狐火揺れる夜、守護の戦いが始まる
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十二月三十一日、午後十一時。
空気は凛と張り詰め、
吐く息は白くほどけていく。
夜の静寂の中、
提灯の灯りだけが柔らかく揺れていた。
真白
「――それでは皆さん、準備はよろしいでしょうか?」
澄んだ声が静かに響く。
まるで舞台の幕が上がる直前のように、その一言で場の空気が引き締まる。
縁
「僕たちは全員できてるよ」
縁が軽く肩をすくめながら笑う。
その余裕ある声音に、
周囲の緊張がほんの少しだけ和らいだ。
縁
「いやー、まさか人の子の導き役やる日が来るなんてねぇ。長生きするもんだ」
どこか楽しげに、
しかし誇らしげに言う縁。
その横顔には、長い時を生きてきた者だけが持つ穏やかな光が宿っていた。
笑成
「あ、あの! 本当に……私とユッキーでいいんでしょうか!?」
笑成が思わず声を上げる。
緊張で少しだけ声が裏返るが、それでも必死に笑顔を保とうとしているのが分かる。
縁
「もちろんだよ!だって、
人の子で僕たちの正体を知ってるの、笑成さんとユッキーちゃんだけだしね」
縁はさらりと言うが、
その言葉の重みは誰もが理解していた。
真白
「僕も、そう思います」
柔らかな声が続く。
穏やかな笑みを浮かべながら紡がれる言葉。
真白
「お二人は、僕たちの正体を知ってもなお、変わらず接してくれる。……とても貴重な人の子です」
その真っ直ぐな想いに、
笑成は一瞬言葉を失い、ユッキーも小さく息を呑んだ。
ユッキー
「真白様……なんだか今日は、すごく嬉しそ
うですね」
ユッキーがそっと問いかける。
隣で笑成も頷く。
真白
「ええ。長く生きてきて、初めて人の子の婚礼に参加できますので……少し、浮ついているのかもしれません」
真白は控えめに微笑む。
その表情は、確かにいつもより柔らかかった。
その様子に、
ユッキーと笑成は顔を見合わせる。
ユッキー
(真白様ほんとに嬉しいんだ……)
言葉にはしないが、
同じ気持ちが二人の間で通じ合う。
ふと、
ユッキーの小さな手に、笑成の指先が重なった。
笑成
「……絶対、成功させよう」
ユッキー
「そうね!」
二人で小さく円を作る。
その瞬間――
火の童子
「あたいらも混ぜてや!」
蒼
「……僕も」
勢いよく割り込んできたのは火の童子と蒼だった。
気づけば四人で輪を作り、顔を見合わせる。
笑成・ユッキー・火の童子・蒼
「「「「おー!」」」」
小さな掛け声が夜に弾けた。
その傍らでは、
優羽が忙しなく動き回っていた。
優羽
「渚さんたち、今ちょうど着付けの最中なので……今のうちに狐火の準備、しちゃいましょう!」
明るく言いながら、
提灯の並ぶ場所へと皆を促す。
ずらりと並んだ提灯、その数は、
これからの行列の規模を物語っていた。
火の童子
「ほな、いくで」
火の童子が指先を軽く弾く。
次の瞬間、ぽっと柔らかな炎が灯る。
蒼も静かにそれに続き、ひとつ、またひとつと灯りが増えていく。
揺れる炎は不思議な光を放ち、どこか現実離れした幻想的な空間を作り出していた。
火の童子
「縁も似合っとるやないか!」
火の童子がからかうように笑う。
縁
「ふふっ、ありがとう」
縁は少し照れたように目を細めるが、まんざらでもなさそうだ。
菖蒲
「優羽も……振り袖が似合う年頃になったのですね」
しみじみと呟く菖蒲、
その目はどこか遠くを見ている。
優羽
「菖蒲姉様も、とても素敵です!」
優羽がぱっと笑顔を向ける。
そのやり取りに、周囲の空気がさらに柔らかくなる。
火の童子
「これなら絶対に消えへん」
火の童子が胸を張る。
火の童子
「……あの二人の足元を、ずっと明るく灯してくれる」
隣で蒼が、少しだけ恥ずかしそうに続けた。
蒼
「……未来まで、明るい」
その言葉は小さかったが、確かにそこにいた全員の胸に届いた。
真白
「紡も……よく似合っていますよ」
真白が穏やかに声をかける。
紡
「ありがとうございます! 僕、婚礼に参加するの初めてで!」
紡は嬉しそうに笑う。その無邪気さに、周囲から小さな笑いがこぼれた。
その時、縁がふと手を上げる。
縁
「皆、ちょっといいかな?」
場の視線が自然と集まる。
縁
「行列が始まったら――」
縁の提案が語られるにつれ、空気がわずかに緊張を帯びる。
真白
「……それは、大丈夫でしょうか?」
真白が慎重に問いかける。
その不安を断ち切るように、
後ろから元気な声が飛び込んできた。
大和
「いいですね! 大丈夫です! なんとかなります!」
振り返れば、大和がスマホを構えていた。
頼もしいその笑顔に、
皆の表情も自然と引き締まる。
祝福の準備は整った。
提灯の灯り、
交わされた決意、重なった想い。
すべてが、この一夜のために。
――だが。
その祝福の灯りが、最も強く揺れた、その時。
結界の外側で――
静かに、確実に。
