第20話 王太子の指名
若手騎士たちとの結束から数日後、エレノアは突然王太子の執務室に呼び出された。部屋に入ると、ラインハルト・フォン・ローエングラム王太子が窓辺に立っていた。
「殿下、お呼びでしょうか」
エレノアは深く頭を下げ、できるだけ控えめに立ち振るまった。
王太子はゆっくりと振り返り、銀灰色の瞳で彼女を見下ろした。
「エレノア・ローゼンフェルト。お前を私の専属調香師兼側仕えに任命する」
エレノアの胸に動揺が広がった。
「……殿下、それは」
「断る権利はない」
王太子の声は低く、絶対だった。
「最近、お前が騎士団の若手と接触しているという報告が上がっている。上の者達が不快に思っているとも耳にしている。……ならば、私の直属に置くのが最も無難で安全だろう」
エレノアは内心で大きく動揺した。
目立ちたくない彼女にとって、王太子の側使いになることは最も避けたい事態の一つだった。
「畏まりました……殿下。ただ、私は目立たない立場で香りを嗅ぐだけが務めだと思っておりましたので……」
「残念だが今の時点で既に目立ち過ぎてしまっている。お前は私の傍で、香りの異常を嗅いでいればいい。今後は私の使用する香油や部屋の調香も任せる。」
王太子は彼女をじっと見つめ、わずかに声を落とした。
「……顔を上げろ。これから私の側近として下を向くような立ち居振る舞いは許さん。」
エレノアは静かに頭を上げたが、心の中は重かった。
(王太子の側仕え……これでは、ますます目立ってしまう。どうなることやら)




