いざ烏天狗の里へ! 穢れ人討伐へ向かう真白たち――紡、初めての空へ
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烏天狗の里へ向かうことが決まってからというもの、
豊穣神社にはどこか張り詰めた空気が漂っていた。
境内を吹き抜ける冬風は冷たく、
御神木をさらさらと鳴らしていく。
社務所では、
真白と紡が、
旅支度を進めていた。
真白
「えーっと御神酒と……琥珀糖と……」
真白は一つ一つを丁寧に確認しながら、
静かに鞄へ収めていく。
一方の紡はというと、
初めての旅支度に必要以上に荷物を詰め込み、あわあわと慌てていた。
紡
「ま、真白さま!
これも必要でしょうか!?
あっ、でもこっちも……!」
真白
「ふふ、大丈夫ですよ紡。
烏天狗の里にも必要な物はありますから、
そんなに持っていかなくても平気です」
真白が穏やかに笑うと、
紡
「えっ?!そ、そうなんですか?!」
紡は慌てて鞄の中を見直し始めた。
やがて旅の支度を終えた真白と紡は境内へと
やって来た。
そんな二人の元へ、
縁がやってくる。
いつもの柔らかな笑みを浮かべながらも、
その瞳には僅かな緊張が宿っていた。
縁
「今回の討伐任務だけどね、
天界側からも増援が来ることになったよ」
紡
「増援……ですか?」
紡がきょとんと首を傾げる。
縁
「穢れ人討伐はかなり危険だからねぇ。
流石に万全を期したいんだって。
それで今回は――檜扇くんと著莪くんも参加
するみたい」
その名前を聞いた瞬間、
優羽がぴくりと反応した。
紡
「えっ!?檜扇様と著莪様って、
優羽さんのお兄様方ですよね?
僕、全然知りませんでした!」
紡が目を丸くしながら優羽を見ると、
優羽は少し困ったように笑った。
優羽
「あはは、無理もないよ。紡が天界にいた頃には、
私はもう現世に降りていたからね。今の世代の子
たちは、意外と知らないんじゃないかな?」
優羽はくすりと笑い、
どこか懐かしむように冬空を見上げた。
優羽
「でも兄様たちは、
黒狐の中でも最強って言われてたから、
安心していいよ!」
縁
「そうそう。
檜扇くんと著莪くん、
眉目秀麗なのにものすごく強いからねぇ。
天界の貴公子なんて二つ名まで付い
てたくらいだもん。羨ましいよねぇ」
縁が冗談交じりに笑うと、
優羽は遠い目をした。
優羽
「確かに……。
私も菖蒲姉様も、天界にいた頃
は兄様目当ての眷属たちが毎日のようにす
り寄ってきて大変でした……」
思い出しただけで疲れたのか、
優羽は深々とため息を吐く。
その脳裏には、
兄たちとお近づきになりたい眷属たちと、
それから逃れる日々の過去の自分の姿が浮かんでいた。
優羽
「今はこの現世にいるので解放されましたけ
ど……そろそろ本当に、早くお嫁さんをも
らっていただきたいものです」
そんな優羽の様子に、紡はぽつりと呟いた。
紡
「ゆ、優羽さんも天界では
大変だったんですね……」
紡がしみじみ呟くと、
その場にくすりと笑いが広がった。
だが次の瞬間、優羽はふと思い出したように真白たちを見る。
優羽
「ところで真白様と紡は、
縁様が“狐の窓”で
烏天狗の里へ送るんですか?」
縁
「それがね――」
縁が言い終えるより早く、
???
「俺と一緒に行くんだよ!」
弾けるような元気な声が、
境内へ響き渡った次の瞬間、
風を切る音と共に、
輝く天馬が空から舞い降りる。
白銀の鬣をなびかせ、
着地したその背にいたのは――
三国だった。
紡
「三国さん!?」
紡がぱっと顔を輝かせる。
三国は人懐っこい笑みを浮かべながら、
軽やかに天馬から飛び降りた。
三国
「お久しぶりですね!
