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実は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
【二章】封印されし穢れ人――烏天狗編

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節分の記憶――鬼が恐れる名を継ぐ者たちへ

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*





――そしてその頃の豊穣神社では。





年明けの雰囲気がまだ残る境内に、柔らかな陽が差し込んでいた。



豊穣神社の境内には、


例年通り『節分』の準備に勤しむ活気ある声が響いていた。



色鮮やかな奉納旗が冬の風にたなびき、参拝客の穏やかな笑い声が石畳を揺らしている。



かつての騒乱が嘘のように、社は平穏を取り戻していた。



ここには――先ほどの山守の社とは対照的な、穏やかな空気が流れていた。




「真白様……僕、

 節分というのは初めてなのですが……

 一体どのような意味があるのですか?」



紡が、大きな木箱に入った福豆を抱えながら首を傾げる。その瞳には、初めて触れる人の子の文化への純粋な好奇心が宿っていた。



真白は、竹箒の手を休め、

優しい眼差しを紡に向けた。



真白

「そうでしたね。

 紡にとっては初めての節分……。

 古くから日本では、この季節の変わり目に

 は邪気……つまり病や災いが生じやすいと  

 考えられていました」



真白の清らかな声が、

境内の空気の中に染み込んでいく。




真白

「病や災いは、人の目には見えません。

 だからこそ、それらを“鬼”という形にして 

 ――祓うべきものとして扱ったのです」



紡は真剣な表情で聞き入っている。



真白

「そのために行われるのが、豆まきやイワシ 

 を飾るといった厄除けの儀式です。

 新しい季節を、無病息災で迎えるためのも

 のですね」



「なるほど……」




小さく頷く紡の目は、好奇心で輝いていた。




真白

「元々は、中国の宮廷行事――追儺ついなという鬼払いの儀式です」



ゆっくりと言葉を続ける。



真白

「それが日本に伝わり、平安時代には宮中行 

 事として定着しました。当時は豆ではな 

 く、弓矢などで鬼を払っていたのですよ」


紡は目を丸くする。



「えっ、弓矢だったんですか?

 それがどうして豆に?」



真白

「時代が進むにつれ形が変わり、たしか……

 室町時代以降には炒った大豆をまく現在の

 形が広まりました」



真白は升に豆を入れ終わると一粒手に取り、そっと見せる。



真白

「魔を滅すると書いて、 "魔滅"《まめ》 。

 鬼の目――“魔目”を射る、という意味も込

 められているのですよ」


「へぇ……!」



紡は感嘆の声を漏らす。



「中国の行事なのに、

 どうして日本でこんなに広まった

 のですか?なんだか不思議です」



その素直な疑問に、

真白は少しだけ視線を落とした。



真白

「確かに、不思議に思えますよね……」



そして、小さく笑うと静かに続ける。



真白

「ですが……流行り病や飢饉、そして災厄。 

 僕たちには“穢れ”として認識できるそれら  

 も、人の子たちには見えない恐怖です」



境内を歩く人々を見つめる。


真白

「見えないものは、抗いにくい。

 だからこそ“鬼”という形を与えることで 

 ――祓える存在だと、そう信じることが

 出来たのです」



紡はその言葉を噛みしめるように、ゆっくり頷いた。



そのときだった。



えにし

「それだけじゃないよ」




二人の会話に、ふわりと軽やかな足音と共に聞き慣れた声が混じった。




いつの間にかやって来たえにしが、肩をすくめながら笑った。




えにし様……いつの間に」




紡が驚いて振り返る。




えにしは気にも留めず、

楽しげに話を続けた。




えにし

「厄災を鬼という“見える形”にしたことで、 

 追い払う行為そのものが分かりやすくなっ

 たんだ」



指先でくるりと空をなぞる。


えにし

「それが宮中の儀式として貴族に広まり、

 やがて庶民の娯楽としても取り入れられて 

 ――今みたいな形になった、ってわけ」



にやりと笑う。



えにし

「まあ要するに、庶民も

 “楽しく鬼退治して一年元気に過ごそう”

