番外編・後篇 ―いつの日か、蒼は紅より出でて、紅よりも蒼くー
いつもお読みいただきありがとうございます!
今回の番外編のタイトルは、
―青は藍より出でて藍より青し―
ということわざからつけました。
蒼と火の童子の関係に、ぴったりだなと思っています。
最後までお付き合いいただけたら幸いです。
(*˘︶˘*).。.:*
――天界の隅。
誰にも気づかれない場所で、
小さな影が膝を抱えていた。
淡く、青く揺れる焔。
その美しさとは裏腹に――
「蒼は……あっちいけよ」
「近づくなって!」
「おまえは危ないんだよ!」
先程まで、他の眷属の子供たちに投げつけられた言葉が、胸に深く突き刺さっていた。
蒼の掌から揺らめくのは、
恐ろしいほどの熱量を持った、真っ青な焔。
蒼は、俯いたまま。
蒼
「……なんで……」
ぽつり、と零れる。
蒼
(蒼だって……
好きでこんな焔じゃないのに……)
蒼に優しくしてくれるのは炎神様だけ。
このまま、一生一人ぼっち。
誰にも触れられず、
誰とも笑えず、
ただ燃え続けるだけ。
そう思うと、
蒼の頬を大粒の涙が伝った。
涙は地面に落ちる前に蒸発し、
小さく、じゅ、と音を立てる。
蒼
「……ひっ、くっ……ふっ……ううぅ……」
その時だった、少し遠くから聞いたことのない声が響いた。
火の童子
「え―っと、炎神様が言っとったのは、
この辺やったよなぁ?」
その声の主を探すように蒼は顔を上げた。
蒼の視線の先には、赤い焔をまとった火の童子の姿が映る。
火の童子はキョロキョロと辺りを見回し、
蒼を見つけると――目を見開いた。
火の童子
「……なるほどな。
確かに、見りゃ分かるわ」
蒼の焔――
それは美しいほどに真っ青だった。
火の童子
「そんな真っ青な焔、初めて見たで」
楽しそうに笑いながら、
一気に距離を詰める。
火の童子
「なんや、お前こんなとこで一人で泣いて」
蒼は急に現れたその焔の眷属を、
呆然と見上げる。
蒼
「……誰……?」
蒼が戸惑いながら小さく尋ねると、
火の童子はニカッと歯を見せて笑った。
火の童子
「通りすがりの、強い眷属や!ほんで
なんでこんな所で一人泣いとったんや?」
勢いはあるのに、
その声音には優しさが感じられたせいか、
蒼は、戸惑いながらも――
蒼
「……皆が……蒼の焔は強すぎるから、
あっちいけって……」
蒼の言葉に火の童子は、かぶせ気味に言い放つ。
火の童子
「なんやそれ!
強いんはええことやないか!」
まっすぐな言葉だった。
火の童子の声が、天界の静寂を切り裂く。
火の童子
「そんな言葉に負けんと、気が合う奴
探して、一緒におったらええんや!」
その勢いに、火の童子の焔が弾ける。
蒼
「……蒼に、優しくしてくれる人なんて……
天界には、いない……」
そう弱く呟いた後に俯く蒼を、
火の童子は観察するように見つめる。
火の童子
(なるほどなぁ、おとなしいやっちゃな。
あたいとは真逆やけど……)
火の童子は、少しだけ黙る。
そして――
ふっと笑った。
火の童子
「ほんならあたいと一緒に現世、来るか?」
その言葉に、
蒼が弾かれたように顔を上げた。
火の童子
「あたいがあんたの
『気の合う仲間』になったる!
強い焔は、あたいも大好きなんや!」
蒼
「えっ……現世……?」
固まる蒼に、火の童子はさらに続ける。
火の童子
「なんや!
ぼーっとしてんと名前くらい名乗り!
