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第2話「一体どう言う事ですか?」

 意気揚々と歩き出してしばらく。

 日は完全に真上に上がり、まっすぐ歩いたつもりだけど、引き返そうとしたらちょっと戻れないかも? と思うくらいには進んだ訳だが。


「なーんにも見つからないし出会わないのは何で?」


 水場じゃなくとも木の実くらい見つけたり、何かしら動物と鉢合わせしたりしても良いと思うのにさーっぱりそんな気配がない。

 いや、動物の方は向こうが遥かに鋭いから鉢合わせないのは分かるし、となれば鉢合わせ=命の危機だろうからこっちは幸運なのか。

 木の実もうかつに口にしたら危ないとかあるだろうし……。

 ぶっちゃけ何を食べてよくてダメなのかって言う知識すらないもんな。


 そもそも、サバイバルスキル何てない僕がこの森を安全に抜けるのって、このまま何にも遭遇せずにって言うパターンだけなのかも……。

 喉はカラカラに渇いてるから、川を見つけたらそれなりに綺麗っぽかったな生水飲みそうだし……生粋の日本育ちだからお腹壊したりしそうだけど、背に腹はかえられぬとも言うしね。


 ん? いや、待て。

 何か聞こえて……来る?


 意識して耳をすませば……人の声だこれ!

 そうと気付けば希望が湧き上がり、そのまま駆け出す。

 しかも、日本語だ!

 つまり日本だ! まさか日本にこんな場所があるなんて知らなかったけど、でもよくよく考えれば自分の知る場所何て物凄い狭い訳で、思い込みは何でもいけないって事だね。

 何にしろこれで助かる!


「……こ、コスプレ?」


 ちょうど開けた場所に声の主達は居た様で、そこに踏み出せば……何だろう、語彙の少ない僕では上手く表現できないのだけど、民族風の衣装に立派な武防具を装備した人達が布切れをまとった10歳前後っぽい少年少女達を取り囲んでいた。

 うん、突っ込みどころが多すぎる。

 いや、マジこれ何?

 現状がさっぱり理解できなくて言葉が出てこないのだけど。

 相手も同じようだし……。


 ……これは見ちゃいけない物を見てしまったとか?

 いや、でも待て。

 この人達全員美形だ!

 って事はあれか、撮影ってやつか?

 そう思ってキョロキョロと辺りを見てみるけど、カメラを見つける前に声を掛けられてしまう。


「……天上人?」


 一瞬誰に対して言ったのか分からなくてスルーしてしまったけど、天上人って僕の事? いやいや、全く意味が分からないのだけど。

 寧ろ犬耳まで付けた本格的なコスプレをしているイケメンお兄さんに言われたくはないよ。

 ある意味お兄さん達こそ雲の上の人ですよ。


「えっと……なんですかそれ?」


 ともかく、さっぱり状況が分からないので聞いてみたのだけど、何故か顔を見合わせる武防具を装備している方々。

 少年少女達は皆ぽっかーんとした表情で僕を見つめている。


 あれ? これってもしかして怒られる流れ?

 天上人とか聞こえたけど、単なる聞き間違えか何かで何でここに? とか言われたとか?

 えっ、どうしよう。


 何か言われちゃう前に謝っちゃおうかと考えているうちに、このコスプレはエルフだって僕でも分かるような服装をした綺麗なお姉さんが近づいて何故か跪く。

 いやいやいや、何この流れ?

 あれか、素人が混ざってとどこまで寸劇出来るかとかそんな流れ?

 その予想が事実ならお願いだから巻き込まないで欲しいのだけどな。


「申し訳ございません。お調べしても宜しいでしょうか?」


 えっえっ? し、調べるって何を?

 一瞬で色んな事が頭をよぎり焦ってしまう。

 って、あれか、身分を証明してとかそう言う奴かな?

 ほどなくそう思い至り、同時に言われた瞬間の自分が恥ずかしすぎて慌てて口を開く。


「も、勿論大丈夫ですよ」


「失礼致します」


 何でこんなに無駄に丁寧なのかはさて置き、何やら手を差し出されたのでこちらも身分証をって。

 しまった! 何にも持っていないんだった!

 と言うか、記憶喪失だってどうやって説明しよう? はぇ? え、ちょっ。

 ……お姉さんの手の平が光りだしたのだけどこれ何?

 え? マジックかなにか?

 そうか、素人を交えてって奴なのかな?


