真白の光 対 災禍の神――六百年越しの激突
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−−−
――縁の結界が、
きしりと音を立てて揺れていた。
その中心に――それはいた。
地面に、太刀ごと縫い留められた“何か”。
縁
(なんなの、あれ……。人じゃない、かといって、今まで見たどの悪鬼とも違う……あれが……)
人の形をしているはずなのに、
どこか歪で、存在そのものが異質だった。
見ているだけで、喉の奥がひりつく。
真白
(あれが……神……?いや、違う……何か、もっと……)
真白は思わず息を呑む。
心臓が早鐘を打ち、嫌な汗が背中を伝った。
理解が追いつかない。
ただ、本能だけが叫んでいた。
――関わってはいけない、と。
だが、視線は逸らせない。
白凪が、その存在と向き合っていたからだ。
隣に立つ疾風からも、
肌を刺すような鋭い殺気が放たれていた。
そして――
災禍の神
「天界に帰らない?ほんとに面白いね、白凪は!」
不意に、縫い留められた存在の口が裂けるように開き、ケラケラと、
無邪気な子供のような笑い声が響いた。
だが、その響きには底知れぬ悪意が滲んでいた。
災禍の神 "蛭子"――
その存在は、
縫い留められているにもかかわらず、
まるで世界の中心にいるかのような威圧感を放っている。
疾風と白凪は、その姿をただ冷ややかに見つめていた。
だが、その瞳の奥には、
確かな警戒と殺意が宿っている。
空気が、張り詰める。
次の瞬間。
災禍の神
「……天界なんて、帰るわけがないだろう」
災禍の神の声が一段と低く沈む。
それだけで、空気が一段冷え、
その言葉と同時に、周囲を囲う縁の結界がびり、と震えた。
災禍の神
「この現世に我を放り込んだのは、お前ら天界の主だ。今更どの面を下げて戻れと言う」
災禍の神から、
子供のような無邪気な笑顔が消えた。
代わりに滲み出たのは、
煮詰めた泥のようなドロドロとした恨みと怒りだ。
災禍の神
「……ほんと、面白くないね。白凪は」
冷たい怒りが、じわじわと広がっていく。
ふいに、その視線が動く。
災禍の神
「火の眷属か」
細められる瞳。
災禍の神
「君等もよく許せるね。生まれたばかりの赤子を斬り殺す『父神』に仕えるなんて……その忠誠心、滑稽だよ」
ぞくり、と真白の背筋に寒気が走る。
思考が一瞬止まる。
だが、間を置かずに――
疾風
「火の神が道をそれなかっただけでしょう」
疾風が氷のように冷ややかな声で撥ねつける。
災禍の神は、
わずかに目を細める。
白凪は小さくため息をついて言葉をつむいだ。
白凪
「まぁ、分裂体は捉えましたから。あなたの元へ辿り着くのも、もうすぐかと」
その言葉に――
災禍の神
「ぷはっ!」
災禍の神が吹き出す。
災禍の神
「はっ! やっぱり笑えるね、白凪は。ふふっ……あはははは!」
災禍の神は鼻で笑ったかと思うと、
やがて狂ったように肩を震わせながら、
愉快そうに笑う。
白凪
「お前が確かめたかったように
――私だって確かめたかったんだよ?
六百年前の、あの“光”の正体をね……」
――その瞬間。
白凪の瞳が、わずかに見開かれた。
白凪
(……っ!しまった!)
災禍の神
「ほんとに人間といい、お前たち武闘派の眷属どもは……思考が浅はかで、見ていて楽しかったよ」
くっくっ、と喉の奥で笑う。
愉悦に歪んだ神の瞳が、笑を深める。
災禍の神
「各神社に穢れの絵馬を結ばせて――白凪が辿り着く場所が“本命”だろうとは思っていたけど」
顔が、愉悦に歪む。
災禍の神
「こんなにあっさり辿り着けるとは!
罠とも思わず、わざわざ案内してくれるなんて!ふはははは!」
高らかな笑い声。
――その時だった。
白凪の表情が、完全に崩れた。
白凪
「貴様ぁッ!!」
白凪が激昂し、空気が震え、
縁の結界が大きく揺らぐ。
白凪
(やられた……!)
白凪の握りしめた拳が小刻みに震える。
白凪
(こいつ……最初から……!
真白くんの力を――確かめるために……!)