あたいは火の童子や!」
蒼の瞳が、大きく揺れる。
蒼
「あ、えっと……蒼……蒼、です……」
火の童子
「蒼か! ええ名前や! よし、今日からお前
はあたいの『弟子』や!炎神様のところへ、
許しもらいに行くで!」
そう言って火の童子は言葉の強さとはうらはらに、そっと手を差し出す。
蒼は、震える手を伸ばしかけ――止めた。
蒼
「だ、だめだよ……蒼が触ったら、
焔でも、焼けるって……」
火の童子
「あぁぁん!
あたいを誰やと思っとんねん!あたいかて昔、
焔が強すぎて仲間から弾かれとったんや!
やから分かる、お前の焔は、大丈夫や」
蒼は、震える手を――
そっと、重ねた。
火の童子が、ぎゅっと握る。
火の童子
「ほらな!!」
蒼の目が、大きく見開かれる。
蒼
「……えっ」
焼けない、弾かれない。
そこにあるのは、自分よりも熱い
確かな、焔だった。
火の童子
「ほらな! なんも心配いらんやろ!」
火の童子が豪快に笑う。
蒼は、自分の掌を見つめ、それから繋いでいる火の童子の手を見つめた。
蒼の様子に火の童子は不思議そうに、
火の童子
「なんや、固まって……」
炎神様以外で、初めて誰かと手が繋げた。
拒絶されなかった――
蒼の瞳から堰を切ったように、今度は
『嬉し涙』が溢れ出す。
蒼
「蒼……初めて……。誰かと、手を繋げた……
炎神様以外で……初めて……」
その姿を見て、
火の童子は、少しだけ優しく笑うと、
ぽん、蒼の頭を撫でる。
火の童子
「そぉか……今まで、一人でよう頑張ったな……。
さっ!湿っぽいのはおしまいや!
炎神様のところへ行くで!」
火の童子はぐいっと蒼の手を引き、空へと飛び上がった。
火の童子
「現世はな、めっちゃおもろいとこやで!
美味いもんも、変な奴もぎょうさんおる!
退屈させへんからな!」
そう言って笑いながら。
蒼い焔と、紅い焔が、天界の空に美しく線を描き出していた。
――そして現在へ。
焔神社の裏手にある、開けた鍛錬場。
昼下がりの光が木々の隙間から差し込み、
地面にまだらな影を落としている。
空気は乾いていて、
微かに焦げた匂いが残っていた。
その中心で――
ドンッ!!!
空気を裂くような衝撃とともに、蒼の
青い焔が爆ぜる。
だが――
火の童子
「甘いっ!!」
次の瞬間。
ゴォッ!!と紅蓮の焔が割り込み、
蒼の焔を弾き飛ばした。
蒼
「っ……!」
後方へと飛ばされて、よろける。
砂が舞い、静寂が落ちる。
その中で――
眼帯をつけた火の童子が、
肩を回しながら笑った。
火の童子
「蒼や!今の、えぇ焔になってきたやん」
蒼は、息を整えながら小さく頷く。
蒼
「……まだまだ」
悔しさを滲ませる声。
火の童子は、ふっと鼻で笑った。
火の童子
「その顔できるようになっただけでも、
ええ成長やでぇ」
火の童子は言いながら、地面に座り込む。
蒼もその隣に腰を下ろした。
しばらく、風の音だけが流れる。
そのとき――
蒼は、ふと思い出したように口を開いた。
蒼
「……そういえば」
火の童子
「ん?なんや?」
蒼は、少し迷うように視線を泳がせてから――
蒼
「蒼と会ったとき、
『自分も弾かれ者だった』って言って
たよね。でも、天界で火の童子のこと、
聞いたことなかったんだけど……なんで?」
蒼の純粋な疑問に、
火の童子にやり、と悪い笑みを浮かべた。
火の童子
「……あーそらそうやろなぁ」
肩をすくめニカッ、と笑う。
火の童子
「なんせあたいに難癖つけてくる奴を、
片っ端からぶっ飛ばしとったからな」
――蒼が、ぴしりと固まる。
火の童子
「そしたらな、
火の童子なんて可愛い呼ばれ方やなくて、
いつからか――」
指で自分を指しながら、
火の童子
「“炎熱爆裂童子”って
呼ばれるようになってもうてなぁ」
蒼の顔が、驚愕に染まる。
その名は、天界に轟く伝説の悪童。
――天界で悪さをすれば、現れる存在。
――逆らえば、燃やされる。
文字通り、完膚なきまでに叩きのめしていくという、
子どもを躾ける時に使われる恐怖の象徴だった。
震えながら、口を開く。
蒼
「……それって……
“天界に轟く悪童”って……言われてた……」
火の童子は、一瞬きょとんとしたあと――
火の童子
「はぁっ!?」
腹を抱えて、爆笑した。
火の童子
「そんな伝わり方しとったんかい!!!」
バンバンと地面を叩く。
火の童子
「いや絶対それな!!」
息を整えながら笑う。
火の童子
「あたいにシメめられた奴らがな!
