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実は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
番外編―それぞれの小話―

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番外編・後篇 ―いつの日か、蒼は紅より出でて、紅よりも蒼くー

いつもお読みいただきありがとうございます!

今回の番外編のタイトルは、

―青は藍より出でて藍より青し―

ということわざからつけました。

蒼と火の童子の関係に、ぴったりだなと思っています。

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*






――天界の隅。




誰にも気づかれない場所で、

小さな影が膝を抱えていた。



淡く、青く揺れる焔。

その美しさとは裏腹に――




「蒼は……あっちいけよ」



「近づくなって!」



「おまえは危ないんだよ!」



先程まで、他の眷属の子供たちに投げつけられた言葉が、胸に深く突き刺さっていた。


蒼の掌から揺らめくのは、

恐ろしいほどの熱量を持った、真っ青な焔。



蒼は、俯いたまま。



「……なんで……」



ぽつり、と零れる。



(蒼だって……

 好きでこんな焔じゃないのに……)



蒼に優しくしてくれるのは炎神様だけ。



このまま、一生一人ぼっち。

誰にも触れられず、

誰とも笑えず、

ただ燃え続けるだけ。



そう思うと、

蒼の頬を大粒の涙が伝った。



涙は地面に落ちる前に蒸発し、

小さく、じゅ、と音を立てる。



「……ひっ、くっ……ふっ……ううぅ……」



その時だった、少し遠くから聞いたことのない声が響いた。



火の童子かのこどうじ

「え―っと、炎神様が言っとったのは、

 この辺やったよなぁ?」



その声の主を探すように蒼は顔を上げた。

蒼の視線の先には、赤い焔をまとった火の童子の姿が映る。



火の童子はキョロキョロと辺りを見回し、

蒼を見つけると――目を見開いた。


火の童子かのこどうじ

「……なるほどな。

 確かに、見りゃ分かるわ」



蒼の焔――



それは美しいほどに真っ青だった。



火の童子かのこどうじ

「そんな真っ青な焔、初めて見たで」



楽しそうに笑いながら、

一気に距離を詰める。



火の童子かのこどうじ

「なんや、お前こんなとこで一人で泣いて」



蒼は急に現れたその焔の眷属を、

呆然と見上げる。



「……誰……?」



蒼が戸惑いながら小さく尋ねると、

火の童子はニカッと歯を見せて笑った。



火の童子かのこどうじ

「通りすがりの、強い眷属や!ほんで

 なんでこんな所で一人泣いとったんや?」



勢いはあるのに、

その声音には優しさが感じられたせいか、



蒼は、戸惑いながらも――



「……皆が……蒼の焔は強すぎるから、

 あっちいけって……」



蒼の言葉に火の童子は、かぶせ気味に言い放つ。



火の童子かのこどうじ

「なんやそれ! 

 強いんはええことやないか!」



まっすぐな言葉だった。

火の童子の声が、天界の静寂を切り裂く。



火の童子かのこどうじ

「そんな言葉に負けんと、気が合う奴

 探して、一緒におったらええんや!」



その勢いに、火の童子の焔が弾ける。



「……蒼に、優しくしてくれる人なんて……

 天界には、いない……」



そう弱く呟いた後に俯く蒼を、

火の童子は観察するように見つめる。



火の童子かのこどうじ

(なるほどなぁ、おとなしいやっちゃな。

 あたいとは真逆やけど……)



火の童子は、少しだけ黙る。



そして――


ふっと笑った。



火の童子かのこどうじ

「ほんならあたいと一緒に現世、来るか?」



その言葉に、

蒼が弾かれたように顔を上げた。



火の童子かのこどうじ

「あたいがあんたの

『気の合う仲間』になったる! 

 強い焔は、あたいも大好きなんや!」



「えっ……現世……?」




固まる蒼に、火の童子はさらに続ける。



火の童子かのこどうじ

「なんや! 

 ぼーっとしてんと名前くらい名乗り!