 疑問符が頭に浮かびまくる中、光が僕の方へ来て身構えてしまう。

 ほどなく体を光で包み込まれるのだけど……何と言うべきか、少し温かいような気はするけど特に何もない。

 強いて言えば眩しいけど、光に包み込まれたって言うのに想像より遥かに眩しくはない。

 別に目がくらむってほどじゃないし……どんな原理なんだろうね?

 まぁ、マジックなら教えてくれる訳もないか。


 と、ほどなく光はお姉さんの方へと戻っていく。

 うん、すっごく幻想的だった。

 なんか貴重な体験させて貰ったな。


 感動していると、お姉さんは何故か何度も瞬きをして、ついでに何度も口を開いては閉じてをし、最終的に真っ赤になってうつむいてしまう。

 キリっとした美人さんだったのだけど……可愛らしさも兼ね備えているとかやばい。

 じゃなくて、その反応なんですか?

 えっ? 僕別に変な事してないよね?

 はっ、まさかチャック全開とか!?

 慌てて確認するも、別に開いてはなかった。

 よかった。本当によかった。

 一生の恥になるところだったよ。


「あの……色々聞きたい事はあるのですけど……、私がその……綺麗とか本気ですか?」


 1人漫才を心の中でやっていると、恐る恐ると言った風にお姉さんに聞かれる。

 と、同時に周りが何故か驚愕の表情へと変り……って、なんでやねん。

 まさかそう言う振りとか? 素人に振ってもまともな対応出来ないですよ?

 ってか、求めてもないだろうし、じゃぁ普通に対応していいや。

 多分これも皆さんの練習とか何だろう。

 代わりに助けてを求める予定だったし、うん、少しは恩も売っておいた方が良いよね。


「少なくとも僕はお姉さんは綺麗でしかも可愛らしいと思いますよ」


 僕の言葉に空気が固まる。

 うん、多分そう言う反応が返ってくると思っていたのだけど、と言うか皆実力派な役者さんなのだろうな。

 テレビとかそんなに見ないから誰が誰か申し訳ないけど分からない。

 だけど、もしかすると名前は知ってたりするくらいに有名な人達なのかも。

 後でサインとか貰ったり出来るのかな?


「こ、光栄でしゅ!」


 顔を真っ赤に染め上げたお姉さんが突如大声を上げ、見事にかんだ。

 うん、本当に可愛らしい人だな。

 なんかパニクっているような演技も……スッゲー上手い。

 ちくしょー、今まで知らなかったとか。後で芸名だけでも教えてもらおう。


 あっ、そんな場合じゃなくて。

 ともかく記憶喪失なのを伝えて警察でも呼んで貰わないとね。

 親とか心配しているだろうし……、会ったらもしかすると記憶とか戻るかもだしね。


「あの。実は僕記憶がなくてですね。

 皆さんがどんな方々なのかちょっと分からないんですけど、一体どんな集まりなんですか?

 皆さんとっても容姿が整ってますし、演技も凄いですし、有名人だとは思いますけど。

 あっ、因みに記憶喪失なのはマジで絶賛迷子だったりしますから、110とかして頂けると嬉しいかなって思います。

 一応知識というかそういうのはあるっぽいので」


 思いつくがまま口にしたせいで、物凄く分かり難い言い回しだったように思う。

 ううう、でも助けを求めているのは伝わったと信じておこう……。

 イミフだったら聞き返してくれるよね?


 そんな僕の思いも虚しく、1番最初に口を開いたのは布切れをまとった少年少女達の中の1人の女の子だった。


「容姿が整ってるってどう言う事なの?

 お兄ちゃんはこれを見ても虐めないの?」


 えーっ。まだ演技続行なの?

 って、このくらいの年齢ならそれも仕方ないのかな?

 もしかすると年長組のお兄さんお姉さん方から怒られちゃうかもと思って、それよりも先に口を開く。


「つまり、とっても可愛いなって思ってるって事だよ。

 角も凄くよく出来てるねー。似合っているよ。

 勿論、虐めたり何てしないさ」


 もしかするとコスプレをして友達に心無い言葉を言われちゃったりとかあったのかもなー。

 なんて思っていると、今度は口までおっ広げて僕を見つめる皆様。

 えっ、ちょっ……ま、まさかその反応って。


「ろ、ロリコンじゃないですからね!」


 焦って口にするもだんまりを決め込む皆様。

 待って待って! ちゃうんやって! 確かに可愛らしいとか思うけど恋愛対象って意味じゃないんですって!

 わーん! 誰か助けてー!

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