表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀の騎士と秘密の薬草師―想いを感じる少女は、傷ついた騎士を癒す―  作者: 橙華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/31

23. 端話 薬屋防衛作戦

 王城で開かれた舞踏会から、数日。


 王都にいる貴族の間では、ある噂でもちきりだった。




「深い青のドレスを纏った、あの令嬢は誰だ?」


「星空を閉じ込めたような美しさだった。」


「貴族ではないらしいぞ。」


「薬師だと聞いた。」


「ぜひ一度、会ってみたいものだ。」




 そんな噂は、貴族たちの間をあっという間に駆け巡り――。


 当然、その「薬師」を探そうとする者まで現れ始めた。





◇◇◇





「――大変です!」


 朝の騎士団詰所に、勢いよく飛び込んできたのはレオンだった。


「エリク副官! 大変です!」


 書類に目を通していたエリクが顔を上げる。


「団長の剣が折れたか?」


「違います!」


「城壁が崩れたか?」


「違います!」


「じゃあ何だ。」


 レオンは息を整え、大真面目な顔で叫んだ。





「リゼットさんが狙われています!」





 部屋の空気が、一瞬で凍り付いた。





「詳しく話せ!」


「舞踏会でリゼットさんを見た貴族の方々が、リゼットさんの薬屋を探し始めています! 今日だけでも侯爵家の三男、伯爵家の嫡男、それに大商会の跡取りまで!」


「…………。」


「…………。」


 その場にいた騎士たちは、無言で顔を見合わせた。


 最初に口を開いたのはエリクだった。


「阻止するぞ。」


「「異議なし。」」


 返事だけは、やたらと揃っていた。 





◇◇◇






「まず確認だ。」


 エリクは机を叩く。


「薬を必要としている者は通せ。阻止対象は、舞踏会の噂だけを頼りに、面会を求める者だけだ。」


「そして…」


全員が息をのむ。


「この件は、団長には知らせるな。」





「もちろんです!」


「絶対です!」


「命に代えても!」





 レオンも勢いよく頷く。


「団長が知ったら大変です!」


「仕事にならないからか?」


「いえ。」


 レオンは真顔で首を横に振った。


「仕事は普通にします。」


「そうだろうな。」


「でも。 機嫌が悪くなります。」


「……ああ。」


「そして。」




 全員がごくりと唾を飲む。 




「鍛錬が三倍になります。」




「「「それだけは避けたい。」」」 




 騎士たちは揃って遠い目をした。





 以前、団長の機嫌が悪かった週、これでもかと鍛錬に付き合わされた。


 朝鍛錬。


 昼鍛錬。


 夕方も鍛錬。


 翌日、全員筋肉痛。


 その中でなおも続く鍛錬、鍛錬、鍛錬。


 誰も二度と思い出したくない。






◇◇◇






「では作戦を説明する。」


 エリクが王都の地図を広げた。


「薬屋へ向かう道は全部で三本。」


「レオン、お前は市場。」


「はい!」


「エイドリックは東通り。」


「了解!」


「ルネスは中央通りを押さえてくれ。」


「分かりました!」


「スヴェン。」


「は、はい!」


「お前は薬屋周辺で不審者が近付かないか見張れ。くれぐれもリゼットさんには悟られないようにな。」


「了解しました!」


