第22話 傍らの調香師
王太子の側仕えとして三日目。
エレノアは王太子の私室で、夜用の香油を調整していた。疲労を和らげるラベンダーとサンダルウッドを基調に、穏やかな調合にした。
王太子が執務から戻り、部屋の空気を嗅いで小さく頷いた。
「良い香りだ」
エレノアは控えめに答えた。
「殿下の睡眠の質を少しでも良くできればと思いまして」
王太子は椅子に腰を下ろし、彼女をじっと見つめた。
「お前は本当に、目立つことを嫌うのだな。全くと言っていいほど以前と変わらないな。この立場を喜ぶ者も多いだろうに」
エレノアは静かに答えた。
「はい……私は目立たないように生きたいと思っています。余計な注目を浴びることは、私には荷が重すぎますので。」
王太子はしばらく沈黙した後、低い声で言った。
「ならば、必要以上に目立たぬよう振る舞え。ただし、私の傍という立場は変わらない。勝手に離れることも許さない」
エレノアは深く頭を下げた。
その夜、王太子が就寝した後、エレノアは一人で部屋の香りを最終確認した。冷たい鋼の香りと、ほのかに残る森林のニュアンス。
そして、自分の手首に落とした母の形見の控えめな香り。
(王太子の傍……これは、思っていた以上に目立つ立場になってしまった)




