穢れ一閃――浄化の刃
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−−−
――同じ頃、
厳かな鳥居がそびえる参道付近は、
すでに戦場と化していた。
かつての神域は今や、
黒い瘴気を纏った『穢れ人』の群れによって埋め尽くされていた。
菖蒲
「――はあぁっ!」
打ち鳴らされる刃の音。裂ける空気。地に散る穢れ。
優羽の剣が閃き、
菖蒲の薙刀がしなやかな弧を描く。
その動きはまるで舞のように美しく、
しかし一切の躊躇も容赦もない。
優羽
「――はあっ!」
優羽の一閃で穢れ人の胴が断たれる。
だが次の瞬間、断ち切られた肉が蠢き、
まるで何事もなかったかのように繋がり直る。
優羽
「……っ、これじゃキリがない! 斬り伏せても、すぐに傷が塞がっていく……! なんで?!」
優羽が悲鳴に近い声を上げた。
押し寄せる穢れ人の群れを斬り伏せる二人だったが、呼吸はすでに荒く、額には汗が滲んでいた。
一方で菖蒲は、同じように穢れ人を薙ぎ払いながらも、視線は冷静だった。
菖蒲
(確かに優羽の言う通り……だけど)
刃が肉を断つ感触。
その違和感を逃さない。
菖蒲
(再生する者と、しない者がいる……?)
次の瞬間、菖蒲の背後から穢れ人が飛びかかる。
紡
「――危ない!」
紡の声と同時に、
透明な結界が弾けるように展開された。
ガンッ――と鈍い衝撃音。
穢れ人は見えない壁に叩きつけられ、
弾き返される。
その隙を逃さず、菖蒲の薙刀が閃いた。
菖蒲
「――斬ッ!」
穢れ人は真っ二つに裂かれ――
そのまま、再生することなく、
音もなく蒸発するように消えた。
菖蒲
「……!」
菖蒲の瞳がわずかに見開かれる。
菖蒲
(紡の結界に触れたから……?)
その可能性を確かめるように、
菖蒲はあえて別の穢れ人へと踏み込んだ。
薙刀が振るわれ穢れ人を斬る。
だが――やはり再生する。
確信に近い直感が胸をよぎる。
菖蒲
「やはり……」
再生する穢れ人の攻撃を紙一重でかわし、
菖蒲はすぐさま紡の元へと跳躍した。
菖蒲
「紡!」
紡
「は、はいっ!」
菖蒲は薙刀を差し出す。
菖蒲
「この刃に、あなたの神気を纏わせることは出来ますか?」
紡
「え、えっと……やったことないので……」
視線が揺れる。
だが菖蒲は落ち着いた声音で言った。
菖蒲
「大丈夫です。想像してみてください。この刃に、薄い布を重ねるように――あなたの神気を優しく纏わせるように」
紡
「……は、はい……!」
紡が返事とともに、震える手で刃にそっと触れる。
淡い光が、紡の手元から滲み出し、ゆっくりと薙刀へと流れ込んでいく。
やがて刃が、ほんのりと神聖な光を帯びた。
紡
「……で、できた……と、思います」
菖蒲
「――上出来です!」
菖蒲は即座に戦線へ戻る。
迫りくる三体の穢れ人に対し、円を描くような一閃。
神気を纏った刃が斬り裂いた瞬間、
穢れ人は、再生することなく霧散した。
菖蒲
「……やはり」
確信に変わる。
菖蒲は返り、乱戦の最中にいる優羽へ声を飛ばす。
菖蒲
「優羽! 今すぐ紡のところへ! その剣に紡の神気を纏わせてもらうのです!」
優羽
「御意!」
驚きつつも、優羽は菖蒲の言葉に従い、紡の元に駆け寄り剣を差し出す。
菖蒲
「紡!優羽の剣にも同じように!」
紡
「は、はいっ!」
優羽
「お願い!」
紡
「任せてください!」
優羽の剣に神気が流れ込む。
清らかな光を帯びた剣。
優羽は息を整え、目の前の穢れ人へ踏み込んだ。
優羽
「――これで!」
優羽の鋭い一閃、
その一撃で、穢れ人は再生することなく、
跡形もなく消えた。
優羽
「……っ、すごい……!」
驚きと興奮が混じる声。
優羽
「これなら――!」
優羽の動きが再び鋭さを取り戻す。
しかし――
長時間の戦闘が、
確実に二人の体力を削っていた。
肩で息をする優羽、わずかに足運びが鈍る菖蒲。
その時だった、風を切る鋭い音。
???
「――加勢します!」
静かな声と共に、
手にした槍を旋回させると、
一突きで三体の穢れ人を貫いた。
優羽
「え……誰?」
優羽が振り向く。
そこにいたのは、
どこかあどけなさを残す少年――
貫かれた穢れ人は、傷口を無理やり接合させ、即座に少年へ襲いかかる。
???
「……再生が早い」
その時――
菖蒲
「三国!」
菖蒲の声が戦場を切り裂いた。
菖蒲
「そこにいる紡の神気を、刃に貰いなさい!」
その声に弾かれたように、彼は槍を構えたまま、紡の元へと駆け出す。
三国
「承知!」
三国は、ざわめく境内の中できょろりと周囲を見渡す。
そして――見つけた。
自分と同じくらいの年頃の少年。
その周囲だけ空気が澄んでいるような、
不思議な存在感を放っていた。
迷いはなかった。
三国は紡のもとへ駆け寄る。
三国
「はじめまして! 僕は天馬の眷属、三国です!紡、さんですか?」
戦場に似つかわしくないほど爽やかな挨拶。
突然現れた少年に、
紡は目を丸くするも、
紡
「はい! 僕は狐の眷属の紡です!」
三国
「菖蒲様から、あなたの神気を刃にと。お願いします!」
差し出されたのは、曇りなき白銀の槍。
紡は、小さく頷き、そっと手をかざす。
次の瞬間――淡い光が、三国の刃へと流れ込んだ。
静かに、しかし確かに宿る“何か”。
紡
「……終わりました」
それだけ言って、紡は手を引く。
三国はぽかんとしたまま、槍を見つめた。
三国
(……これで?)