新人らしく勢いよく敬礼するスヴェンの肩をレオンが叩く。


「気負わなくていいぞ!」


「はい!」


「これは極秘任務だからな。」


「極秘任務……!」


スヴェンの目が輝く。


「必ず成功させます!」


「…純粋だな。」


エイドリックがぼそりと呟いた。





 レオンが恐る恐る手を挙げる。


「作戦名はありますか?」


「必要か?」


「必要です!候補もあります!」


 エリクは少しだけ考え、


「……何だ。」


 レオンは満面の笑みで宣言した。


「薬屋防衛作戦です!」


 一瞬の沈黙。


 そして。


「……悪くない。」


「採用。」


「よし、それで行こう。」


 満場一致だった。






◇◇◇




 その日の昼。



「失礼。若い女性が営んでいる薬屋はこちらかな?」


 身なりの良い青年が市場で尋ねる。


 待っていましたとばかりにレオンが笑顔で近付く。


「若い女性の薬師さんですか?」


「ああ。」


「今日は往診かもしれませんね!」


「そうなのか。」


「ええ! 王都中を回っておられるので!」


「そうか……。」


 青年は少し残念そうに帰っていった。


 レオンは胸を撫で下ろす。


「第一防衛成功……。」




◇◇◇




 別の通り。




「薬屋へ行きたい。」


 今度は伯爵家の青年。




 エイドリックは表情一つ変えず答えた。


「薬草をお求めですか?」


「ああ。」


「でしたら、王城御用達の店もございます。」


「ほう。」


「品揃えも見事ですよ。」


「なるほど。」


 青年は興味を持ち、そのまま別方向へ。


 エイドリックは心の中だけで小さく拳を握った。


「第二防衛成功。」






◇◇◇






 一方、その頃。


「今日は静かですね。」


 リゼットは店先で薬草を干しながら、小さく首を傾げた。


「お客さん、少ないですねぇ。」


 そう呟いた時だった。


 店の前を、見覚えのある騎士が通り過ぎる。


「あれ……?」


 中央通りへ向かうルネスだった。


 こちらへ軽く手を振ると、そのまま角を曲がっていく。


「お仕事でしょうか……?」


 不思議に思いながら庭の手入れをする。


 しばらくすると、今度は市場へ続く通りの方、遠くにレオンの姿が見えた。


 誰かと何かを話していたが、相手の青年は「ああ、そうなのか」と納得した様子で来た道を引き返していく。


 レオンはリゼットに気付くと、にこりと微笑み、何事もなかったように軽く会釈をした。


 ――今日は騎士さんをよく見かけますね。


 王都の見回りの日だっただろうか。


 そんなことを考えていると、


「こんにちは、リゼットさん。」


 今度は薬の注文に来た女性騎士。


「アシェリーさん、こんにちは。」


 他愛もない話をしながら、いつものように薬を渡す。


 その瞬間。


 ふわり、と。


 向かい合ったアシェリーから、温かな感情が流れ込んできた。


 ――安心。


 ほっと胸を撫で下ろしたような、穏やかな気持ち。


「……?」


 リゼットは小さく首を傾げる。


(お薬が買えて、そんなに安心したのでしょうか……。)


 けれど、それだけではないような気もした。


 アシェリーは店を出ると、一度だけ周囲を見回し安心したように帰っていった。


「……??」


 その背中を見送りながら、リゼットは考える。


(今日は皆さん、どこか様子が違うような……。)


