表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
実は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
――豊穣神社の大祓い編――

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

161/167

年の瀬、神々と眷属の想いが巡る時

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*

−−−




――その頃山守の社。


夜風に揺れる木々の音の中、白玲はくれい白凪しらなぎのもとへ急いでいた。


社の入口で出迎えたのは、疾風はやてと、もう一人の烏天狗――かえでだった。


疾風はやて

「叔父上、白玲はくれいはなんと?」


楓は足を止めることなく答える。


「豊穣神社に、災禍の神の目が現れたらしい……白凪しらなぎ様に報告を」


短く言い残すと、そのまま奥へ消えていく。


疾風はやてと楓は顔を見合わせた。


疾風はやて

「……穏やかじゃないですね」


「ああ」


二人もすぐに、その後を追う。


――その少し後の天馬の社。


月明かりの下、

一羽の白いカラスが静かに舞い降りる。


その足には、文が括りつけられていた。


受け取ったのは、小雲雀こひばりだった。


隣には磨墨するすみが控えている。


小雲雀こひばりは文を開き、静かに目を通す。


読み終えたその横顔が、わずかに引き締まった。


磨墨するすみ

小雲雀こひばり様、烏天狗はなんと?」


小雲雀こひばりは文を畳み、静かに歩き出す。


小雲雀こひばり

「どうやら、災禍の神が――」


言葉を続けながら、本殿へと向かう。

白い裾が、夜気の中で静かに揺れた。


――焔神社。


火の童子かのこどうじが、いつものように勢いよく障子を開け放つ。


火の童子かのこどうじ

「っちゅーわけで!十二月三十一日は、アタイと蒼で豊穣神に行ってくるさかい!」


どん、と胸を張る。


火の童子かのこどうじ

燈真とうま! 焔神社のこと頼むな!」


唐突すぎる宣言に、燈真とうまは目を瞬かせた。


燈真

「えっ……ちょ、ちょっと待ってくれ。

 急にそんなこと言われても――」


だが火の童子かのこどうじは、もう次のことを考えている。


火の童子かのこどうじ

「そうや!澪斗みなと静音しずねにも声かけたろ!」


その横で、大和がにこやかに微笑んだ。


大和

「父さん、諦めてください。

 もう決定事項みたいですし。

 当日は、よろしくお願いします」


燈真とうまは肩を落とす。


燈真とうま

「……はあ」


その様子を見て、火の童子かのこどうじは満足げに笑った。


――同じ頃、龍神神社にも。


白カラスの使いが、音もなく舞い降りていた。


文を読み終えた澪斗みなとは、ぱっと顔色を変える。


澪斗みなと

「姉さん!」


そして、


そのまま本殿の方へ駆け出した。



――その頃、天界では。


透き通るような光の雲海の上に、

幾重もの社が静かに浮かんでいた。


地上の年の瀬とは異なり、

ここには澄みきった神気と、

凛とした静けさが満ちている。


その中を、

豊穣神ほうじょうしんはまっすぐに歩いていた。


やわらかな金の光を帯びた衣の裾が、

白い雲を撫でるたび、淡い光の粒がふわりと舞う。



――年末。


本来ならば、どの神々にとっても多忙を極める時期だ。


それでも。

今、頼らねばならない。


来るべき十二月三十一日の深夜。


人の子の願いを守り、きちんと届けるために。



豊穣神が最初に足を運んだのは――

庇護のひごのかみの社だった。



重厚な門が音もなく開く。


鍛え上げられた神気と、

どこか豪胆な気配に満ちたその社の奥から、

庇護の神が現れる。


堂々たる佇まい。

だが、その眼差しには人懐こい気安さも宿っていた。



豊穣神

「庇護の神様。

