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実は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
――豊穣神社の大祓い編――

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巡る懐かしさ——その答え

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*

−−−




――来る十二月三十一日まで、あと三日。



冬の澄んだ空気の中、豊穣神社の境内はいつも以上に慌ただしさに包まれていた。


境内を吹き抜ける風は刺すように冷たいが、豊穣神社を包む空気はどこか熱を帯びていた。


一年の穢れを祓う『年末の大祓い』。

渚たちと共に企画している催し物。


その準備のため、縁たちは猫の手も借りたいほどの忙しさの中にいた。


鳥居の前には、すでに設置された茅のちのわ


その青々とした輪が、年の瀬の準備を物語っていた。


えにし

「茅の輪はもう大丈夫だね。

 あとは……撮影場所、どうしよっか」



視線の先には、

渚たちの姿。



渚は、少し考えるように視線を巡らせたあと、

柔らかく微笑んだ。



「鳥居から入ってきて、

 御本殿でお参りして……」


ゆっくりと、境内を歩きながら続ける。



「最後に、本殿を背にして皆さんと一緒に撮れたら、すごく素敵だと思うのですが……どうでしょう?」



その声音は穏やかで、

どこか、この場所に馴染んでいるようにも感じられた。


えにし

「いいですね、それが一番自然だと思いますよ」



えにしが頷く。



――そのやり取りを、

少し離れた場所から見ていた真白は、


なぜか渚から、視線を逸らせなかった。



鳥居の方へ歩いていく渚の背中。


冬の光に照らされて、

その輪郭がやわらかく滲む。



真白

(……なんだろう)



胸の奥に、

かすかな引っかかりが残る。



懐かしいような、

それでいて思い出せないような――



真白

(……この感じは……)



自分でも理由が分からないまま、

ただ視線だけが追い続けていた。



「真白様?」



隣から、そっと声がかかる。

紡が、心配そうに覗き込んでいた。



「渚さんが……どうかしたんですか?」



その声に、真白ははっと我に返る。



真白

「……すみません」



小さく息をついて、

言葉を探す。



真白

「なんだか……

 うまく言えないのですが……」


少しだけ目を伏せる。



真白

「気になる、というか……

 不思議な感覚で……」



言い切れず、

困ったように苦笑した。



真白

「すみません。

 自分でも、よく分からなくて」



その言葉に、

えにしと紡が顔を見合わせる。



そして、同時に視線を鳥居の方へ向けた。



えにし

「……たしかに」



ぽつりと、呟く。



えにし

「普通の人の子ならさ。

 豊穣神様が、天界の神々にまで

 協力をお願いしにいくなんて――まずないよね」



少しだけ肩をすくめる。



えにし

「愛し子でも、そうそうない」



静かな言葉だった。

だが、その意味は重い。



三人は、

あらためて渚の背中を見つめる。



その存在に、

言葉にできない違和感が残っていた。



――チリン


小さな鈴の音が、風に紛れて響いた。


気づいたときには、

すぐそばに一人の青年が立っていた。



気配すら、なかった。



義久

「はじめまして、狐の皆様。私は、玉繭たままゆの神に仕える猫の眷属で、義久よしひさと申します」



穏やかな声で名乗ると、

義久よしひさは軽く頭を下げた。



えにし

「……気配、全然なかったね、驚きすぎて声も出なかったよ」



義久よしひさ

「偵察が本分ですので」



そう言って、

義久よしひさは、やわらかく微笑む。



それから、


義久よしひさ

「ここ数日、あの方の周りを偵察しておりましたが、災禍の神の手下も、その不穏な気配も感じられません。ひとまずは、ご安心召されますよう」



真白が、わずかに息をつく。



――だが。



その直後だった。



ひゅ、と。



風を切る音。



次の瞬間、

一人の影がすっと現れる。


???

「捕まえた……」


背後の木々がざわめき、

もう一人の猫の眷属が姿を現した。


その右手には、黒い塊が握りしめられている。


「……っ!?」


それは、

災禍の神の『目』とされるカラスだった。


義弘の太い指に喉元を押さえつけられ、

カラスは鳴き声一つ上げられず、必死に足をバタバタさせて暴れている。



真白たちが息を呑む中、



義久が、静かに手をかざした。


ふわり、と。

指先から、細い糸が伸びる。


光を帯びたそれは、

まるで絹のようにしなやかで――


次の瞬間。


糸が編み上がり、

小さな繭のような空間を作り出す。


その中へ、

カラスが吸い込まれるように閉じ込められた。


ぴたり、と動きが止まる。


義久よしひさ

「……これで大丈夫です」



義久よしひさは振り返る。


義久よしひさ

義弘よしひろ。ご挨拶を」



促されて、

義弘よしひろは少しだけ顔をしかめる。



義弘よしひろ

「……義弘よしひろです」



義弘よしひろが短く挨拶を終えると、



義久よしひさが手毬を指し示しながら説明を続ける。



義久よしひさ

「この『茉莉まり』には、玉繭たままゆの神様の神気が込められています。

いわば、持ち運びのできる小さな神域の檻。

カラスの肉体だけでなく、その中に潜り込ませていた災禍の神の意識ごと、完全に遮断しました」



――その時、


木陰に、もう一つの気配が揺れる。



義弘よしひろの影から、さらに音もなくもう一人の眷属、が姿を現す。


???

