狐の婿入り行列、その裏で始まる守護の戦い
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――やがて。
社務所の奥、襖の向こうから、静かに足音が近づいてくる。
す、と襖が開いた。
灯りに照らされて現れたその姿に、
場の空気が一瞬――止まる。
黒の紋付羽織袴に身を包んだ、渚。
夜の静けさの中で、その姿だけが凛と浮かび上がっていた。
纏う空気さえも、どこか神聖に感じられる。
渚
「……皆さん、お待たせしました」
柔らかく、しかし芯の通った声。
その一言で、場に流れていた緊張が、ふっとほどける。
優羽
「……っ、すごく……素敵です……!」
思わずこぼれた声に、
他の者たちもはっとする。
紡
「本当に……!すごく似合ってます!」
縁
「いやぁ……これは、想像以上だね」
真白
「……とても、お似合いです」
その言葉に、
渚は少しだけ照れたように微笑んだ。
――そして。
時刻は、年明け十五分前。
境内の外から、
低く、ゆったりとした音が響き始める。
……ゴォン……。
除夜の鐘だ。
冷えた夜気を震わせるように、
その音はゆっくりと広がっていく。
大和
「――じゃあ皆さん!スタート位置にお願いしまーす!」
場の空気を切り替えるように、大和の声が飛び、大和が撮影用のスマートフォンを構えた。
それぞれが一斉に動き出す。
足音は静かに、
しかし確かな意思を持って配置へと向かう。
配置についた渚が、
そっと笑成へと向き直る。
渚
「年末年始のお忙しい中……本日は本当にありがとうございます」
その言葉に、笑成はぱっと顔を明るくした。
笑成
「いえいえ!全然です!」
笑成
「むしろ、渚さんのイベントに携われて光栄です!」
くるりと提灯を軽く揺らしながら、続ける。
笑成
「それに――なんでか今年、店長が年末年始の二日間お休みくれたんですよ!」
笑成の無邪気な喜びの声を聞き、
縁と真白は、ほんの一瞬だけ視線を交わす。
縁
(……ああ、なるほど……豊穣神様、
神通力まで使って)
真白
(豊穣神様……そこまでなさったのですね)
小さく、納得するように息をつく。
いよいよ行列が始まろうとしたその瞬間――。
漆黒の夜空に、鋭い稲光が走った。
それはただの雷ではない。
結界の向こう側で、激しい戦いが繰り広げられている証だ。
刹那――
遅れて、かすかな振動。
それは、雷ではない。
結界の外、戦いの光だ。
真白の視線が、そちらへと引き寄せられる。
真白
(……行くべきか)
胸の奥で、わずかな揺らぎが生まれる。
真白
(白凪様たちが戦っている……ならば、僕も――)
振り返ろうとした、その瞬間。
背後から、静かな声が落ちた。
菖蒲
「……信じなさい」
真白が振り向く。
菖蒲は、わずかに目を細めていた。
菖蒲
「白凪様たちは、死線を幾度も潜り抜けてきた古参の眷属です」
その声には、揺るぎない重みがあった。
菖蒲が一歩、静かに近づく。
菖蒲
「それに……武器には、あなたと紡の神気を纏わせてあります」
その瞳は、揺るがない。
菖蒲
「あなたの心配など――杞憂です」
凛とした菖蒲の言葉に、真白はハッと我に返った。
真白の中の迷いが、すっと消えた。
真白
「……すみません」
小さく頭を下げ、顔を上げる視線の先には。
幸せそうに並び立つ、
渚とそのパートナーの姿。
真白
「……今は、こちらに集中しましょう」
静かに、しかしはっきりと告げた。
――その時。
大和
「時間です!――始めます!」
その声と同時に。
どこからともなく、神楽の音が流れ始める。
静かな夜に、
澄んだ旋律が重なる。
笑成が一歩前へ出て、ゆっくりと口を開いた。
笑成
「――狐の婿入り行列の、おなーりー」
その一言で、足並みを揃え行列がゆっくりと進み始める。
先導は、笑成とユッキー。
掲げた提灯からは、赤と青の光が滲み出し、
地面を幻想的に照らしていた。
全員の顔には、狐の面。
現実と幻の境界が、曖昧になっていく。
笑成とユッキーの後ろには――
導き手、縁。
迷いのない足取りで、静かに道を切り開く。
そして、その中央には主役である、
黒の紋付羽織袴姿の渚と、そのパートナー。
二人の狐面が、