 あたいは火の童子や!」

 

蒼の瞳が、大きく揺れる。



「あ、えっと……蒼……蒼、です……」



火の童子かのこどうじ

「蒼か! ええ名前や! よし、今日からお前

 はあたいの『弟子』や!炎神様のところへ、

 許しもらいに行くで!」



そう言って火の童子は言葉の強さとはうらはらに、そっと手を差し出す。



蒼は、震える手を伸ばしかけ――止めた。



「だ、だめだよ……蒼が触ったら、

 焔でも、焼けるって……」



火の童子かのこどうじ

「あぁぁん! 

 あたいを誰やと思っとんねん!あたいかて昔、

 焔が強すぎて仲間から弾かれとったんや!

 やから分かる、お前の焔は、大丈夫や」



蒼は、震える手を――

そっと、重ねた。



火の童子が、ぎゅっと握る。



火の童子かのこどうじ

「ほらな!!」



蒼の目が、大きく見開かれる。



「……えっ」



焼けない、弾かれない。

そこにあるのは、自分よりも熱い

確かな、焔だった。



火の童子かのこどうじ

「ほらな! なんも心配いらんやろ!」



火の童子が豪快に笑う。


蒼は、自分の掌を見つめ、それから繋いでいる火の童子の手を見つめた。


蒼の様子に火の童子は不思議そうに、



火の童子かのこどうじ

「なんや、固まって……」



炎神様以外で、初めて誰かと手が繋げた。


拒絶されなかった――



蒼の瞳から堰を切ったように、今度は

『嬉し涙』が溢れ出す。



「蒼……初めて……。誰かと、手を繋げた……

炎神様以外で……初めて……」



その姿を見て、

火の童子は、少しだけ優しく笑うと、



ぽん、蒼の頭を撫でる。



火の童子かのこどうじ

「そぉか……今まで、一人でよう頑張ったな……。

 さっ!湿っぽいのはおしまいや!

 炎神様のところへ行くで!」



火の童子はぐいっと蒼の手を引き、空へと飛び上がった。



火の童子

「現世はな、めっちゃおもろいとこやで!

 美味いもんも、変な奴もぎょうさんおる!

 退屈させへんからな!」


そう言って笑いながら。


蒼い焔と、紅い焔が、天界の空に美しく線を描き出していた。



――そして現在へ。





焔神社の裏手にある、開けた鍛錬場。



昼下がりの光が木々の隙間から差し込み、

地面にまだらな影を落としている。


空気は乾いていて、

微かに焦げた匂いが残っていた。



その中心で――



ドンッ!!!



