表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『影の調香師は王宮の謎を嗅ぐ ~没落貴族令嬢、香りで真実を暴く~』  作者: 9 10
第一章 王宮の調香師

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/73

第34話 二つの沈黙

 その夜、エレノアはラインハルトに礼拝堂での出来事を報告した。

 王太子は黙って聞いていた。

 話し終えると長い沈黙が落ち、蝋燭の炎だけが静かに揺れている。


「バルドゥールは……昔から、表立たずに調査をする男だ」


ラインハルトの声は低く、慎重だった。


「信用できますか」


「完全にはできないな。だが、嘘をつく男でもない」


 王太子は立ち上がり、窓の外に視線を向けた。夜の王宮に、月の光が石畳を青白く照らしている。


「八年前の暗殺事件……私も、公式の記録に疑念を持っていた。だが、確証がなかった」


 エレノアは静かに聞いていた。


「殿下は……その事件をご存知だったのですか」


「当時私は十八だった。父の側近が死に、母の愛用香水に毒が入れられた時期と重なっている」


 ラインハルトは振り返り、エレノアをまっすぐに見た。


「お前の母とその事件が繋がっているなら、調べる価値はある。だが——」


 彼は一歩、エレノアに近づいた。


「バルドゥールを完全には信用するな。彼が何を目的にしているか、まだ見えない」


 エレノアは静かに頷いた。


「わかっています。ただ……母のことを知りたいのです。それだけは、」


 王太子は彼女を見下ろし、しばらく何も言わなかった。やがて、低い声で言った。


「……わかった。独断では動くな。私にも必ず報告しろ」


 その言葉には、命令ではなく、何か別のものが混じっているようだった。

 エレノアは深く頭を下げ、私室を辞した。廊下を歩きながら、母の形見の香りをそっと嗅いだ。


 甘く、静かで、芯の強い香り。


(バルドゥール卿、ラインハルト殿下、そして母の影——。これはもう、ただ香りを嗅ぐだけでは済まない話になってきた)


 夜の石廊下に、エレノアの足音だけが静かに響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