月明かりの下で怪しくも美しく光る。
その面の奥に宿るのは、
確かな覚悟と、穏やかな幸福。
その後ろを真白、紡、優羽、菖蒲が静かに続く。
歩みは静かに、
しかし確実に本殿へと向かっていく。
――その途中。
ふと、歩いていた渚が違和感に気づき、小声で背後に尋ねた。
渚
「あの……みんな、耳と尻尾が……?」
見れば、
縁や真白たちの頭にはふさふさとした狐耳が、腰からは立派な尻尾が覗いている。
演出の小道具か、それとも――
戸惑う渚に対し、真白は口元に指を当て、
悪戯っぽく微笑んだ。
真白
「こちらの方が、
雰囲気が出るかと思いまして」
それは、真白のついた小さな嘘だ。
だが、その言葉に渚は安堵したように微笑み、小さく頷いた。
行列が鳥居を抜け、本殿へと向かうその頃。
結界の外では――
戦いが、最終局面を迎えていた。
白凪
「ふぅ……。祓えさえすれば、どうということはないな」
白凪が太刀を鞘に納めようとしたが、
その視線の先、最後の一体が異様なまでの殺気を放っていた。
三国
「あの一体だけ、
やけにしぶといですね……」
三国の槍が火花を散らす。
小雲雀が険しい表情で告げる。
小雲雀
「おそらく、あれが本体でしょう。予想外でした。数日前にあれだけの分裂体を作り出しながら、これほどの力を残していたとは……」
磨墨
「それだけ何が何でも、今日この神社を潰したかったんだろうね。執念深いことだ」
磨墨が冷ややかに笑うが、その額には汗が滲んでいる。
疾風
「あいにく――迎え撃つのが、我らだった」
疾風が太刀を構え直す。
三国
「相手が悪かったな。我らがここにいる限り、一歩も通れないよ」
三国が不敵に言い放つが、状況は芳しくなかった。
楓
「……まずいです、白凪様!
付与していただいた真白様の神気が、もう底を尽きます」
楓の叫びに、皆が自身の武器を見る。
纏っていた白銀の光が、
今まさに消えようとしていた。
白凪
「仕方ない。退けるしかないか……」
ゴォン……。と、除夜の鐘が夜気を震わせた。
白凪
「人間の煩悩を削す鐘の音か……
面白いことを考えるものだね」
白凪
「確か、百八つ目は年明けにつくんでしたっけ?」
小雲雀
「えぇ、その通りです。綺麗な心で新年を迎えるための、最後の一打」
小雲雀の答えに、白凪の瞳に鋭い光が戻る。
白凪
「ならば、百八つ目が鳴る前に、あやつを片付けて見せよう!」
疾風
「応!」
三国
「同じく!」
次の瞬間。
疾風と三国が地を蹴り、最後の一体へと距離を一気に詰める。
だが、
神気の切れた刃は穢れの肉塊に弾かれた。
白凪
「三国は……小雲雀の若い頃だな」
小雲雀
「疾風こそ……出会った頃のあなたに似ていますよ」
言葉を交わしながら、二人も加勢する。
楓、磨墨も続く。
疾風の太刀と、三国の槍が同時に振り下ろされる。
――だが。
異様なまでに、硬い体に、
刃は弾かれ、火花が散り押し切れない。
神気は尽きかけ、攻撃は徐々に鈍る。
じり、じりと。
豊穣神社の結界へと追い詰められていく。
その時、
穢れ人が――嘲笑う。
???
「……ククク」
低く、歪んだ声。
???
「さっきまでの勢いは……どうしたのさ?」
その姿が、ゆらりと歪む。
白凪
「……やはりか、災禍の神――蛭子」
小雲雀
「婚礼の儀に水を差すなど……神としてあるまじき行為です!」
応戦しながら叫ぶ。
災禍の神
「はっ!」
穢れ人の中から災禍の神、蛭子が歪んだ笑みを浮かべる。
災禍の神
「はっ! 狐の婚礼なんて、微塵もめでたいとは思わないね! お前ら全員、その忌々しい幸せごと……消えちゃえよ!!」
その膨大な穢れが一点に集中していく。
一気に爆発させようとする破滅の力。
次の瞬間――
濁った神気が爆発し、
衝撃波が走る。
全員が一気に吹き飛ばされる。
だが。
誰も倒れない。
踏みとどまり、即座に立ち上がる。
その執念を、嘲るように。
蛭子は、さらに力を溜め始めた。
空気が軋み、大地が震える。
災禍の神
「お前ら、邪魔なんだよ……」
その一言とともに、
膨れ上がった穢れが、ついに臨界へと達する――。
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