その瞬間。
災禍の神の瞳が――赤く光った。
ぱきん、と。
縁の結界が、硬質なガラスのように砕け、
一瞬で崩壊する。
世界を隔てていた見えない壁が、
音を立てて崩れていく。
白凪
「疾風! 真白くんを守れ!!」
白凪の焦った叫び声が響く。
疾風の反応は速かった。
迫りくる災禍の神の圧を、
正面から受け止めながら、背後にいた真白の身体を強引に抱え、後方へと放り投げた。
真白
「わっ――!」
地面に叩きつけられ、息が詰まる。
だが、真白はすぐに起き上がる。
視線を向けた先。
一瞬、世界の音が消えた。
真白
「……え……」
自分を庇うように立ち塞がった疾風の胸を、
災禍の神を縫い留めていたはずの、疾風自身の太刀――それが、疾風の胸を深々と貫いていた。
疾風
「――っ!」
理解が追いつかない。
だが次の瞬間、
喉が裂けるように声が出た。
真白
「疾風さん!!」
駆け出そうとする。
だが――
疾風
「……来ては、いけません……ッ!」
疾風は血を吐きながら、それでも災禍の神の腕を掴んでいた。
決して離さない。
その指は、食い込むほどに力が込められている。
疾風
「……真白様を……お守りください……!」
絞り出すような声。
その言葉に、足が止まる。
疾風
「くっ……!」
白凪が踏み込む。
神気が爆発し、地面が抉れる。
白凪
「はああああっ!」
怒りの一撃。
だが――
それよりも早く。
災禍の神は、笑っていた。
災禍の神
「無駄だよ」
次の瞬間。
ぶちり、と嫌な音が響く。
疾風が掴んでいた腕を――自ら引きちぎった。
災禍の神
「あはは! 邪魔だよ!」
片腕を失いながらも、
そのスピードは増していた。
一瞬で距離を詰められた真白の瞳に、
返り血を浴びて笑う災禍の神が映り込む。
澪斗
「真白さま――っ!!」
遠くで澪斗の悲鳴のような叫びが聞こえた。
死の爪が、真白の喉元に届こうとしていた。
――その瞬間。
ジャラリ、と鈍い金属音とともに、
幾重にも絡みつく水の鎖が災禍の神の分裂体を縛り上げる。
まるで意思を持つ蛇のように、
その動きを封じ込めた。
澪斗
「――蒼!いまだ!」
澪斗は叫んだ。
だが、息は荒く、明らかに限界が近い。
蒼
「……っ!――焼き尽くせッ!」
蒼の声が響く。
周囲に、轟、と炎が渦巻く。
空気が焼け、地面が焦げる。
爆ぜる炎は、
一直線に災禍の神へと走る。
だが、
災禍の神は嘲笑うかのようにその身からどす黒い波動を放ち、蒼と澪斗を弾き飛ばした。
澪斗
「がはっ……!」
真白
「蒼さん! 澪斗さん!」
地面に叩きつけられた二人を見て、
真白が叫ぶ。
しかし、倒れ伏した澪斗が顔を上げ、
必死に声を振り絞った。
澪斗
「真白さま……っ! まだ、鎖は解けていません! 今のうちに……!」
その言葉に、真白ははっとする。
真白
(僕が……これ以上、みんなを傷つけさせない!)
迷っている暇はない。
恐怖も、
躊躇も、全部――置いていけ。
真白は両手を広げた。
足元に、光が走る。
五芒星陣が、展開される。
淡く、しかし確かな力を宿した光。
真白
「――祓えッ!!」
解き放たれたのは――
闇を真っ向から塗り潰すほどの、眩い浄化の光。
その光は、
空間そのものを洗い流すかのように広がった。
災禍の神の分裂体は、その光に焼かれながらも、異様なまでのしぶとさで抗い続ける。
真白
(……消えない……!?)
削れているはずなのに、消えきらない。
そして。
災禍の神
「……なるほどね」
災禍の神が、笑った。
その身体の一部が、剥がれる。
それは形を変え――槍となった。
鋭く、禍々しい槍。
それが、一斉に真白へと向けられる。
災禍の神
「あはは……なら、これでどうだ!」
放たれた黒い槍が、
光を切り裂いて真白の元へと放たれた。
真白には見えていた。
だが、避ければ浄化の術が途切れる。
術が解ければ、
この怪物を外へ逃がすことになる。
それだけは――
真白
(……ダメだ)
歯を食いしばる。
真白
(刺し違えてでも……!ここで止める!)
真白は死を覚悟し、ぎゅっと目を閉じた。
その中で――
災禍の神の声が、響いた。
災禍の神
「……お前だけは、絶対に消してやる。僕の望みの……邪魔だからね……」
赤い瞳が歪み、光に溶けるように、
災禍の神の気配が消えていく。
そして――
同時に、槍が、真白へと到達する。
真白
(無事祓えましたね――)
真白はほっと息を吐いて、痛みを、
受け入れる覚悟をするように、目を閉じた。
だが――
痛みはやって来なかった。
代わりに、聞こえたのは乾いた、風を切る音と、何かが弾かれる音。
――カン、カン、カンッ!!
そして、
おそるおそる真白が目を開けると
目の前には――
“背中”と、高速で回転する長槍。
迫る黒い槍を、すべて弾き飛ばしているその動きは、美しいほどに洗練されていた。
真白
「……え?」
黒い槍を全てはじき飛ばしたその人物は、
槍の回転を止める。
そして、呆然とする真白の方をゆっくりと振り返った。
優しく穏やかな微笑み。
しかし、その瞳には確かな強さが宿っている。
???
