5 ルビー、激怒する。
ルビーは激怒した。
必ず、かの邪智暴虐の王を除かねばならぬと決意した。
ルビーには政治が分からぬ。
ルビーは、修道院の修道女である。
祈りを捧げ、看護師の真似事をして暮してきた。
けれども邪悪に対しては、人一倍敏感であった。
雑な走れメロスパロディはここまでとして、まあルビーは怒り狂っていた。
理由は、ルビーの実の父である。
隣国の王、その人である。
(ふざけるな、あの「お父様(クソ親父)」!何か仕掛けてくるなら、私が結婚した後だと思っていたわ……)
ルビーはほぼ確信していた。先日の暗殺者騒ぎは、この国を欲しがっている、父親のせいだと。
(やっぱり、婚約なんて受けなければ王子やパールを危険にさらすことは……でも、シスターは……私の、お母様みたいな人だもの……見捨てられない……)
修道院ではわりと口の悪いまま修道女たちのリーダーみたいなことをやっていたものの、貴族の世界では、ルビーは無力だ。
(つくづくシスターを先に孤島の監獄に囚われてしまったのが痛かった……せめて陸だったなら、一人でも、勝ち目がなくても乗り込んだのに……!)
権力に楯突く手段がない。ルビーは怒っていた。けれど、一人で焦ってもいた……
そしてパールは朝から大変元気だった。なんせ王子様の護衛だ!麗しい横顔をいつまでも見つめられるなんて……
「パーーール。我らが守るシリウス第一王子が麗しいのは分かるが、護衛はしっかりな。」
ナッシュは乙女の気持ちがわかってないんだから!パールは膨れてそっぽを向いた。
「はは……けど、本当にパールは王子に夢中だな……」
ナッシュはなぜか元気がない。どうしたの?悪いものでも食べた?パールは首を傾げる。
「大したことじゃないさ。パールはいつもの通りいればいい。ただし!仕事はしっかりすること!」
ラ・ジャー!パールは敬礼をビシッと決めた。
「それにしても……城内であんな事件が起きるとはな。おかげでどこへ行くにも付きっきりだ。王子にだって、一人になりたいときはあるだろうに……」
今は王子様は一休み中で、薔薇の花を一人見つめていた。
ルビーの髪の色のような、真っ赤な薔薇……ルビーの事を思っているのかしら……パールの胸は痛んだ。
「そう、悲しげな顔をするな。ほら、もしかしたら王子だって……美人系から可愛い系に、目覚める可能性が……ある、かも、しれないし……」
目がウロウロしている。ナッシュはウソが下手ねー。パールはまたテキトーにナッシュの頬をつねって伸ばしておいた。
「……よし、これでいい。」
王子様は、薔薇の棘を丁寧に丁寧に抜いて、花束にしていた。
「ルビーローズという種類の花なんだ。喜んでくれるだろうか。」
羨ましい!パールって種類の花はないのかしら!
パールの頭がお花畑である。
「最近姫は元気がないから……せめて、心を花で慰めてくれるといいんだが……」
(俯いた憂いの表情も素敵……。それにしても……確かに最近ルビーの元気がないのよね……。私が話を聞いてあげて、お茶会もしてあげてるんだから、少しは元気を出せばいいのに!)
パールには人の心の機微を見る才能はなかった。まあ元気が一番、たくましく育てと育てられたので、何も間違った育ち方はしていないのだが……




