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実は狐の眷属です! 真白と紡の神社日誌 ―600年前の巫女の願いから生まれました―  作者: 稲荷寿司
――豊穣神社の大祓い編――

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156/167

願いは、災禍を祓うためにある光

いつもお読みいただきありがとうございます!

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

(*˘︶˘*).。.:*

−−−




――災禍の神――



その分裂体との死闘が嘘のように、豊穣神社の社務所にはどこか場違いなほどの和やかな空気が満ちていた。


戦いの緊張は解け、代わりに鼻をくすぐるのは、甘辛く煮上げられた油揚げの匂い。


小雲雀が細めた目で、

手元の稲荷寿司を見つめる。


薄く繊細な皮に包まれた酢飯は、神域の恵みを凝縮したかのような輝きを放っていた。


小雲雀こひばり

「……これは、噂に違わぬ美味ですね……」


白凪しらなぎ

「ほんとにその通りだね、甘みと酸味の調和が見事です。荒んだ心まで洗われるような……そんな味ですね」


白凪しらなぎも静かに頷き、

珍しく素直な称賛を口にした。


山盛りだった稲荷寿司は、瞬く間に空となる。


白凪しらなぎの指先が、

名残惜しそうに空になった皿の端をなぞった。

 

だが、その静寂を打ち破る者が二名


疾風はやて

「もうないのか!?」


空の皿を覗き込みながら、

疾風が身を乗り出す。



三国

「おかわりは!?」

 三国も負けじと続く。



その様子に、

側に控えていた幼い眷属たちは、

顔を見合わせて、くすくすと鈴を転がすような笑い声を上げた。



幼い眷属1

「お喜びいただけてなによりです」



幼い眷属2

「ですが、あいにくおかわりはございません」



幼い眷属3

「豊穣神様も、皆様の食べっぷりをご覧になって、きっとお喜びになります」


彼女たちは空皿をまとめると、軽やかな足取りで、


御神木――の根元へと戻っていく。


その背中を見送りながら、澪斗がぽつりと、どこか遠くを見るような目で呟いた。


澪斗みなと

「この短期間で二度もいただけるとは……」


澪斗みなとが感慨深げに呟く。



静音しずね

「ええ、本当に幸運ですね」


静音も柔らかく微笑んだ。



あお

「……まあ、ないものは仕方ない……」


蒼が残念そうに肩を落とす。


大和

「火の童子、残念だったね」



ひとしきりの賑やかさが落ち着いたところで、白凪しらなぎが静かに口を開く。


白凪しらなぎ

「さて……今後の動向についてですが」



その一言で、空気が自然と空気が引き締まる。



白凪しらなぎ

「おそらく、しばらくは大きな動きはないでしょう。今回のように自身の分裂体を使うことは、災禍の神にとっても大きな負担を意味します。当面は潜伏し、力の回復を図るはずです」