 年末のお忙しいところ、申し訳ございませんが――

どうか、ご助力をお願いいたします」



豊穣神は、深く一礼する。


その姿に、庇護の神は一瞬だけ目を細めたあと、すぐににこっと笑った。



庇護の神

「お任せください」



返事は、驚くほど早かった。



庇護の神

「お礼に稲荷寿司をいただけるとのこと。

 喜んで、お受けいたします!」



満面の笑み。


そのあまりの即答ぶりに、

豊穣神は思わず瞬きをする。


だが、庇護の神はすでにすっかりその気になっていた。



庇護の神

「我が眷属から、とびきり優秀な二名を送りましょう。ゆえに、どうぞご安心を」



胸を張って言い切るその姿に、

豊穣神もふっと表情を和らげた。



豊穣神

「……感謝いたします」



庇護の神はそこで、ふと何かを思い出したように顎へ手を当てる。



庇護の神

「それから――」



わずかに声の調子を落とす。



庇護の神

「今回は、偵察が得意な者もいた方が良いかもしれません」



豊穣神は、その言葉に静かに頷いた。


少しだけ考え込み、

すぐに微笑む。



豊穣神

「では……玉繭たままゆの神にも、お願いしてみます」



そう告げると、豊穣神の姿はやわらかな金の光に包まれ、

次の瞬間にはその場から消えていた。



残された庇護の神は、

しばし神妙な顔でその光景を見送っていたが――



次の瞬間。



庇護の神

「稲荷寿司案件、嬉しすぎる!!」



勢いよく両腕を上げる。


今にも乱舞しそうな勢いで喜ぶその姿に、

そばで控えていた二人の眷属が、

揃って冷めた目を向けていた。



輝虎

「……やっぱり、そこが本命だったんですね」


景虎

「そうではないかと思ってました」



庇護の神は咳払いを一つすると、

無理やり厳かな顔を作った。


だが頬の緩みは、どうやっても消えなかった。


――次に豊穣神が訪れたのは、


玉繭たままゆの神の社だった。



そこは、庇護の神の社とは対照的に、

静けさの中に絹糸のような繊細さが漂う場所だった。


薄い絹のような神気が幾重にも垂れ、

光そのものが織物のように見える。



豊穣神が姿を現すと、

玉繭たままゆの神は上品な微笑みを浮かべて振り返った。



玉繭たままゆの神

「あら、豊穣神様」



穏やかな声。

その一言だけで、空気がさらにやわらぐ。



豊穣神

「急なお願いで恐縮ですが――」



そこまで言ったところで、

玉繭の神は、すべてを察したように微笑んだ。



玉繭たままゆの神

「稲荷寿司をいただけるのでしたら、もちろん」



実に優雅な口調だった。



だが、その言葉の内容は、庇護の神とほとんど同じである。



豊穣神は、思わずくすりと小さく笑う。



玉繭たままゆの神

「優秀な者を三名ほど送りましょう。

 隠密にも、索敵にも向いた子たちです。

 どうぞ、当日はご安心を」



豊穣神

「ありがとうございます」



丁寧に感謝を告げると、

また光が揺れ、

豊穣神の姿は次の社へと向かう。



――最後に訪れたのは、


月の神の社だった。



夜の静寂をそのまま形にしたような、

澄みきった銀の世界。


白いきざはしを上がった先で、

月の神はすでに豊穣神を待っていた。



月の神

「用件は分かっています」



そう言って、

月光を思わせる涼やかな微笑みを浮かべる。



月の神

「稲荷寿司をくださるなら、お受けしましょう」



豊穣神は、とうとう小さく吹き出した。



豊穣神

「皆様、本当にお優しいのですね」



月の神は、すました顔のまま言う。



月の神

「ええ。決して、稲荷寿司だけが理由ではありません」



一拍置いて。



月の神

「……少なくとも、表向きは」



豊穣神は、肩を揺らして笑った。



月の神

雪兎ゆきと月糸つくし

 頼みましたよ」



呼ばれて現れた二人の眷属は、

どこかほのぼのとした空気をまとっていた。



雪兎

