第21話 王太子の側仕え
翌朝から、エレノアは王太子の私室と執務室周辺で働くことになった。
朝一番に王太子が使う手袋とコートの袖の香りを嗅ぐのが日課となった。
「何か異常はあるか?」
「今のところはございません。……ただ、殿下は少しお疲れのようでございますね。」
王太子は軽く眉を上げたが、何も言わずに書類に視線を戻した。
午後、王太子が重要な会議を行うため、エレノアは控えの間に待機した。
そこにガスパールが偶然通りかかり、こっそりと近づいてきくる。
「王太子殿下の側仕えになったと聞いた。……大丈夫か?」
エレノアは小さく頷いた。
「目立たないようにしようと思っていたのに……逆になってしまいました」
ガスパールは心配そうに笑った。
「そうだな、何かあったらすぐに伝えてくれ。俺たちはいつでも味方になるから」
会議後、王太子はエレノアを呼び、短く尋ねた。
「今日の会議で使われた香炉の香り、どう思う?」
エレノアは控えめに答えた。
「表向きは上品でしたが……微かに、相手の警戒心を煽る成分がございました。心理的な圧力をかけるための調合かと存じます」
王太子は彼女を静かに見つめ、わずかに頷いた。
「……よくやった。これからも、遠慮なく報告しろ」
エレノアは頭を下げながら、胸の内でため息をついた。