空気を裂くような衝撃とともに、蒼の

青い焔が爆ぜる。



だが――



火の童子

「甘いっ!!」



次の瞬間。


ゴォッ!!と紅蓮の焔が割り込み、

蒼の焔を弾き飛ばした。



「っ……!」



後方へと飛ばされて、よろける。



砂が舞い、静寂が落ちる。



その中で――



眼帯をつけた火の童子が、

肩を回しながら笑った。



火の童子かのこどうじ

「蒼や!今の、えぇ焔になってきたやん」



蒼は、息を整えながら小さく頷く。




「……まだまだ」



悔しさを滲ませる声。



火の童子は、ふっと鼻で笑った。



火の童子かのこどうじ

「その顔できるようになっただけでも、

 ええ成長やでぇ」


火の童子は言いながら、地面に座り込む。



蒼もその隣に腰を下ろした。

しばらく、風の音だけが流れる。



そのとき――



蒼は、ふと思い出したように口を開いた。



「……そういえば」



火の童子かのこどうじ

「ん?なんや?」



蒼は、少し迷うように視線を泳がせてから――


「蒼と会ったとき、

『自分も弾かれ者だった』って言って

 たよね。でも、天界で火の童子のこと、

 聞いたことなかったんだけど……なんで?」



蒼の純粋な疑問に、

火の童子にやり、と悪い笑みを浮かべた。



火の童子かのこどうじ

「……あーそらそうやろなぁ」



肩をすくめニカッ、と笑う。



火の童子かのこどうじ

「なんせあたいに難癖つけてくる奴を、

 片っ端からぶっ飛ばしとったからな」



――蒼が、ぴしりと固まる。



火の童子かのこどうじ

「そしたらな、

 火の童子なんて可愛い呼ばれ方やなくて、

 いつからか――」


指で自分を指しながら、



火の童子かのこどうじ

「“炎熱爆裂童子えんねつばくれつどうじ”って

 呼ばれるようになってもうてなぁ」



蒼の顔が、驚愕に染まる。


その名は、天界に轟く伝説の悪童。


――天界で悪さをすれば、現れる存在。

――逆らえば、燃やされる。


文字通り、完膚なきまでに叩きのめしていくという、

子どもを躾ける時に使われる恐怖の象徴だった。




震えながら、口を開く。




「……それって……

 “天界に轟く悪童”って……言われてた……」



火の童子は、一瞬きょとんとしたあと――



火の童子かのこどうじ

「はぁっ!?」



腹を抱えて、爆笑した。



火の童子かのこどうじ

「そんな伝わり方しとったんかい!!!」



バンバンと地面を叩く。



火の童子かのこどうじ

「いや絶対それな!!」



息を整えながら笑う。



火の童子かのこどうじ

「あたいにシメめられた奴らがな!

 自分の子供らが言うこと聞かん時に」



顔をしかめて、大げさに言う。



火の童子かのこどうじ

「“炎熱爆裂童子が来るでー!”

 とか言うて脅しとったんやろなぁ!」



自分で言ってまた笑う。



蒼は、呆然としたまま。



火の童子かのこどうじ

「なんや、若い頃にシメた奴らに悪いな思っ 

 とったけど、役に立っとったみたいやん」



一通り笑い終えた火の童子は肩をすくめ

最後にニカッと笑う。



火の童子かのこどうじ

「ちょっと嬉しいわ」



蒼は、小さく息を吐いて。



少しだけ、安心したように笑った。



そして――



ぽつり、と。



「……蒼は……」



火の童子かのこどうじ

「ん?」



蒼は、視線を落としたまま。



「言われたこと、ないけど……」



ほんの少しだけ。

寂しそうにその言葉が、落ちた瞬間。



――バシンッ!!!



火の童子の手が、蒼の背中を叩いた。



「っ!?」



火の童子かのこどうじ

「そりゃあないやろ!!」



ケラケラと笑う。



火の童子かのこどうじ

「蒼は悪い子やなかったやろが!!」



もう一発、バンッと叩く。



「いたっ……」




ぐいっと蒼の顔を覗き込む。



火の童子かのこどうじ

「胸張っとけ!!」



真っ直ぐな声。



蒼は、一瞬言葉を失う。



そして――



小さく、頷いた。



「……うん」



その表情は、さっきよりも少しだけ明るい。



火の童子は、満足そうに頷くと、

ゴロリと寝転んだ。



火の童子かのこどうじ

「はぁー……ええ天気やなぁ」



空を見上げる。



蒼も、つられて見上げた。



どこまでも澄んだ青い空と、

揺れる木々の音。


穏やかで、静かな時間が流れていた。



蒼は、そっと火の童子を見る。



火の童子は、いつも。



強くて明るくて。



そして――



どんな時でも。

蒼を、否定しない。



蒼の胸の奥が、

じんわりと温かくなる。



(……すごいな……)



小さく、息を吸う。



(火の童子みたいに……)


強くて。

誰かを、まっすぐ認めることができる存在に。


蒼は、拳を握った。



(蒼も……なりたい)



その想いは、

まだ小さいけれど――


確かに、そこにあった。


火の童子が、ちらりと横目で蒼を見る。



火の童子かのこどうじ

「なんや、急に真面目な顔して」



蒼は、少しだけ慌てて視線を逸らす。



「な、なんでもない……」



火の童子は、にやっと笑った。



火の童子かのこどうじ

「……ま、ええわ」



ゆっくりと起き上がる。



火の童子かのこどうじ

「ほな、もう一鍛錬いくで」



指を鳴らすと、

焔がふわりと立ち上る。



蒼の目に、再び火が宿る。



「……うん!」



二人の焔が、同時に揺れた。



次の瞬間――



ドンッ!!!



蒼と紅。



二つの焔が、空へと弾けた。



――その光は。



どこまでも、まっすぐに。










最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!

ブクマや評価などいただけたら大変嬉しいです!

次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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