 っていう催しになったってことだね」



「なるほど……! 見える形にする……

 人の子たちは上手く考えますね!」




えにし

「ちなみにね、

 渡辺さんとか坂田さんの一族は、

 鬼の方がその名を聞いただけで、

 逃げるって話もあるよ」



「えっ?!お名前だけで……ですか?」



えにし

「そうそう、昔の鬼退治の英雄の名前なんだ 

 よね。まあ、いわば

 “鬼にとっての恐怖の対象”だよね」



真白

「そうでしたね、平安の頃――

 鬼を討ち払った者たちの名は、

 今もなお“鬼が恐れるもの”として

 語り継がれています」



風が、旗を揺らす。



どこか昔をなぞるような静けさが、

ほんの一瞬だけ境内を包んだ。


真白

「中でも――

 渡辺綱という武人は、

 鬼を討ち払ったことで名を残しましたし」


「渡辺……綱……」


聞き慣れない名を、確かめるように繰り返す。


真白

「源頼光に仕えた四天王の一人です。

 その武勇は広く知られ、

 鬼の腕を斬り落とした逸話や、

 酒呑童子討伐の伝承によって――その名を

 鬼が恐れて近寄らないとまで言われるよ

 うになりました」



かすかな音が、静かに響く。



真白

「そのため、渡辺の名を持つ家では――

 鬼は近づかないとされ、

 豆をまかぬともよいと言われています」



「名前だけで……鬼が……?」



紡の瞳が、驚きに大きく揺れる。

真白は、やわらかく微笑んだ。



少し間を置き、えにしが続ける。




えにし

「それから、同じく源頼光四天王の一人

坂田金時――こちらも鬼退治の英雄として有名だよ」


「坂田金時……?」


真白

「はい。確か童話の金太郎の元となった人物

 ですね。彼の名もまた、酒呑童子討伐の英 

 雄として、鬼にとって避けるべきものとさ

 れてきました」



遠くで、子どもたちの笑い声が響く。



「……すごいですね。

 名前だけで、鬼を遠ざけるなんて」



真白は、そっと紡へと視線を向けた。


柔らかな陽がその顔を照らし、

どこか物語を語るような静けさが宿る。



真白

「ここで一つ、不思議なお話を」


声は穏やかで、

けれどほんの少しだけ――

興味を誘う響きを帯びていた。


紡は自然と背筋を伸ばす。


真白の言葉の続きを、

聞き逃すまいとするように。



真白

「坂田金時を祀る箱根の公時神社――

 通称、金時神社では毎年、

 とても盛大な節分祭が執り行われます」


視線が、遠くへと向けられる。



まるで、

その光景を実際に見ているかのように。



真白

「境内には人が集い、威勢のよい

 掛け声とともに――豆をまくのです」



――パラパラと。


豆をまく人々の姿が

紡の脳裏に浮かぶ。



その光景を思い描いた瞬間。

紡の表情に、ふと疑問が浮かんだ。


わずかに首を傾げる。



「えっ……?でも」



そして、そのまま真白へと視線を戻す。


「坂田金時ゆかりの神社なのに、

 どうして豆まきを……?

 鬼をも退けるほどの存在なら本来、

 鬼は寄りつかないのではないですか?」



素直な疑問だった。



だが、その目は真剣そのもの。


真白はその問いを受け止め、

ふっと小さく微笑んだ。



真白

「ふふ、そう思いますよね。

 ですが――

 きちんとした理由があるのですよ」




やわらかな声。



真白

「たとえば、坂田の名を継ぐ"家"であれば、

 すでに鬼は恐れて近づかないとされます。

 そのため、豆をまく必要はありません」



紡は小さく頷く。



真白

「一方で――神社は少し違います」



視線が、境内へと戻る。



人々の笑い声、

揺れる旗、行き交う足音。



真白

「神社は、

 魔を祓い、鬼を退ける――

 “祓いそのもの”を象徴する場」


その言葉とともに、

空気がわずかに引き締まる。



真白

「神社では古くから、

 鬼を祓う所作が繰り返されてきました」



真白

「豆まきは、

 その象徴であり――

 魔や鬼を祓う再現でもあるのです」



紡の瞳が、わずかに見開かれる。



真白

「つまり――」



静かに、言葉が落ちる。



真白

「鬼を寄せつけない "家"と

 鬼を祓うことを担う "神社" 」


視線が紡へと戻る。



真白

「同じ坂田を背負いながらも、

 その役割は異なるのです」



紡は、はっと息を呑んだ。


そして、ゆっくりと頷く。



真白

「だからこそ――」



真白のやわらかい声で締めくくられる。



真白

「金時神社では、

 毎年変わらず豆がまかれるのでしょう」



風が、優しく吹き抜ける。




真白

「それは恐れからではなく――」



わずかに微笑む。



真白

「受け継がれてきた、

 “祓いのかたち”として」



その言葉に、

紡が感心したように何度も頷く。


「豆まきが、そんなふうに広がって、

 今まで続いているなんて……

 すごいですね」



三人の間には、穏やかで、

それでいてどこか神聖な時間が流れていた。



真白

「二月は神事が多いですからね。

 節分が終われば、次は春の豊作を祈る

 祈念祭が待っています」



真白がそう言って微笑んだ、



――その時だった。



ふわり、と。


白い影が空から舞い降りてくる。


音もなく、

風を切る気配だけを残して――



それは真白の肩へと降り立った。

雪のように白い羽を持つ一羽のカラス。



真白

「……白玲はくれいさん?」




真白が少し驚いたように目を細める。


白い羽を持つその烏は、嬉しそうに小さく鳴くと、真白の頬へと頭を擦り付けた。


甘えるような仕草。


そしてそのまま、口にくわえていた松ぼっくりをぐいぐいと押し付けてくる。



えにし

「……相変わらず熱烈だねぇ」


えにしがくすりと笑う。



真白

えにし様、

 からかうのはおやめください」


真白は少し困ったようにしながらも、

その頭を優しく撫でた。




真白

「ですが……白玲さんがいらっしゃったということは……」




えにし

「白凪様からの伝令だろうね〜」



そう言って、


縁の視線が、白玲はくれいの細い脚に結び付けられた小さな竹筒へと向けられた。



いつの間にか風が止み、静まり返った境内で、真白が慎重にその筒を解く。


――ただの便りではない。



その場の空気が、ほんのわずかに変わる。


さきほどまでの穏やかさに、見えない緊張が混ざり込む。



中に納められた文を取り出した瞬間――


真白の指先が、わずかに止まり

胸の中に、嫌な予感が走る。



それは――山の気配と、


どこかで繋がっているような……



遠く、

空の色がわずかに陰ったような気がした。



それは――



言葉にするまでもなく、

二人は同じ“気配”を感じ取っていた。


――まだ誰も知らない。

確実に動き出した“何か”の始まりだった。

最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!

ブクマや評価などいただけたら大変嬉しいです!

次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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