小雲雀が続ける。


小雲雀こひばり

「災禍の神の、配下たる穢れ人は、自身の一部を削って作り出します。そう何度も連発できる手札ではないはずです」



小雲雀こひばりの視線が、一瞬だけ真白に向けられた。



小雲雀こひばり

「ですが……今回は、その危険を冒してでも、真白くんの力を見極めたかったのでしょうね。」


疾風はやて

「実際、相当な浄化力でした」


疾風はやてが腕を組む。


三国

「しかも刃に込められるとは……」



三国が感心したように息を吐いた。



白凪しらなぎ

「これまでの戦いでは、完全に祓うことはできず、現れた地の社で封印するしかありませんでしたから」


真白

「……それって」


真白が静かに問いかける。


真白

「どれくらいの穢れ人が封印されているんですか?」


白凪しらなぎ

「何千年と続くことですから、正確な数は……」


小雲雀は首を横にふると、


小雲雀こひばり

「ですが、穢れ人の術は災禍の神にも負担が大きい。そこまで多くはないはずです」


沈黙が落ちる、その静寂の中で、



蒼がずっと抱いていた疑問を口にした。



「……そもそも、なんで災禍の神って天界とか神を憎ん出るの?」


大和も続けて、


大和

「確かに。同じ天界の神なのですよね?」



その問いに、縁が少しだけ眉を上げる。


「……火の童子かのこどうじから聞いてないの?」



大和

「はい。討伐任務の支援要請としか」



大和が答える隣で、


蒼がうんうんと頷いた。


その様子を見た静音の眉間に、深い皺が寄った。



静音しずねの背後から、凍てつくような冷気が微かに漏れ出す。



静音しずね

「火の童子様は……一番重要なお話を省かれたのですね」


わずかに、怒気を含んだ声音だった。


その空気を切るように、真白が口を開く。


静音しずね

「今回の首謀者は……災禍の神。蒼さんや大和さんの世代には――『蛭子ひるこ様』という名で伝わっています」


蒼・大和

「「蛭子様……!?」」


二人の声が重なる。


「なんで……なんで真白を狙うの?」


蒼の表情が、

隠しきれない困惑と恐怖に強張る。


その問いに、えにしが静かに語り始めた。


えにし

「――六百年前、豊穣神社の跡地にあった村の話なんだけどね」


語られる過去。

厄災と、それを祓った力。


えにし

「……つまり」


縁は軽く肩をすくめた。


えにし

「当時、自分の厄災を祓い除けた真白くんの力を、改めて確かめたかったんだろうね。それに――何かしら邪魔だったんだろうね」


誰もが言葉を失う中、大和が恐る恐る口を開く。


大和

「どうして、真白様と紡様の神気だけが、穢れ人を完全に『祓う』ことができるのですか?」


「蒼も同じ、神の眷属なのに……なんで?……」


その問いに――


全員の視線が、

ゆっくりと二人へと向けられた。


静まり返った社務所に、

わずかな緊張が残る中――



小雲雀がゆっくりと口を開いた。



小雲雀こひばり

「おそらくですが……真白くんと紡くんの二人は、私たちとは“生まれ”が違うのが関係しているのではないかと」


「生まれの……違い?」



蒼が首をかしげる。どこか腑に落ちない様子で、真白と紡を交互に見た。



小雲雀こひばり

「えぇ、確証はありませんが――」



小雲雀こひばりは静かに言葉を紡ぐ。


その声音は、

どこか遠い過去を見つめているようだった。


小雲雀こひばり

「私たち天馬や烏天狗、狐、蛇……多くの眷属は、主神様から生まれた存在の“子孫”です」


空気が少しだけ張り詰める。


小雲雀こひばり

「そして主神様たちは――さらにその上の“親神様”から生まれました」



その言葉は静かに重みを持つ。


小雲雀こひばり

「災禍の神は……その親神様たちの“最初の子”です」


誰もが息を呑んだ。


小雲雀こひばり

「ですが――その誕生は、完全なものではありませんでした」


小雲雀こひばりの声が、わずかに低くなる。


小雲雀こひばり

「骨を持たず、水蛭のような姿で生まれ……“神として認められなかった”」



その情景が、

まるで目の前に浮かぶようだった。



小雲雀こひばり

「不完全に生まれた災禍の神は、葦舟に乗せられ……海へと流されました」



しん、と沈黙が落ちる。

蒼も、大和も、言葉を失っていた。


小雲雀こひばり

「ですが本質は変わりません。災禍の神は、他の主神様たちと同じ神気を持つ存在――いわば兄弟のような関係です」



三国

「……だから」



三国が小さく呟く。



小雲雀こひばり

「ええ」



小雲雀こひばりは頷いた。

「元が同じ神気である以上、私たちでは祓うことができないのです」




その理が、場の空気を重く沈めた。


――だが。



小雲雀こひばり

「ですが」


小雲雀こひばりの視線が、真白と紡へ向けられる。


小雲雀こひばり

「真白くんと紡くんは違う」



真白と紡は、思わず背筋を伸ばした。


小雲雀こひばり

「確かに、主神様によって“眷属としての形”は与えられました。ですが――」

 

小雲雀は、はっきりと言い切る。


小雲雀こひばり

「その根本にある神気は、“人の子の純粋な願いそのもの”です」


その言葉は、静かでありながら強く響いた。


小雲雀こひばり

「災禍の神とは異なる起源。まったく別の力から生まれた神気――だからこそ、災禍の神すら祓うことができたのではないかと、私は考えています」


誰もすぐには言葉を返せなかった。


その意味が、ゆっくりと場に広がっていく。


――紡と真白の力が、

穢れ人を“祓える”特別なものであること。


大和

「……え」


やがて大和が、

戸惑いを隠せないまま口を開く。


大和

「じゃあ……今、真白様と紡様と同じ権能を持つ方は……」


小雲雀こひばり

「現時点では、他の神社でも聞いたことがありませんね」


白凪しらなぎが淡々と答えた。


唯一無二。

その意味が、じわりと広がっていく。


小雲雀こひばり

「豊穣神様は……」


小雲雀こひばりが続ける。



小雲雀こひばり

「きっとお二人の力が災禍の神に気取られないよう、天界にて隠していたのでしょう」


真白と紡は息を呑む。


小雲雀こひばり

「対抗しうる力を持つまで――」


思わず、二人は顔を見合わせた。


真白

(そんな……)