「また稲荷寿司食べられるなら、頑張りますー」


月糸つくし

「頑張りますー」



朗らかな返事に、

豊穣神の笑みはますます深くなる。



豊穣神

「よろしくお願いいたします」



そう言って一礼すると、

再び光に包まれ、地上――


豊穣神社へと戻っていった。




――豊穣神社。



夜もだいぶ深まり、

昼の賑わいが夢だったかのように、

境内は静けさを取り戻していた。


だが、その静けさは、もはや寂しさではない。


どこか満ち足りた、あたたかな余韻だった。



社務所には、

真白、えにし、紡、優羽ゆうはが揃っていた。


そこへ、豊穣神が姿を現す。



ふわりと、やわらかな稲穂色の光が舞い、

空気が一気に澄んでいく。



真白

「豊穣神様……!」


「お、おかえりなさいませ……!」


優羽ゆうは

「豊穣神様!」



皆が姿勢を正す中、

豊穣神は穏やかな微笑みを浮かべた。



豊穣神

「皆に報告に参りました」



その一言で、

四人の表情が引き締まる。



豊穣神

「当日は、安心して人の子の願いを叶えなさい。支援は十分に整いました」



その言葉に、

真白たちはほっと息を呑んだ。



えにし

「……本当に、他の神々様が引き受けてくださったんですか?」



まだ少し信じられない、といった顔。



豊穣神は、くすりと笑う。



豊穣神

「ええ。これほど快く、他の神々や眷属たちが引き受けてくださるのは……本来、とても珍しいことです」



そう言いながら、

真白、えにし、紡、優羽ゆうはを順に見渡す。



豊穣神

「ですが、それはきっと」



その声音が、ひどくやわらかいものになる。



豊穣神

「真白、えにし、紡、優羽ゆうは


名を呼ばれた四人は、

思わず背筋を伸ばした。



豊穣神

「あなたたちが繋いできた御縁が、

 巡り巡って、今ここへ返ってきているのでしょう」



その言葉に、

真白の瞳がわずかに揺れる。


紡は胸元で手をきゅっと握り、

優羽ゆうははぱっと表情を明るくした。



豊穣神

「……素晴らしいことです」



はっきりとした賛辞。



四人の胸に、

あたたかなものが満ちていく。



真白

「……ありがとうございます」



真白が静かに頭を下げる。


紡も、少し遅れてぺこりと頭を下げた。



「ぼ、僕たち……

 そんなふうに、なれていたなら……うれしいです」



優羽ゆうはは、にっと笑って胸を張る。



優羽ゆうは

「私たち、豊穣神様の眷属で本当に幸せです!」



そのまっすぐな言葉に、

えにしも柔らかく頷いた。



えにし

「うん。

 こんなふうに御縁が巡るのを見られるなんて……狐の眷属冥利に尽きるよね」



そして、えにしはいたずらっぽく笑って、

真白と紡に視線を向けた。



えにし

「じゃあ――当日は、狐の眷属の本領発揮ってことで」



その言葉に、

真白も静かに頷く。



真白

「はい」



紡も、ぎゅっと拳を握る。



「……が、頑張ります!」



豊穣神は、そんな彼らを見つめ、

本当に嬉しそうに微笑んでいた。



社務所の外では、

夜風がやさしく木々を揺らしている。


その音はまるで、

来たる年の瀬の夜へ向けて、

静かに背を押してくれているようだった。



願いがある。


守りたいものがある。


繋いできた縁がある。


人の子の祈りと、

神々の想いと、

眷属たちの絆が――


静かな夜に確かに、

ひとつの場所へと集まり始めていた。



だが、その静けさの下で。


確かに、何かが動き始めている。


年の瀬。


それぞれの想いと、えんと、祈りが。


――すべては、


願いが届く、その夜へ向けて。


始まりは、もうすぐそこまで来ていた。

最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!


次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