紡の成長、真白の決意――穢れ人討伐、始動
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新年の清らかな気が、
まだ名残として漂う豊穣神社。
境内を抜ける風は冷たく、
賑わいの去った後の静けさを運んでいた。
正月の喧騒が過ぎて、およそ一週間。
人の波は落ち着き、境内には本来の穏やかな空気が戻りつつある。
そんな中、社務所では――
真白、縁、紡の三人が、
使い魔の白玲が運んできた一通の文を囲んでいた。
紡
「白玲さん、遠くまでお疲れ様でした。
こちらをどうぞ、少し羽を休めてください」
紡が差し出した瑞々しい神水を受け取り、
白玲は喉を鳴らす。
その傍らで、
真白は、ゆっくりと文を開いた。
紙が擦れる、かすかな音。
それだけで、
周囲の空気が一段静まったように感じられる。
その瞳が文へと落とされ、文字を追った。
瞬間――
ほんのわずかに、呼吸が止まった。
指先に込められた力が、
紙の端をわずかに歪ませる。
だが、すぐに。
静かに息が整えられる。
その横から。
縁が
真白の手元の文を覗き込んだ。
縁
「……ふーん」
軽い声。
だがその視線は、
文面の一点に鋭く留まっている。
真白は何も言わない。
ただ、
紙を持つ手の位置をほんの少しだけ下げた。
縁が見やすくするために。
その仕草に、縁は視線を落としたまま、優しく微笑んだ。
縁
「ありがとう……」
と小さく告げた。
そんな穏やかなやり取りとは逆に、
文に目を落とした真白と縁の表情が、一瞬で硬く冷えたものへと変わった。
紡
(……真白様と縁様の表情が、あんなに……。
何か、良くない知らせなのかな)
そんな縁と真白の様子を見守っていた紡の胸に、小さな不安のさざ波が立つ。
境内の喧騒が、
遠くへと退いていく。
風の音だけが、やけに鮮明に耳に届く。
縁
「……なるほどね」
縁がぽつりと呟くと、
真白がゆっくりと文を閉じる。
やがて顔を上げた二人に、
紡はそっと声を掛けた。
紡
「真白様、縁様……白凪様か
らの知らせは、何だったのですか?」
その声は、できるだけ穏やかに保とうとしながらも、わずかに震えていた。
真白は文を静かに畳み、紡へと視線を向ける。その瞳は優しいが、奥には確かな決意が宿っていた。
真白
「紡、以前白凪様たちが話していた
『倒せぬが故に各地の祠に封印された、古き穢れ人』
の話を覚えていますか?」
紡
「は、はい……僕と真白様がまだ現世に降り
てくる前のお話ですよね?」
真白
「ええ。その封印された祠の一つが、
山守神様がお守りしている
『烏天狗の里』にあるそうです。」
真白の声は静かだが、その言葉が重く響く。
真白
「これまでは数十年、数百年と封印術が綻びはじめる
と再封印を行っていたようですが……」
そこで言葉がわずかに途切れる。
代わりに縁が肩をすくめながら続けた。
縁
「今年は“討伐”に踏み切りたいらしい。
真白君と紡君の神気の力を借りてね」
その言葉に、
空気が一段と張り詰めた。
討伐――。
それはつまり、これまでとは比べ物にならない危険を意味する。
紡の脳裏に、
年末の戦いが鮮明に蘇る。
あの時初めて見た穢れ人の異様な存在感。
肌にまとわりつくような禍々しさ。
理屈ではなく、本能が
“関わってはいけないもの”だと叫んでいた。
それでも――
紡はゆっくりと顔を上げる。
そして、
真白と縁を真っ直ぐに見据えた。
紡の胸の奥には、
自分たち豊穣神社を救おうとしてくれた、
ユッキーや笑成、優君や優司、
渚と航、夏樹や榛名、そして遥達の姿があった。
紡
「確かに穢れ人はすごく怖いです。でも、
あれは……人の子の世に決して出してはいけない、
あってはならない存在です」
紡は拳をぎゅっと握りしめる。
紡
