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銀の騎士と秘密の薬草師―想いを感じる少女は、傷ついた騎士を癒す―  作者: 橙華


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5. 告げられない秘密

――試行錯誤して前より効くようにしました。


本当は違う。


薬草を煎じる時だけ。


リゼットはほんの少しだけ"治る力"を薬へ移している。


普通の人なら気付かない程度。

傷の塞がりが少し早い。

腫れが少し引く。

それだけ。

だから誰にも話したことはない。


―――――


三日後。


あの人はこの国の騎士団長だと花屋のおばさんから聞いて驚いた。


その日の雨の降る夕方だった。


扉が激しく叩かれる。


「リゼットちゃん!」


花屋のおばさんだった。

「団長さん達が戻ったみたいだよ!」


リゼットは外へ飛び出した。



王都へ戻った騎士たちは皆疲れ切っていた。

何人かは担架で運ばれている。

その中央で、

アルベルトだけが立っていた。


右腕を押さえながら。


「……騎士様。」

「…!無事だ。」

そう言って笑おうとする。

けれど、

向かい合った瞬間、

リゼットには伝わってしまった。


痛い。


腕が痛い。


それでも平気な顔をしている。

「……嘘です。」

「……。」

「右腕を見せてください。」

「かすり傷だ。」

「嘘です。」


兵士たちが苦笑した。

「団長、その台詞、もう通じませんよ。」

「薬師殿には全部見抜かれてます。」


アルベルトは小さくため息をつく。

「……参ったな。」



診療室。

甲冑を外すと、右肩から腕にかけて大きな青あざが広がっていた。

古傷まで痛めている。

「無茶をしましたね。」

「仲間を守るには必要だった。」

「……そうでしょうね。」


責める気にはなれない。

彼はそういう人だから。


薬草をすり潰し、

秘密の力をほんの少しだけ込める。


"少しだけ。"


やり過ぎれば気付かれる。


薬を塗り終えると、

アルベルトがゆっくり腕を動かした。

「……軽い。」

「腫れが引けばもっと動きます。」

「君の薬は、本当に良く効く。」


胸が少し痛む。


(薬じゃない。)

(ほんの少しだけ、私の力。)


でも言えない。

こんな力を知られれば、

普通には暮らせない。


―――


それから十日ほどして。

アルベルトの右腕は見違えるほど動くようになった。

以前なら肩までしか上がらなかった腕が、

頭より高くまで上がる。


「団長!」


訓練場では歓声が上がった。 


「団長の剣が速い!」


「まだ全盛期じゃない。」


アルベルトは静かに笑う。


「だが、確かに戻ってきている。」



その視線は自然と薬屋の方角へ向く。


薬草を煎じるあの薬師が脳裏に浮かぶ。


その姿を想うだけで胸が温かくなる。


(守りたい。)

(ずっと。)


その想いは自分でも気付かないうちに芽吹こうとしていた。





―――





一方、


薬屋の中。


仕事中にも関わらずリゼットは胸がざわつく。


最近は彼が店を訪れるたび、


向かい合えば、胸の奥が静かに温かくなる。


その温度が何を意味するのか。


リゼットには分かってしまった。


(……だめ。)

(そんな想いを向けないで。)


自分は普通の薬師。

相手は王国の騎士団長。


住む世界が違う。


それに、この秘密まで抱えている。

期待を持たせてはいけない。


そう思った翌日から、

リゼットは店番を近所の老夫婦に頼むことが増えた。


王城への薬の配達も、

できるだけ他の薬師へ回す。




彼の気持ちが育ってしまわないように。









「いつもの薬師殿は?」


「リゼットですか?今日は留守です。」


その言葉を聞くたび、

アルベルトは何も言わず頷くだけだった。


責めない。


探さない。


待つだけ。




それが余計に、


リゼットの胸を締め付けていく。


(どうして……。)


避けたのは自分なのに。


その静かな優しさが、彼女の心を少しずつ揺らし始めていた。


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