「……よく頑張りましたね。」
柔らかな声。
???
「見事な浄化でした」
そっと差し出された手。
真白はその温もりに導かれるように、手を取って立ち上がった。
真白
「ありがとうございます……あなたは――」
言いかけた、その時。
白凪
「疾風!しっかりしろ!」
白凪の切羽詰まった叫びが、境内に響き渡る
真白は弾かれたように疾風の元へ駆け寄った。
白凪
「澪斗くん!治療術を!」
その様子を見た人物は短く指示を飛ばす。
???
「……疾風の容態を。急ぎなさい」
そこへ、澪斗も縁に支えられながら合流する。
深手を負い、顔色を失った疾風へ、澪斗が必死に治療術を施す。
だが――
澪斗
「くそっ……神気が足りない……! 僕の力だけじゃ……!」
澪斗の顔に焦りが滲む。
その時――
風が吹き抜け、眩い光が降り立った。
そこにいたのは――
光を纏う馬と、その背に乗る静音。
澪斗
「……っ、姉さん!?」
澪斗が思わず声を上げる。
静音
「癇癪を起こしている場合ではありません!」
ぴしり、と空気が締まる。
静音
「ともに術を、必ず疾風さんを助けるのです!」
静音の一喝に、澪斗が力強く頷く。
静音・澪斗
「治癒の理―癒しよ」
そして、二人の治療術が交差し、
疾風の傷口に柔らかな青く光る雨が降り注ぐ。
やがて、疾風のまぶたが微かに震え、重そうに開かれた。
疾風
「……白凪様……油断、しました……申し訳……ありませ……」
白凪
「馬鹿者ッ……!」
白凪は声を詰まらせ、
涙を零しながらその手を握りしめた。
その様子に、真白たちは驚いたが、
白凪
「……親より先に行くことは、断じて許さんぞ」
ぽつりと、告げられたその言葉に、
その場にいた全員が、息を呑んで理解する。
真白
(……そうか……白凪様にとって――
疾風さんは、ただの眷属ではなかったのですね)
やがて、安堵が広がり空気が緩む。
澪斗
「……姉さんが来てくれて良かった」
澪斗が息を吐く。
澪斗
「来てなかったら……疾風さんは……」
その先の言葉を飲み込む。
澪斗
「でも……どうしてここへ?」
静音は静かに答えた。
静音
「天馬の皆様が援軍に向かうとのことで。治療術を扱える者を、もう一人と」
穏やかに微笑む。
静音
「間に合って、本当に良かった」
そのやり取りを見届けてから。
真白は、先ほどの人物へと歩み寄った。
真白
「……先ほどは、ありがとうございました」
深く頭を下げる。
真白
「僕は、狐の眷属で真白と申します。以後、お見知りおきを」
顔を上げると、
その人物は、柔らかく微笑んだ。
???
「いいえ。疾風が無事で、本当に良かった」
それから、静かに名乗る。
小雲雀
「私は、武神様にお仕えしております。
天馬の眷属――小雲雀と申します」
そして、ふっと視線を外へ向ける。
まだ、戦いは終わっていない。
小雲雀
「……皆様とお話したいのですが」
槍を軽く回す。
小雲雀
「まずは外の穢れ人を殲滅してからに致しましょう」
その言葉に、空気が引き締まる。
小雲雀
「疾風は、そこで大人しくしていなさい、
白凪は……まだ戦えますよね?」
ちらりと視線を向ける。
白凪は、ふっと笑った。
白凪
「勿論だ」
強い神気が、静かに立ち上る。
白凪
「天馬と黒狐の娘達と共になら……すぐに終わるだろう」
小雲雀
「では、推してまいりましょう。」
小雲雀が一歩踏み出す。
小雲雀
「皆さんは、ここで少しお休みください」
振り返ることなく告げる。
小雲雀
「あちらは――黒狐の娘達と天馬と烏天狗にお任せを」
風が吹いた次の瞬間、もうそこに
白凪と小雲雀の姿はなかった。
外の戦場へ――消え、
静寂が訪れる。
だが、それはほんの一瞬だった。
遠くから、戦いの気配が伝わってくる。
――まだ、終わっていない。
けれど確かに、流れは変わった。
恐怖も、痛みも、全部――確かにそこにあった。
それでも。
真白
(僕は……立っている)
守れたものがある。
そして――
新たな力と、仲間が現れた。
物語は、ここからさらに動き出す。
――その確信だけが、
胸の奥で静かに燃えていた。
最後までお付き合いいただき、
ほんとうにありがとうございます!
評価やブクマなどいただけたら大変励みになります✨
次回もお付き合いいただけたら幸いです。
(人´∀`).☆.。.:*・゜




