11 パールと、真実の愛。
戦争が終わったその夜、戦勝会で皆が湧く中、パールの耳に小さく呼び声が聞こえた。
海の民特有の……切羽詰まった響きがこもった、人には聞こえない呼び声がパールを呼んでいる。
パールは酔った兵士たちの間から、そっと抜け出した。
「パール……?」
それを、ナッシュが見ていた……
いつもの海辺、いつもの時間。いつも通り誰もいない海は静かだ……
しかし、今日は先客がいた。
「パール!ようやく来た!全く……勝手に薬を飲んで陸に行くなんて……」
(叔母さま!)
パールは久しぶりの叔母に駆け寄った。
「最近人の世界は騒がしくて近づけなかったけれど……パール。真実の愛を手に入れることはできたのかい……?」
その言葉にパールは叔母がここまで来た理由を知った。あと2ヶ月弱……心配されているのだ!
「とりあえずこれを飲みな。声が発せるようになる、解毒薬さ……これだけの期間じゃ、これだけしか作れなかったけれど……」
パールは薬を一気した。
「ぷはーっ!ありがとう叔母様!コミュニケーション取りづらくてかなわなかったのよね!」
「いやもっと他に気にする所あるだろう!?全く……。それに、声の解毒薬は本題じゃないんだからね!」
海の魔女は、どこからか黄金の短剣を取り出した。パールに手渡す。
「これは……最終手段だ。使いたくはなかったけれど……パール。お前が最も愛する者の心臓をこの剣で貫けば、お前の呪いは解けるだろう……死ななくて……泡にならなくて済むんだ。けど……あんたにとっては……」
パールは、一瞬その美しい短剣を見据えた。最も愛するもの……
一瞬で、いろんな顔が思い浮かんだ。
王子様、ルビー、ついでにナッシュ。構われたり世話になったいろんな人たち……
パールは、泡になる自分を思い浮かべて―――
「ありがとう叔母様!でもごめんなさい!私にこの短剣は要らないわ!」
金の短剣を海の魔女へ返す。
「良いのかい……?もうすぐあんたは……海の泡に……」
「刺さなきゃいけない人と、思い出が多すぎるわ!もう!皆なんだかんだ、私の事かまうんだもの!」
「そうかい……」
海の魔女は悲しそうに笑った。
「けれど最後まで諦めるんじゃないよ。真実の愛を……手に入れられるかもしれないだろう?」
「ないない!無鉄砲でめんどくさがりで、腕力ばっかり強くって。性格も宜しくないのよ、今更―――」
「なら、俺が想っていても、いいのか。」
後ろから声がした。
臨戦態勢に入る海の魔女とパール。けれど、そこには、見慣れた灰色の髪と、赤い目をした男がいた。
「済まない……最初から、聞いていた。だが……真実の愛が必要なら、どうか……俺を、選んでくれないか、パール。」
「……ナッシュ……?」
「初めて聞いた。そんな声してるんだな、パール。……海の魔女様。俺のこの思いが、真実の愛に値するのかはわからない。けど……どうか俺にも、資格がないか……試しては頂けませんか。」
いきなり言われて、パールは混乱した。
ナッシュは、そんなんじゃない……王子様と違って、ドキドキしたりきらめいて見えるわけじゃないもの。
でも……ナッシュの言う、資格が、金の短剣のことなら……嫌だった。
……海の上で、一番安心できる居場所を、失ってしまうのは……耐え難かった。
そこで生きていく自分を想像するのも……耐えられなかった。だから。
「私、面倒くさいわよ!惚れっぽいしテキトーだし!すぐ突っ走るしめんどくさがりだし!」
「全部知っている。」
「ちょっとは「そんな事ないさ……」くらい言ってよ!」
「そ、そんな事……ないさ……?」
「もう!絶対嘘!!!嘘が下手!!!」
海の魔女はナッシュとパールを見比べて、ため息をついた。
「パール……このお転婆!すっかりたらし込んでるし、たらし込まれてるじゃないのさ……。心配する必要、なかったかねぇ……」
「どういう意味なのよ叔母様ったら!」
「呪いは解ける……けど、それはあんたが完全に人になって……私たち海の世界との縁が切れるということさ……。パール、これからは、あんたが選んだ人たちと、あんたが選んだ道を、歩いていくんだよ。私たちは遠くから見ているからね!」
海の魔女は、それだけ言うと、笑って海の中へ姿を消した。
「…………」
「…………」
パールとナッシュは、お互い黙っていた。生きてて今まで、味わったことのない究極の気まずさだった。
……そして、どちらからともなく手を繋いで、歩き出した。城へ向かって。
明日も、仕事は忙しいのだ!




