1 パール、就労する。
パールは働いていた。病院代を持っていなかったためだ。病院の先生はリハビリにも丁度いいだろう、とパールになぜか薪割りをさせていた。陸の冬は寒いのだ。
ここ数日ですっかりパールは世間の厳しさにもまれていた。甘ったれの末姫が今じゃ立派な薪割り職人である。意外と海の世界は力がいるのだ。パールも例に漏れず、陸の人々よりは力が強い。
こんな事してる場合じゃなくない……?パールは思った。
そう!そうよ!私には結ばれるべき王子様がいるの!
パールは病院での借金(薪割り)を返し終わり、王城へ向かうことにした!
……そして、不審者として閉じ込められた。何ということだ。
そして、何も答えないパールの尋問にやってきたのは……
「君は……あの時の。」
ナッシュと呼ばれた王子様の護衛!
パールは一気に食いついた!ここは最短の王子様へつながる道じゃない……!?
「王城に押し入ろうとしたと聞いたが……一体どうしたんだ?」
パールは首をブンブンと横に振って敵意のないことを必死に訴えた。ここで捕まっていては、王子様もクソもないのである。
「もしかして……喋れないのか?」
コクコクと頷く。叔母様に呪いじみた副作用があると言われたことを、今更ながらに深刻に受け止めるパールであった。
「あの時倒れていたが……家族は?」
ブンブン首を振る。
「もしかして……家族が、居ないのか?」
コクコク頷く。
「あのとき君は何も持っていなかったし……病院代を払い終えるのも苦労しただろう。様子を見に行くべきだった、済まない……」
ブンブンと首を振る。王子様なら大喜びだったが、別に彼に来てもらっても……
パールは良い性格をしていた。決して性格が美しいという意味ではない。
「それなら……城で働くのはどうだ?今、メイドが何人か辞めてしまってな……」
パールはガタンと立ち上がり、ナッシュと呼ばれた男の手を取った。ブンブンと振って喜びを表す。お城で働く?王子様とお知り合いになれるかもしれない!
「う……うん、やる気があるのは、良いことだな……」
なぜかナッシュに引かれている気がする。乙女に対して、失礼ね!
「俺は王子の乳母兄弟のナッシュ、現在は護衛をしている。君は……おそらく今度王子のもとに輿入れしてくる姫様のお付きのメイドの下働きに配属される……と思う。」
パールに電流走る……!まさか、私の王子様♡にすでに婚約者?がいたとは!!!
がしっとナッシュの手をつかみ、「教えて?」と小首をかしげる。これで落ちなかった男はいない!パールは自分の顔にやたらと自信満々だった。
案の定、ナッシュは少し頬を赤らめて、手を離した。
「自分の配属先になるかもしれない場所の話だものな……聞きたいのも当たり前か。1ヶ月ほど前、大嵐の日に船から落ちた王子を助けた修道女が、隣国の姫だったとわかったんだ。王子は何度も口説き落として……根負けした姫様が、今度お城に来ることになるという話だ。ただ……まあ、まだ婚約段階だということだがな。」
なんてこと……あの時、王子様を浜に連れて行った時に、険しい瞳で海の向こうを見つめていた美しい修道女が、お姫様だったなんて!
……でもこの私の美少女っぷりも負けてないし?なんなら勝つし?
パールは、やっぱり世の中をナメていた。
「君の就労開始は暫く君の回りのことを調べてからになるが……できるなら、遠くから来た、頼れるものの無い者同士、姫様を支えてくれると、嬉しい。」
そっか……姫様は、私と同じく家族から遠く離れて一人でここへ来ているのね……
ライバル心バリバリだったパールは、ちょっと反省した……