紡様!迎えに来ました!」
その直後、後方から、
磨墨
「ま、待ってください三国様っ!」
という声と共に、
もう一頭の黒い天馬が降り立つ。
艶やかな黒毛を持つその神々しい天馬の傍らには、磨墨の姿があった。
磨墨
「三国様速すぎます……」
呆れたように言いながらも、
どこか慣れた様子で息を整えている。
真白
「三国さん、磨墨様。
わざわざありがとうございます」
真白が丁寧に頭を下げると、
磨墨は静かに首を横へ振った。
磨墨
「お気になさらず、お二人は今回の討伐の要。
確実に安全に送り届けるには、我々が共に向かった
方が良いと、小雲雀様が判断されたのです」
そして磨墨は、
周囲へ視線を巡らせながら続ける。
磨墨
「それと、真白様と紡様が不在の間、
豊穣神社が狙われる可能性も高い。
その為、護衛も配置しております」
その言葉と同時に、
境内へ数頭の若い天馬たちが駆け込んできた。
若い天馬たち
「三国様!磨墨様!
早すぎますってー!」
三国は楽しそうに声を上げた。
三国
「お前らが遅いんだよ!」
その賑やかな光景に、
縁は自然と頬を緩めた。
縁
「皆さん、本当にありがとうございます」
三国はそんな縁に片手を上げると、
今度は紡へ視線を向ける。
三国
「で、紡様!
準備は万端ですか?」
三国の笑顔は、
冬空さえ明るくするような太陽みたいな笑顔だった。
紡も負けないくらいの笑顔で頷く。
紡
「はいっ!」
三国
「よし!
じゃあ紡様は俺の後ろです!」
そう言って、
三国は自分の天馬の首筋をぽんぽんと叩いた。
紡の目が一気に輝く。
紡
「わぁっ!
僕、天馬に乗ってみたかったんですー!」
嬉しそうに駆け寄る紡に、
周囲から自然と笑みが零れる。
その様子を見た磨墨が、
くすりと笑った。
磨墨
「まるで遠足にでも向かうようですね」
縁
「ふふっ、確かに」
穏やかな空気の中、
磨墨は真白へ手を差し出した。
磨墨
「それでは真白様は、私の後ろへ」
真白
「はい。
よろしくお願いします」
真白は穏やかに頷き、静かに天馬へ跨る。
やがて全員の準備が整うと、
冬空の下、
天馬たちの白い吐息が揺れた。
その時だった。
縁
「真白君、紡君」
縁の声に、二人が振り返る。
そこにいた縁は、
先程までの柔らかな笑みではなく、
真剣な表情を浮かべていた。
そして――
縁
「……必ず帰ってくるんだよ」
その言葉のあと、
縁はふっと笑う。
そして懐から、
小さなお守りを取り出した。
縁
「はい、これ」
紡
「あれ?
僕たちもう持ってますけど……」
戸惑いながら受け取る二人へ、
縁は優しく微笑む。
縁
「これはね、
僕と優羽くんが豊穣神様にお願いして、
二人の無事を祈る加護を付けてもらったんだ」
その瞬間。
真白と紡の胸が、
じんわりと熱くなった。
二人は手の中のお守りを見つめ、
ぎゅっと握り締める。
真白
「……ありがとうございます」
紡
「必ず帰ってきます!」
力強い声だった。
その様子を見ていた三国は、
満足そうに笑うと、手綱を引いた。
三国
「よし!
それじゃ行くぞ!!」
次の瞬間。
天馬が地を蹴った。
轟っ――!!
巻き上がった風に、
御神木の葉が一斉に舞い散った。
あっという間に、
三国たちの姿は空高く駆け上がっていった。
磨墨
「まったく……三国様は本当に……」
呆れながらも、
どこか楽しそうに笑う磨墨。
そして護衛へ視線を向ける。
磨墨
「皆の者!
豊穣神社をしっかりお守りするように」
護衛たち
「はっ!」
磨墨
「では参りますよ真白様。
しっかり掴まっていてください」
真白
「はい」
黒き天馬が翼を広げる。
次の瞬間、
磨墨たちもまた空へ駆け上がった。
澄み切った冬空を、
白と黒の軌跡が駆け抜けていく。
その姿が小さく消えていくまで――
縁と優羽は、
小さくなっていく背中を、
しばらく黙ったまま見送っていた。
冬空には、
天馬たちが駆け抜けた風の余韻だけが、
いつまでも残っていた。
――その頃、烏天狗の里では。
深い山々に囲まれた禁足地に、
重苦しい風が吹き荒れていた。
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