正直、実感はない。それでも――
三国
「ありがとうございます!」
勢いよく頭を下げると、
三国はそのまま踵を返し、再び討伐の場へと駆け戻った。
次の瞬間。
彼の刃が、穢れ人を斬り裂く。
一体、二体――
いや、それだけではない。
まとめて薙ぎ払った穢れ人たちが、
まるで煙のように、跡形もなく消え去った。
三国
「……え?」
三国自身が一番驚いていた。
三国
(すごい……すごいじゃん、あの人!)
三国は、
思わず振り返って紡を見た、その瞬間。
小雲雀
「余所見とは、感心しませんね」
静かな声が、すぐそばで響いた。
小雲雀がいつの間にか立っていた。
三国
「母様!」
三国はぱっと顔を輝かせた。
三国
「ですが、あの方の神気が凄いのです!!」
興奮気味に指差す先には、紡の姿。
三国は身振り手振りを交えながら、
先ほどの出来事を説明する。
一方の紡は――
紡
(え、え、なに……?)
いきなり現れた格の高い眷属に、完全に固まっていた。
そんな紡のもとへ、小雲雀と白凪が歩み寄る。
小雲雀・白凪
「……なるほど」
短く頷くと、
二人は自らの得物を差し出した。
紡は戸惑いながらも、同じように神気を纏わせる。
刃が、静かに輝いた。
それを確認すると、二人はすぐに踵を返し、討伐へ向かおうとする。
紡
「あ、あの!」
思わず紡が声を上げた。
紡
「皆は……真白様たちは、無事ですか?」
その問いに、
小雲雀は穏やかに微笑む。
小雲雀
「えぇ、みな無事です。安心なさい」
そして、
少しだけ柔らかい声で続けた。
小雲雀
「すぐに終わらせますから。あなたも、もう少し頑張ってください」
その一言は、確かな労いだった。
紡は小さく頷く。
ふと、小雲雀の視線が先へ向く。
そこには、激しく戦う菖蒲と優羽の姿。
小雲雀
「流石は黒狐の娘達……見事ですね」
隣で白凪も頷く。
白凪
「我らも負けてはいられない。では――推して参る!」
三人の気配が、
一気に戦場へと流れ込んだ。
その後の戦いは、まさに圧巻だった。
先ほどまで苦戦していた穢れ人が、次々と消えていく。
紡の神気を纏った刃は、ただ斬るだけで祓う。
――終わりは、あっという間だった。
やがて、静寂が戻る。
境内には、真白達が集まり、それぞれ顔を見合わせていた。
まず口を開いたのは、小雲雀。
小雲雀
「では改めまして。武神様に仕えております、天馬の眷属――小雲雀と申します」
三国
「同じく、三国です!」
続いて、白凪たちも名乗る。
白凪
「山守神にお仕えしています。烏天狗の眷属、白凪です」
疾風
「同じく疾風です」
狐の眷属も一歩前へ。
縁
「豊穣神様にお仕えする、縁です」
真白
「真白です」
優羽
「優羽です!」
紡
「……紡です」
その直後。
三国が勢いよく紡に詰め寄った。
三国
「すごいですね!! 君の神気!!」
目を輝かせて、完全に興奮している。
紡
「え、あの……」
戸惑う紡。
その様子に、
疾風たちが首を傾げる。
疾風
「……?」
そこで、
小雲雀と白凪が簡潔に事情を説明した。
紡と真白の力が、穢れ人を“祓える”特別なものであること。
これまで“退ける”だけだった戦いが、変わったこと。
白凪
「災禍の神も、それを確認に来たと言っていました」
白凪が静かに言う。
白凪
「見抜けず、申し訳なかった」
真白は首を横に振る。
すると小雲雀が続けた。
小雲雀
「ですが――討伐が可能になったことは、大きな成果です」
その言葉に、
場の空気が少しだけ明るくなる。
小雲雀
「我らは一度、天界へ戻り報告いたします」
白凪
「また何かあれば、ぜひ協力していただきたい」
そんな中、
真白がふと思い出したように尋ねる。
真白
「ところで……天馬の皆さんは、どうして援軍に?」
小雲雀
「豊穣神様からのご依頼で来ました」
小雲雀が答えた、その時。
御神木の方から、
ふわりと狐の気配が現れる。
巫女姿の幼い使いが三人。
大きな皿を抱えていた。
そこには――
山盛りの稲荷寿司。
幼い眷属
「豊穣神様より、労いの品にございます。稲荷寿司をお持ちしました」
その一言に、白凪と小雲雀の目が輝いた。
白凪
「これが……噂の」
小雲雀
「天界でも評判の……!」
思わず声が弾む。
張り詰めていた空気が、一気に緩んだ。
縁
「では、食べながら詳しい話を致しましょうか」
自然と、皆の足が社務所へと向かう。
戦いの後の、束の間の安らぎ。
だが――
この日、彼らが得た“力”と“繋がり”は。
きっと、これから訪れるさらなる試練の鍵となる。
それを、まだ誰も知らない。
ただ一つ確かなのは。
この出会いが、世界を少しだけ変え始めた――ということだった。
最後までお付き合いいただき、
ほんとうにありがとうございます!
次回もお付き合いいただけたら幸いです。
(人´∀`).☆.。.:*・゜