「これを烏天狗の元へ届けてくる。……行くぞ」


そう言って立ち去ろうとした眷属に、義久よしひさ


義久よしひさ

寿久としひさ! 皆様にご挨拶をなさい」



寿久としひさ

「……寿久としひさです。よろしく」



そう短く挨拶をすると、義弘よしひろ寿久としひさは、


言葉を交わすまでもなく、冬の木漏れ日の中へと溶けるように消えていった。



呆気に取られていた真白が、残った義久に問いかける。


真白

「あの……義久さん。あんなに鮮やかに捕らえられるのでしたら、どうして今まで災禍の神を捕らえられなかったのですか?」


義久よしひさは一拍置いて、続ける。


義久よしひさ

「まず、災禍の神は神出鬼没。どこに現れるか見当もつかないため、待ち伏せができなかったのです。」


義久よしひさ

「ですが今回は、この豊穣神社に執着しているという話を伺っていましたから。網を張るのは容易でした」



義久は一度言葉を切ると、少し肩をすくめた。


義久よしひさ

「それから……我ら猫の眷属は、そもそも他の眷属様方との交流が乏しく、これまでは協力のすべもございませんでした」



それを聞いた紡が、不思議そうに首を傾げる。


「その皆さんが、どうして今回はこれほどまでに協力してくださったのですか?」


義久よしひさ

「えっ?」


義久よしひさは意外そうな顔をした後、この日一番の、太陽のような笑顔を見せた。


義久よしひさ

「そりゃあ……豊穣神様から、後で最高の『いなり寿司』が奉納されると約束していただいたからですよ!」



あまりに率直すぎる理由に、

真白、えにし、紡の三人は、一瞬の静寂の後、同時に吹き出した。


冬の緊張感が、笑い声と共に霧散していく。


えにし

「まさか、狐の『いなり寿司』がそれほど評判だったとは思いませんでした」



えにしが可笑しそうに言うと、義久よしひさは鼻を高くして反論した。


義久よしひさ

「あなた方は食べ慣れているから気づかないのでしょうが! 我ら他の神々や眷属にとって、狐の皆様が仕込むいなり寿司は、滅多にお目にかかれない至高の代物なんですよ!」



義久よしひさが熱く語ろうとした、その時。


義久よしひさ

「おや、先ほどの人の子が戻ってきそうですね。……では、私はこれにて!」



猫特有の鋭い感覚で渚の接近を察知した義久よしひさは、颯爽と、そして音もなく姿を消した。




――入れ替わるように。



渚が戻ってくる。



「大体、準備は整いました」



やわらかな声。



「あと当日を待つだけですね」



穏やかに微笑む。


そして――


渚はふと足を止めると、

真白へ静かに視線を向けた。



冬のやわらかな陽がその横顔を照らし、

どこか懐かしさのようなものが滲む。


「……なんだか」


少しだけ首を傾げて、

照れたように笑う。


「真白さんとは、ずっと昔から知り合いだったような……そんな、不思議な気持ちになります」


何気なくこぼされたその言葉は、

真白の胸の奥を、確かに揺らした。


真白はわずかに目を見開く。


――同じだ。


自分が抱いていたあの言葉にできない感覚を、渚もまた抱いていたのだと知り、

鼓動がひとつ大きく鳴った。



その時だった。


隣で二人のやり取りを見ていたえにしが、はっと何かに気づいたように表情を変えた。


えにし

「……失礼ですが、

 こちらのご出身ですか?」


渚は少し驚いたように瞬きをしたあと、

素直に頷いた。



「はい。生まれも育ちも、この土地です」


一度、鳥居の向こうの町並みへ視線を向ける。


「ご先祖様の代から、この辺りに暮らしている一族だと聞いています。

 もともとはお百姓さんだったそうで……

 明治の頃から、菓子店を営むようになったんだとか」


その答えに、

縁の瞳がわずかに揺れた。


ちょうどその時、

少し離れた場所から渚のパートナーが手を振る。


パートナー

「渚、そろそろ帰れる?」


「あ、うん」


渚は真白たちへ向き直り、


「それでは、当日よろしくお願いします」


真白

「はい。こちらこそ」


小さな会釈を交わし、

二人は並んで鳥居の方へ歩き出す。


肩が触れそうなほど近い距離で、

自然に歩調を合わせながら。


その後ろ姿を、

真白はただ黙って見つめていた。


そして――

鳥居をくぐる寸前。


渚の手に、

パートナーの手がそっと重なる。


何気ない仕草、けれどそこには、

言葉にしなくても分かる穏やかな幸せがあった。


冬の光の中で、

手を取り合う二人の姿が

少しずつ小さくなっていく。


その光景を見た瞬間、真白の胸の奥で、

長く眠っていた何かが、ふっとほどけた。


真白

「……えにし様」


かすれた声で名を呼ぶ。


縁はすぐには答えなかった。


去っていった二人の背中を見つめたまま、

少しだけ考えるように目を伏せる。


やがて、

静かに口を開いた。


「……真白くん」


その声音は、

いつもよりずっと穏やかだった。



「もしかしたら、だけど」


