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銀の騎士と秘密の薬草師―想いを感じる少女は、傷ついた騎士を癒す―  作者: 橙華


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7. 狙われた薬草師

春祭りから十日後。

王都の朝は、いつもより騒がしかった。


「薬師が襲われたらしい。」

「薬を全部奪われたとか。」


市場ではそんな噂が飛び交っていた。


リゼットは薬草を選ぶ手を止める。


(……薬師が?)


ただの盗賊にしては妙だった。

金貨ではなく薬だけを奪うなど聞いたことがない。





その頃。

騎士団本部では、机の上に割れた薬瓶が並んでいた。


「三件目です。」


副官エリクが報告する。


「襲われたのは全員、腕のいい薬師や薬屋の者です。」

「共通点は?」

「ありません。」

「……いや。」

アルベルトは薬瓶を手に取った。

「一つだけある。」

「何でしょう。」

「全員、薬の効き目が非常に良いと評判の薬を扱っている。」

部屋が静まり返る。

「偶然ではない。」


「誰かが特定の薬師を探している。」


その瞬間、

アルベルトの頭に浮かんだのは一人だけだった。



(……リゼット…)



―――――



「早いけど、今日はもう店を閉めようかな……。」


空を見上げる。

雲行きが怪しい。


早めに切り上げようと戸締まりを始めた、その時だった。



「薬を売ってもらおう。」



知らない男だった。



黒い外套。

フードを深く被っている。


「申し訳ありません。今日は閉店で──」


「腕を治す薬はあるか。」


その一言で、

リゼットの鼓動が止まりそうになった。


「……ありません。」


「その反応。嘘だな。」


男が一歩近付く。

向かい合った瞬間、

感情が流れ込んできた。


欲望。

焦り。

執着。

そして。

(知っている。)

(この人……私の薬を知ってる。)


「ある薬師から聞いた。」

男は笑った。

「薬草だけで、あれほど治るはずがない、と。」


リゼットの指先が震えた。

秘密が知られている。


「何を隠している?」

「……知りません。」

「なら連れて行こう。」


男が腕を掴もうとした。


その瞬間。



ガンッ!!


薬屋の扉が勢いよく開く。



「その手を離せ。」


低い声だった。

アルベルト。

その後ろにはエリクを含めた騎士たち。


男は舌打ちすると短剣を抜く。

「面倒だ。」


「生け捕りにしろ。」

アルベルトが命じる。


戦いは一瞬だった。


以前なら右腕を庇っていた。

しかし今は違う。

剣は滑らかに動く。

重さもない。

速い。


男の短剣が弾き飛ばされる。

「ぐあっ!」

あっという間に取り押さえられた。

「終わりだ。」







男が連行されたあと。

薬屋には静寂だけが戻る。


「怪我は?」

アルベルトが尋ねる。

「ありません。」

「……そうか。」


安心。


その感情が真っ直ぐ伝わる。

リゼットは目を逸らした。

(また……。)

(こんな顔。)


「どうして来たんですか。」

「偶然ではない。」

アルベルトは正直に答える。

「君が狙われる気がした。」

「……。」

「だから見張っていた。」

「え?」

「祭りの日から。」

思わず顔を上げる。

「巡回のたびに。なるべく店の前を通るようにしていた。」

「毎日?」

「ああ。」

「それって……。」

「迷惑だっただろうか。」


本当に困ったような顔をする。

怒られると思っているらしい。


リゼットは思わず吹き出した。

「ふふっ……。」

アルベルトが固まる。

「……笑った。」

「え?」

「久しぶりに。」

その瞬間を逃さんとする真っ直ぐな眼差しに、

今度はリゼットが真っ赤になる。

「ち、違います!」

「いや、笑った。」

「忘れてください!」

「断る。」

「騎士様!」

彼は珍しく意地悪そうに笑った。

「……その笑顔は好きだ。」

「~~~っ!」


リゼットは両手で顔を隠してしまう。

(何なの、この人……!)

(前はこんなこと言わなかったのに!)


「もう…!からかわないでください。

 …それより、今のでまた傷が開いていませんか…?」


「問題ない。」


「あなたの『問題ない』は信用できません。

 …今日お仕事が終わったらまた腕を見せてください。」


「良いのか?あなたの薬は本当に良く効くから有難い。」


「やっぱり痛いんですね。」


「…! 問題はない」


「………。 後ほど、お待ちしておりますね。」





そんな二人を、店の外からこっそり覗いていたエリクは、小声で隣の騎士に囁いた。

「見たか?」

「はい。」

「団長、恋するとあんな顔するんだな。」

「団長にも春が来ましたね。」

「しーっ!」

二人は吹き出しそうになりながら、その場を離れていった。


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