 けれど、その理由までは分からない。


 ――今日は本当に、騎士さんが多い。







その頃、店の外では、エリクがアシェリーから報告を受けていた。


「どうでした?」

「元気そうだったわ。」

「よかった。」

「でも。」

「?」

「リゼットさん、少し不思議そうな顔をしていた。」

「!」

「勘のいい人ね。」

「……短期決戦でいきましょう。」

「ええ。」


 本人の知らないところで、薬屋防衛作戦は順調に進行していた。






◇◇◇







 中央通り。


「すまない。ある薬屋を探しているのだが。」


 声を掛けてきたのは、まだ若い貴族らしい青年だった。


 ルネスは人当たりの良い笑みを浮かべる。


「女性の薬師様でしたら存じていますよ。」


「本当か!」


 青年の表情が明るくなる。


「ですが……。」


 ルネスは申し訳なさそうに眉を下げた。


「最近は大変お忙しいそうです。」


「忙しい?」


「ええ。騎士団からもよく依頼がありますし、王城から直接お呼びが掛かることもありますので。」


「王城からも…!?そうか……。」


「もしお急ぎでなければ、少し日を置かれた方がよろしいかと。」


「それもそうだな。」


 青年は素直に頷き、その場を去っていった。


 姿が見えなくなると、ルネスは小さく息を吐く。


「第三防衛成功……。」






◇◇◇






 夕方。



 騎士団詰所。




「本日の成果!」




 レオンが胸を張る。


「市場方面、防衛成功です!」


 拍手。


「次。」


 エリクが促す。


 エイドリックが淡々と答える。


「東通り。伯爵家の青年一名を別の薬屋へ案内。問題なし。」


「よし。」


 ルネスも笑顔で手を挙げる。


「中央通りも成功しました。今日は二名ほど引き返してくださいました。」


「おお!」


 レオンが感心したように目を丸くする。


「ルネスさん、すごい!」


「いえいえ。相手の方が素直だっただけですよ。」


「最後。」


 エリクが視線を向ける。 


 ぴしっと背筋を伸ばしたスヴェンが立ち上がる。


「は、はい! 薬屋周辺の警戒任務に当たりました!」


「結果は。」


「リゼットさんの薬屋の前で様子を窺っていた男性が一名おりましたので、体調でも悪いのかと思い声を掛けました!」


「…………。」


 レオンたちが嫌な予感を覚える。


「すると『薬屋を探している』とのことでしたので!」


「うむ。」


「全力で王城御用達の薬屋までお連れしました!」


 一瞬の静寂。


 そして。


「よくやった。」


 エリクが短く頷く。


 スヴェンの顔がぱっと明るくなる。


「ありがとうございます!」


 レオンが笑いながら肩を叩く。


「初任務で一件阻止か! やるじゃないか!」


「本当ですか!」


「期待の新人だな。」


 ルネスが優しく微笑む。


 エイドリックも小さく頷いた。


「判断は悪くない。」


 褒められたスヴェンは照れくさそうに頭をかく。


「皆さんのお役に立ててよかったです!」






 エリクが小さく頷く。


「これで本日の成果は――」


 レオンが勢いよく締めくくる。





「薬屋への貴族男性の来訪者、ゼロ!」





「「おおーーっ!」」

 





詰所に拍手が響いた。






「よくやった。」


上々の成果に、エリクが満足げに告げる。


「明日も同時刻より薬屋防衛作戦を開始する。」


その言葉に、全員の声がそろう。


「「了解!!」」





 その時。





 ギィ……。





 扉が開いた。





「……何をしている。」






 低く落ち着いた声。


 全員の背筋が凍る。


 アルベルトだった。






「「「!!!!!!」」」







(まずい。)


(作戦名まで聞かれたか?)


(終わった……。)





レオンは青ざめた顔で飛び上がる。




「な、何でもありません!鍛錬の反省会です!」


「そうか。」


アルベルトは不思議そうに一同を見回したが、それ以上は何も言わない。


「明日の鍛錬は少し早く始める。」


「「「はいっ!!」」」


アルベルトが部屋を出ると、全員が一斉に机へ突っ伏した。


「……危なかった。」


レオンが大きく息を吐く。


「寿命が縮みました……。」


「心臓が止まるかと思った。」


「次回から作戦名は口に出さないほうがいいですね。」


ルネスが言った。


「「賛成。」」


全員が頷く。




「作戦名……気に入ってるのに…」


「名付け親だもんな。」


「そうなんですよ!薬屋防衛作戦!」


「レオン!聞こえる!」


「はっ……! すみません。」





エリクは腕を組み、小さく笑った。





「団長には、まだ知られなくていい。」


「ええ。」


「今くらいは、何も心配せず笑っていてほしいですから。」



 その言葉に、皆が静かに頷いた。






 口では「鍛錬が増えるから」と文句を言う。





 けれど本当は。





 長い間、誰にも心を開かなかった団長が、


 ようやく見つけた大切な人を、


 誰よりも応援しているのは彼らだった。





 だから今日も騎士たちは、


 誰にも知られないところで、


 密かに薬屋を守り続ける。






 ――薬屋防衛作戦は、まだ始まったばかりである。









(今回登場した騎士たちの簡単な紹介です。)

エリク(副官)…みんなの柱。団長を最も理解する参謀。

レオン…ムードメーカー。明るく行動力抜群。

エイドリック…寡黙だけど頼れる実力者。

ルネス…穏やかで気配り上手。交渉役。

アシェリー…冷静で面倒見が良く、観察眼が鋭い女性騎士。

スヴェン…真っ直ぐで素直な新人騎士。先輩たちを尊敬しながら成長中。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