第4話 公妃の呼び出し
三日後、エレノアは思いがけずイザベラ公妃の私室に呼び出された。
豪奢な天蓋付きのベッド、黄金の装飾、壁にかけられた高価なタペストリー。部屋全体に、公妃の好む濃厚なローズとムスクの香りが満ちていた。
イザベラ公妃(28)は、絹のドレスをまとった優美な美女だった。しかしその瞳には、野心の鋭い光が宿っている。
「あなたが例の鼻の良い侍女ね。エレノアとか言ったかしら」
「はい、公妃殿下」
「単刀直入に言うわ。私のライバルであるソフィア妃の最近の香りを、調べてほしいの」
公妃は優雅にワインを傾けながら続けた。
「彼女が最近使う香りが変わったの。まるで……男を惑わすような、淫靡な香り。誰が調合したのか、どんな成分か、すべて教えて」
エレノアは深く頭を下げたが、心の中では警戒を強めていた。
(利用する気満々ね……)
「畏まりました。ただし、私の能力は『嗅ぐ』ことのみです。政治的な判断はいたしません」
公妃の唇がわずかに吊り上がった。
「生意気な子。いいわ、その程度で十分よ。明日の午後、ソフィア妃の庭園茶会がある。そこで自然に近づきなさい」
退出する際、エレノアは公妃の袖から漂う香りを記憶した。
表面の華やかさの下に、焦げたような野心の残り香が感じられた。
その夜、リリアと二人で情報を共有した。
「ソフィア妃は最近、北方の辺境伯と親しくなってるって噂よ。公妃派としては面白くないはず」
エレノアは頷きながら、自分の手首に母の形見の香りを落とした。
甘く、静かな香り。
それが彼女の唯一の味方だった。