「僕も人の子達を……ここへ来てくれるみんなを守る
為に、現世に降りてきた存在です。
その平穏を守りたいです」
紡のその瞳には、
迷いよりも強い光が宿っている。
紡
「だから……僕は……行きたいです」
その言葉に、
縁は穏やかに頷くと、
縁
「うん、ありがとう紡君……真白君の方は……
ふふ、聞くまでもないか」
お茶目に笑う縁に、
真白はわずかに笑みを浮かべながら、
深く頷いた。
真白
「はい、勿論です。僕も紡と同じ気持ちです。
この地を守る眷属として、
退くわけにはいきません」
それから縁は、
縁
「白凪様の文には、どちらか一人の
協力をとあったけれど……。
僕は、真白君と紡君、二人で行ってもらうのが最善
だと思うんだ。君たちは、
もう二人で一つの光なのだから」
真白
「はい、僕もその方がいいと思います」
紡
「ぼ、僕も真白様と一緒なら心強いです!」
その返答を聞いた縁は、ぱんと手を打った。
縁
「よし、
それじゃすぐ返事を書かなきゃね!」
軽やかに立ち上がり、
縁は部屋を出ていく。
縁が奥へ去っていくと、入れ替わるように白玲が紡の足元へ歩み寄った。
それから、白玲はくちばしで大切そうにくわえていた、一粒の立派な松ぼっくりを紡の掌にぽとりと落とす。
紡
「えっ? あ、ありがとうございます。でも白玲さん、 僕は真白様じゃないですよ?」
戸惑いながら受け取ると、
白玲は満足げに鳴き、
紡の肩に乗る。そして頬に頭を擦り寄せた。
くすぐったさに思わず笑みがこぼれる。
その様子を見て、
真白がふっと優しく微笑んだ。
真白
「白凪様は求愛行動と仰ってい
ましたが……もしかすると、“共に戦う仲間”という
意味なのかもしれませんね」
紡は松ぼっくりをそっと握りしめる。
確かな温もりがそこにあった。
真白
「紡、改めて……ありがとうございます」
真白の声が少しだけ柔らかくなる。
真白
「きっと危険な戦いになります。
だからこそ――
無理はしないでください。
僕たちが倒れてしまえば、
対抗できる者がいなくなってしまう」
その言葉は、
優しさと同時に責任の重さを伴っていた。
真白
「これまで以上に慎重にいきましょう」
紡は強く頷く。
紡
「はい!真白様!」
その勢いに呼応するように、
白玲も高らかに鳴いた。
白玲
「カァーッ!」
緊張の中に、
ほんの少しだけ温かな空気が流れる。
真白
「もしかすると……澪斗さんと
も、またご一緒できるかもしれませんね」
真白がふと呟く。
その時だった。
参拝客
「すいませーん、
お守りをいただきたいのですが!」
表の授与所から、
参拝客の明るい声が聞こえてきた。
紡
「あ、はーい! ただいま行きます!」
紡は慌てて駆け出していく。
その背中を、
真白は静かに見つめていた。
真白
(紡は……本当に、よく成長しました。
まだ失敗することもありますが、それでも、ここへ
来たばかりの頃よりずっと頼もしく、眩しい)
最初に出会った頃の紡は、
緊張のあまり狐の姿のままで、
どこか危なっかしく、
守られる側の存在だった。
だが今は違う。
恐れを知りながら、
それでも前に進もうとしている。
その姿は、確かに頼もしかった。
真白
(きっとまた、激しい戦いになるでしょう)
胸の奥で、静かに覚悟が固まっていく。
真白
(万が一の時は――)
その先は、言葉にはしなかった。
紡の明るい声が境内に響く中、
真白は胸の奥で、
ひとつの誓いを静かに刻む。
湯気の立つ茶が、ゆらりと揺れた。
静かな社務所に、
その揺らぎだけが、かすかに残った。
――紡だけは、何があっても守り抜く。
その誓いだけが、
冬の午後の静寂に溶けていった。
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