自分の子供らが言うこと聞かん時に」
顔をしかめて、大げさに言う。
火の童子
「“炎熱爆裂童子が来るでー!”
とか言うて脅しとったんやろなぁ!」
自分で言ってまた笑う。
蒼は、呆然としたまま。
火の童子
「なんや、若い頃にシメた奴らに悪いな思っ
とったけど、役に立っとったみたいやん」
一通り笑い終えた火の童子は肩をすくめ
最後にニカッと笑う。
火の童子
「ちょっと嬉しいわ」
蒼は、小さく息を吐いて。
少しだけ、安心したように笑った。
そして――
ぽつり、と。
蒼
「……蒼は……」
火の童子
「ん?」
蒼は、視線を落としたまま。
蒼
「言われたこと、ないけど……」
ほんの少しだけ。
寂しそうにその言葉が、落ちた瞬間。
――バシンッ!!!
火の童子の手が、蒼の背中を叩いた。
蒼
「っ!?」
火の童子
「そりゃあないやろ!!」
ケラケラと笑う。
火の童子
「蒼は悪い子やなかったやろが!!」
もう一発、バンッと叩く。
蒼
「いたっ……」
ぐいっと蒼の顔を覗き込む。
火の童子
「胸張っとけ!!」
真っ直ぐな声。
蒼は、一瞬言葉を失う。
そして――
小さく、頷いた。
蒼
「……うん」
その表情は、さっきよりも少しだけ明るい。
火の童子は、満足そうに頷くと、
ゴロリと寝転んだ。
火の童子
「はぁー……ええ天気やなぁ」
空を見上げる。
蒼も、つられて見上げた。
どこまでも澄んだ青い空と、
揺れる木々の音。
穏やかで、静かな時間が流れていた。
蒼は、そっと火の童子を見る。
火の童子は、いつも。
強くて明るくて。
そして――
どんな時でも。
蒼を、否定しない。
蒼の胸の奥が、
じんわりと温かくなる。
蒼
(……すごいな……)
小さく、息を吸う。
蒼
(火の童子みたいに……)
強くて。
誰かを、まっすぐ認めることができる存在に。
蒼は、拳を握った。
蒼
(蒼も……なりたい)
その想いは、
まだ小さいけれど――
確かに、そこにあった。
火の童子が、ちらりと横目で蒼を見る。
火の童子
「なんや、急に真面目な顔して」
蒼は、少しだけ慌てて視線を逸らす。
蒼
「な、なんでもない……」
火の童子は、にやっと笑った。
火の童子
「……ま、ええわ」
ゆっくりと起き上がる。
火の童子
「ほな、もう一鍛錬いくで」
指を鳴らすと、
焔がふわりと立ち上る。
蒼の目に、再び火が宿る。
蒼
「……うん!」
二人の焔が、同時に揺れた。
次の瞬間――
ドンッ!!!
蒼と紅。
二つの焔が、空へと弾けた。
――その光は。
どこまでも、まっすぐに。
最後までお付き合いいただき、
ほんとうにありがとうございます!
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次回もお付き合いいただけたら幸いです。
(人´∀`).☆.。.:*・゜