ひとつ、息を継ぐ。


「渚さんは……

 秋穂さんと稲人さんに、繋がる人なのかもしれない」


真白の瞳が揺れる。


縁は、遠い昔を思い返すように続けた。


「真白くんが天界へ来た少し後、

 僕は豊穣神様の命で、この神社へ来たんだ」


懐かしむように、少しだけ目を細める。


「その頃ね……

 秋穂さんと稲人さんの生まれ変わりと思える子たちが、

 この村で育っていた」


風が、木々を揺らす。


縁の声だけが、

静かな境内にやわらかく落ちていく。


「その二人は、ずっと仲良く育って、

 やがて夫婦になった。

 立派なお百姓さんになって……

 本当に幸せそうだったよ」


真白の喉が、小さく鳴る。


「渚さんを見た時、なんとなく、その子に似ている気がしたんだ」


少し困ったように笑って、肩をすくめた。


「それに……

 その二人の子どもたちが、のちに菓子店を開いたって、風の噂で聞いたことがあってね」


一拍置く。


「もちろん、確信があるわけじゃない。

 ただ――そんな気がしたんだ」


その言葉を聞いた瞬間。


真白は弾かれたように、再び鳥居の方を見た。


もう二人の姿は遠い。


それでも、

手を取り合って歩くその背中は、

はっきりと胸に焼きついていた。


真白

「……よかった……」


ぽつりとこぼれた声は、

震えていた。


真白

「本当に……

 よかった……」


頬を伝うものに気づくより先に、

涙が静かにこぼれ落ちる。


真白

「秋穂様と稲人様が……

 来世で、幸せに生きられたんだ……」


その声には、

安堵と、喜びと、長い時を超えた祈りが混ざっていた。


胸の奥に残っていた、あの懐かしさ。


渚を見た時から

ずっと引っかかっていた温かな感覚。


真白

「……だから、だったんですね」


小さく呟く。


真白

「僕が渚さんに懐かしさを覚えたのは……

 きっと、秋穂様に繋がる何かを感じていたから……」


その言葉に、

隣で聞いていた紡も目元を潤ませた。


「……よかったですね、真白様」


そっと背中に手を添えて、

やさしく撫でる。


えにしも、泣き笑いのような顔で

真白の頭をくしゃりと撫でた。


えにし

「良かったね、真白くん」


そのぬくもりに、

真白はこくりと頷く。


――と、その時。


ばたばたと忙しない足音が近づいてきた。


優羽ゆうは

「みなさーん! そろそろ――って、ええっ!?」


駆けてきた優羽ゆうはは、

涙を流す真白を見てぎょっと目を見開く。


優羽ゆうは

「ど、どうしたんですか!?

 どこか痛いんですか!?

 誰か何かしました!?」


慌てふためく優羽ゆうはに、

えにしが事情をかいつまんで説明する。


その話を聞き終えるや否や――


優羽ゆうは

「よがったですねぇぇぇ真白様ぁぁぁ!!」

 


真白の涙が引っ込むほどの勢いで、

優羽ゆうはが号泣しだした。

 


優羽ゆうは

「うわああぁぁぁん!!

 よがった……ほんとによがったですぅぅ……!!」



あまりの泣きっぷりに、

真白は思わず目をぱちぱちと瞬かせる。



優羽ゆうはさんの方が泣いてます……」

 


えにし

「すごいね、これは」


結局その後、真白と優羽は並んで縁側に座り、

琥珀糖を一粒ずつ口にしながら、

ようやく少し落ち着いた。


甘さがじんわりと舌に広がるたび、

張りつめていた心が少しずつほどけていった。



やがて、涙の気配がすっかり引いた頃。

縁が、ぱんっと手を打つ。


えにし

「――よし」


その一言で、

空気が静かに引き締まった。


えにし

「当日は、絶対に災禍の神なんかに邪魔させない」


真白が顔を上げる。


その瞳には、

もう迷いはなかった。


真白

「はい」


紡も、きゅっと拳を握る。


「僕も……頑張ります」


優羽は目元をぬぐって、

力強く頷いた。


優羽ゆうは

「もちろんです!

 絶対に、みんなで守り切りましょう!」


四人は自然と輪になる。


差し出された手が重なり、

そこに、確かな温もりが集まる。


えにし

「せーの」


真白

「守りましょう」


「はい!」


優羽ゆうは

「おーっ!!」


重なった声が、

冬の境内に小さく響いた。


年の瀬。


巡るえんは、

過去と今を静かに結び直しながら、

確かにこの場所へと集まってきている。


だからこそ――


そのすべてを、

守り抜かなければならない。


来たる大晦日。


人の子の願いが、

祝福の光の中で結ばれるその瞬間まで。


誰にも、

邪魔などさせない。




最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!


次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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