(僕たち……そこまで……)


自分たちの力が特別であることは、

どこかで理解していた。


だが――


その背景にあるものまでは、知らなかった。


真白

「縁様は……ご存知だったのですか?」


真白の問いは、わずかに震えていた。


えにし

「うん……ごめんね」


えにしは、困ったように笑う。



あっさりとした謝罪だったが、

その奥には確かな意図が感じられた。


真白

「では……僕が現世に降りてきたのは、災禍の神を倒すためだったのでしょうか?」


真白は一歩踏み出す。


えにしは少しだけ考え

――首を横に振った。


えにし

「うーん、それはちょっと違うかな」


軽い口調。しかしその瞳は真剣だった。


えにし

「今の現世を見てごらん」


縁の(えにし)声が、静かに広がる。


えにし

「人々は、嘆きや悲しみ、妬みや恨み……そういう負の感情を絶えず抱えている」


まるで、世界のすべてを見通しているような言葉だった。


えにし

「その感情に飲み込まれる前に――浄化すること」


「その為に……」


紡が小さく呟く。



えにし

「そう、人の子を救うことが、本来の役目だよ」


縁は、少しだけ声を落とす。


えにし

「このまま負の感情が増え続ければ――結果的に災禍の神へ力を与えることになる」


空気が張り詰める。


「だからね、災禍の神を討伐するため、というより――これ以上力を与えないため、かな」


縁は柔らかく微笑んだ。

その言葉は、不思議とすっと胸に落ちた。


真白は静かに頷く。


今回の戦い、穢れ人と対峙した恐怖。

その存在の危険性、すべてが脳裏に蘇る。


そして――決意へと変わる。


真白

「……それでも」


真白は顔を上げた。


真白

「災禍の神討伐の際には――僕も、必ず力になります」


その瞳は、強く、揺るがない。


「ぼ、ぼくも!」


紡も慌てて続く。

その意志ははっきりしていた。


小雲雀こひばり白凪しらなぎは顔を見合わせ、穏やかに頷く。


小雲雀こひばり

「その申し出、ありがたく受け取りましょう」


白凪しらなぎ

「心強い限りです」


張り詰めていた空気が、少しだけ和らいだ。


ふと、紡が首をかしげた。


「そういえば……今の騒ぎって、人の子たちには知られていないんですか?」


小雲雀こひばり

「ああ、それはね」


小雲雀こひばりが答える。



小雲雀こひばり

「穢れ人が現れた時点で、境内は蛭子の結界の内側に取り込まれていました」


「……結界の中に?」


小雲雀こひばりは続ける。


小雲雀こひばり

「ええ、さらにその外側をえにし様に覆っていただいたのです」


縁がひらひらと手を振る。

なるほど、と全員が納得する。


澪斗みなと

「だから騒ぎにならなかったのか……」


澪斗みなとが息を吐いた。


それからしばらく――


緊張の解けた社務所には、

穏やかな雑談が流れた。


戦いの余韻。

束の間の安らぎ。


やがて――


外へ出ると、夜が明けようとしていた。


待っていたのは、天馬たち。

白い鬣を揺らし、静かに翼を広げている。


小雲雀こひばり

「それでは、また」


それぞれが別れを告げた。

次の瞬間――

 

翼が大きくはためいた。


風が巻き上がり、体がふわりと浮く。


空を駆ける。


雲を裂くように――


それぞれの想いを胸に――


“願い”は、やがて災禍へ届く。

その時、世界は大きく揺らぐことになる――。



最後までお付き合いいただき、

ほんとうにありがとうございます!


ブックマークなどいただけると励みになります!

次回もお付き合いいただけたら幸いです。

(人´∀`).☆.。.:*・゜

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