎ》君のもとへ行きなさい。」




義弘《よしひろ》も静かに頷いた。




三人とも、

灰燼《かいじん》を前にして一歩も退こうとしていない。




澪斗《みなと》

「…………」




それでも、

澪斗《みなと》の足はすぐには動かなかった。




本当に任せていいのか。




もし自分が離れたあと、

三人に何かあったら――




そんな迷いを見透かしたように、

義久《よしひさ》が澪斗《みなと》へ振り返る。




義久《よしひさ》

「澪斗《みなと》。」




穏やかな声だった。




義久《よしひさ》

「大丈夫です。」




たった一言。





けれどその表情には、

微塵の迷いもなかった。




それどころか――




これから強敵へ挑むとは思えないほど、

義久たちの瞳には確かな自信が宿っていた。




寿久《としひさ》と義弘《よしひろ》も、

同じように頷く。




その三人の顔を見て――




澪斗《みなと》はようやく、

強張っていた表情を緩めた。




澪斗《みなと》

「……分かりました。」




真白《ましろ》たちのいる方向へ身体を向ける。




だが走り出す直前、

もう一度だけ三人を振り返った。




澪斗《みなと》

「ですが!

 くれぐれも無理はしないでください!

 それから、火の童子《かのこどうじ》様と蒼《あお》をお願いします!」




義久《よしひさ》

「ええ、分かっています。

 お任せください。」




澪斗《みなと》は力強く頷くと、

真白《ましろ》と紡《つむぎ》のもとへ駆け出した。




その背中が遠ざかっていく。




そして――




灰燼《かいじん》

「おっ?

 なんや、葵の弟がどっか行きよったな。」




黒い焔の向こうで、

灰燼《かいじん》が首を傾げる。




その視線が、

代わりに立ちはだかった三人へ移った。




灰燼《かいじん》

「……って、

 お前ら誰や?」




その瞬間――




義久《よしひさ》たちの空気が変わった。




義久《よしひさ》

「…………」




義久《よしひさ》の口元に浮かんでいた笑みが、

すっと消える。




寿久《としひさ》の眉がぴくりと動き、

義弘《よしひろ》の眼差しも鋭さを増した。




義久《よしひさ》

「さて……」




静かな声が響いた。



だがその奥には、

長い年月を積み重ねてきた怒りが滲んでいた。




義久《よしひさ》

「我らのことすら覚えていないとは……

 ますます許せませんね。」




義久《よしひさ》がゆっくりと構える。




その両脇で、

寿久《としひさ》と義弘《よしひろ》も同時に戦闘態勢へ入った。




義久《よしひさ》

「我ら積年の怒り――

 ここで晴らさせていただきましょう。」




寿久《としひさ》

「同感です、兄上。」




義弘《よしひろ》

「…………」




三兄弟の視線が、

ただ一人――灰燼《かいじん》へと集中する。




逃がすつもりなど、

最初からない。




義久《よしひさ》

「あの愚か者には――」

 



静かな怒気とともに、

三兄弟の神気が一斉に立ち昇る。




義久《よしひさ》

「万死あるのみです。」


最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!


次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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