第19話 首席の影と四人の決意
首席調香師ハインリヒに呼び出されたのは、雨の降る午後だった。
「最近、騎士団の若手と頻繁に顔を合わせているようだな」
ハインリヒは重厚なムスクの香りを漂わせながら、冷たい目でエレノアを見下ろした。
「調香師は香房に留まっていればよい。余計なことに首を突っ込むな!」
エレノアは静かに頭を下げ、淡々と受け流した。
その夜、厩舎の奥で四人の騎士にその話をした。
ガスパール、ルーカス、ディートリヒ、オスカーの四人は、黙って聞いていた。
雨の後の湿った空気が、木と革と馬の匂いを濃くしている。皆、多くを語らなかった。
ガスパールが静かにエレノアを見つめ、ルーカスは小さく頷き、ディートリヒは拳を軽く握り、オスカーは真剣な眼差しで彼女を見据えた。
言葉はいらない。
四人の視線が、はっきりとその意思を伝えていた。
——これからは俺たちが支える。君は思うまま今まで通り動いてくれ。
エレノアは静かに目を伏せ、母の形見の香りをそっと手首に落とした。甘く、控えめで、芯の強い香り。
若手騎士たちとの固い絆が、この瞬間、静かに形作られたことを彼女は感じていた。
(……彼らは、本気で味方になってくれる)
貴族の冷たい視線が強まる一方で、エレノアの周りには、ようやく小さな信頼の輪が広がり始めていた。




