表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀の騎士と秘密の薬草師―想いを感じる少女は、傷ついた騎士を癒す―  作者: 橙華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/31

19. 端話 薬草園の午後


よく晴れた日の昼下がり。


薬屋の店先へ、一人の騎士がやって来た。


「リゼットさん。」


振り返ると、凛とした長身の女性騎士、アシェリーが柔らかく一礼した。


高い位置で結んだ青みがかった黒髪が揺れ、切れ長の青緑色の瞳が穏やかに細められた。






「王宮医師殿から依頼を受けてまいりました。」


「医師様からですか?」


「はい。王城の薬草園で育てている薬草の一部が元気をなくしていて……原因が分からないそうなんです。 薬草の専門家であるリゼットさんに、一度見ていただけないかと。」


リゼットは少し驚いたように目を瞬かせ、それから静かに頷いた。


「私でお役に立てるなら。」





◇◇◇





王城の奥。


石畳の回廊を抜けると、陽当たりの良い庭園の一角に薬草園が広がっていた。


整然と植えられた薬草。


ヤロウやアルニカ、陽花草といった、傷薬や解熱薬、解毒薬の材料となる植物が季節ごとに育てられている。



迎えたのは白髪交じりの王宮医師だった。


「ようこそおいでくださいました、薬師殿。本来なら私どもで管理すべきなのですが……。」


苦笑する。


「医師は傷を縫い、骨を繋ぐことには長けております。しかし薬草の知識となると、薬師には到底敵いません。」


リゼットは恐縮したように首を振る。


「そんな……。では、拝見してもよろしいでしょうか。」





薬草園へ足を踏み入れる。


一角だけ、葉が少し黄色く変色していた。


リゼットはしゃがみ込み、土へ触れる。


葉を一枚持ち上げる。


根元を静かに見る。


「……病気ではありません。」


王宮医師が目を見開く。


「違うのですか?」


「はい。」


リゼットは柔らかく微笑む。


「土が少し固くなっています。

 それと、この場所だけ午後の日差しが強いですね。

 最近、隣の木を剪定されましたか?」


王宮医師は驚いたように頷いた。


「ええ……先月。」


「その影がなくなったことが原因でしょう。」


「薬草によっては、急に日差しが強くなると弱ってしまいます。

 少し土を柔らかくして、あちらの陽花草などの、日に強い薬草をこちらへ植え替えれば元気になりますよ。」


王宮医師は感心したように何度も頷いた。


「なるほど……。そこまで見抜かれるとは。」








その頃。


薬草園へ続く石畳を歩いてくる二人の騎士がいた。


アルベルトと副官のエリクだった。


魔石事件以降、王城内の警備体制を見直しており、各所を確認して回っていた帰りである。


薬草園の前で王宮医師を見つけ、二人は自然と足を止める。


その隣には、小さくしゃがみ込んで薬草を見つめる栗色髪の小柄な女性の姿があった。


「あれは…、リゼットさんですね。」


エリクがそう声をかける。





(来ていたのか。)





薬草を見つめるリゼットの横顔は、いつもの穏やかな笑顔よりもさらに生き生きとして見える。


説明を聞く王宮医師も、何度も感心して頷いていた。


アルベルトは思わず微笑む。





(薬草のことになると、本当に目を輝かせる。)




(……その笑顔が見られただけで十分だ。)











「団長。」


振り返ると、訓練を終えたレオンやスヴェンたちも歩いて来ていた。


「警備確認、お疲れさまです。」


「ああ。」


「……あれ。」


スヴェンが薬草園へ目を向ける。


「医師殿に頼まれたようだな。」


アルベルトがその視線に応える。


ちょうどその時、王宮医師の感心した声が聞こえてきた。


「薬師殿、本当に勉強になります。」


「いえ、私も師から教わっただけです。」


その笑顔に、スヴェンが小さく笑った。


「楽しそうですね。」


「ああ。」


アルベルトは短く答える。


その声はどこか誇らしげだった。






エリクはそんな横顔を見て、小さく笑みを浮かべた。


「団長。」


「何だ。」


「最近、少し変わられましたね。」


アルベルトは首を傾げる。


「変わった?」


「ええ。」


エリクは静かに頷く。


「昔の団長は、厳しく、冷静で、誰よりも頼れる方でした。だから皆、心から尊敬していました。

 ですが、その反面……ご自身のことは何一つ顧みない方でもありました。」


アルベルトは何も言わない。


レオンが苦笑しながら続ける。


「仕事以外のことで笑われることなんて、ほとんどなかったですよね。弱音も見せませんでしたし。」


エリクは懐かしそうに目を細める。


「ですが最近は違います。 団長の厳しさや真面目さは何も変わっていません。 それでも以前より、部下の小さな変化にも気を配られるようになりました。皆の話にも耳を傾けてくださる。

 騎士として尊敬している気持ちは変わりません。

 ですが今は、それ以上に、人として付いていきたいと思える団長です。」


アルベルトは少し照れたように息をつく。


「……買いかぶりすぎだ。」


「いいえ。」


エリクは首を横に振る。


「皆、そう思っています。」


その時、スヴェンが薬草園の方を見ながら口を開いた。


「俺は昔の団長を知らないですけど……。」


少し照れくさそうに笑う。


「今の団長が、皆さんにすごく信頼されていることは分かります。」





団員たちの視線が自然と薬草園へ向く。


薬草を前に、嬉しそうに微笑むリゼット。


その姿を見つめるアルベルトの横顔は、どこか肩の力が抜けていた。




レオンが穏やかに笑う。


「団長が、こうしてまた笑われるようになって良かったです!」


アルベルトはリゼットを見つめたまま、小さく笑う。


「……そうか。」


その短い返事だけだった。


だが、その横顔を見た団員たちは顔を見合わせ、小さく笑みを交わした。


エリクもそっと薬草園へ目を向ける。


リゼットはまだ王宮医師と薬草について楽しそうに話している。





――団長を変えたのは、あの人なのだ。





厳しさの奥にあった優しさを、もう一度表へ引き出してくれた。


自分の身を顧みず、ただ前だけを見ていた人に、立ち止まって誰かと笑う時間を与えてくれた。


彼女はもう、団長にとってだけの大切な人ではなかった。


誰も口にはしなかった。


それでも、その場にいた全員が同じことを思っていた。



――あの人の笑顔もまた、自分たちが守りたいものなのだと。




柔らかな風が薬草を揺らし、その香りが庭園いっぱいに広がっていった。




(設定イメージ)

医師:王城で治療を担当。(外科・救命・宮廷医療)

薬師:町の診察所。(内科・薬(薬草)・日常医療)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