災禍の神との戦いが、
幕を開けようとしていた。
豊穣神社を中心に展開された結界。
それは幾重にも重なり、
淡い光の層となって夜空に浮かんでいた。
外界から隔絶されたその領域は、
まるで静かな聖域のように穏やかだ。
――だが、その“上”。
結界の天蓋を踏みしめるようにして、歴戦の戦士たちが並び立っていた。
黒き翼を広げた烏天狗。
風を纏う天馬。
夜空を背に、その姿はまるで戦場の前線に立つ守護者たちのようだった。
白凪
「……お出ましのようだ」
白凪が低く呟いた、その直後。
闇の向こうから、
ぞろぞろと“それ”は現れた。
人の形をしていながら、どこか歪んだ存在。
その顔には、感情がない。
だが――
目だけが、こちらを“理解している”かのように動いていた。
濁った気配をまとい、足取りは重く、
それでいて確実にこちらへ向かってくる。
ざっと数えて――三十。
結界の中に、不気味な気配が満ちていく。
小雲雀
「やはり、来ましたか……」
小雲雀が静かに言う。
手にした武器を軽く構え、
その瞳には一切の迷いがない。
疾風
「おめでたい日に、呼ばれもしていないのに来るとは……実に迷惑な連中だな」
疾風が肩を鳴らし、
風をまとわせる。
苛立ちを隠さない声だが、
その口元はどこか楽しげですらあった。
三国
「ならば――
さっさと、お帰りいただかなくてはな」
三国が一歩前へ出る。
静かな殺気が、場に満ちる。
白凪が後方へと視線を向けた。
白凪
「輝虎。あの穢れ人どもをこの結界に閉じ込めた後、我らは一斉に動く……それで問題ないか?」
その問いに、迷いはない。
そして――
輝虎が静かに言い放つ。
輝虎
「思い切りやれ。問題はない」
短く、しかし絶対の信頼を感じさせる声。
輝虎
「豊穣神の結界は景虎が張っている。……こちらは、好きに暴れていい」
その言葉に、白凪は深く頷いた。
白凪
「……とのことだ。皆の衆!」
白凪は一歩前へ出る。
そして――
その声が、戦場に響く。
白凪
「士気を上げよ!」
空気が一変する。
静から動へ。
その瞬間――
義久
「報告!」
義久の声が飛ぶ。
義久
「穢れ人、全て結界内に侵入!」
義弘
「こちらも確認した」
続けて義弘、寿久が応じる。
寿久
「配置、問題なし!」
その瞬間。
――ギィン。
空間が軋む音がした。
輝虎の結界が、完全に閉じる。
逃げ場はない。
――ここは、戦場だ。
輝虎
「さぁ――」
輝虎がゆっくりと手を上げる。
輝虎
「皆の衆。準備はよいな?」
一拍の静寂。
そして――
白凪
「我ら、烏天狗の誇りにかけて!」
小雲雀
「我ら、天馬の誇りにかけて!」
声が重なる。
白凪
「――勝ち鬨を上げよ。穢れを祓え」
全員
「「「おおおおおおおおおおお!!!」」」
咆哮が夜空を震わせた。
次の瞬間。
烏天狗と天馬たちが、
同時に穢れ人へと駆け出した。
――激突。
先陣を切ったのは白凪と疾風だった。
風を裂く速度で一気に距離を詰め、そのまま正面から穢れ人へと突っ込む。
白凪
「遅い!!」
白凪の一閃。
空気が裂けた。
次の瞬間には、穢れ人の身体が――
遅れて、真っ二つに崩れ落ちた。
だが、崩れた体は黒い靄となって再び形を成そうとする。
疾風
「再生持ちか……厄介だな、だが真白様の神気が効いている」
疾風が、足元に風を巻き起こす。
疾風
「なら――再生しきる前に砕くまでだ!」
風圧が爆ぜ、穢れ人の身体を粉々に吹き飛ばした。
その背後。
小雲雀
「来なさい」
小雲雀が静かに構える。
迫る影。
振り下ろされる歪な腕。
――キィン!!
鋭い金属音。
小雲雀の槍と歪な腕が激しくぶつかり合う。
小雲雀
「……その程度ですか」
小雲雀の瞳が細くなる。
一瞬の隙。
次の瞬間には、すでに懐に入り込んでいた。
閃光。
一体、また一体と崩れ落ちる。
三国
「数は多いが……統率は取れていないな」
三国が冷静に分析する。
その言葉通り、穢れ人たちはただ本能のままに襲いかかってくるだけだ。
三国
「ならば、こちらの方が有利だ」
三国が踏み込む。
重く、確実な一撃。
地を抉るほどの衝撃が、敵をまとめて薙ぎ払った。
空では白凪が駆ける。
風を裂き、
雷のような速度で敵を翻弄する。
烏天狗は空から急降下し、
正確無比な一撃で確実に仕留めていく。
連携は完璧だった。
烏天狗と天馬が、戦場を支配していく。
――だが。
白凪
「……まだ、来るか」
白凪が呟く。
倒したはずの影の奥。
さらに、蠢く気配。
底が見えない。
疾風
「数で押す気か……面白い」
疾風が笑う。
「なら、その数ごと叩き潰すまでだ!」
再び風が唸る。
戦いは激しさを増していく。
結界の中で繰り広げられる、もう一つの戦。
――その戦いの先に、
祝福があることを、誰も疑っていなかった。
最後までお付き合いいただき、
ほんとうにありがとうございます!
次回もお付き合いいただけたら幸いです。
(人´∀`).☆.。.:*・゜




