第18話 雨の回廊と隠された杯
雨が王宮の石の回廊を激しく叩く午後だった。
灰色の空から降り注ぐ雨粒が、屋根の端から滴り落ち、石畳を濡らしている。重厚で湿った空気があたりを包んでいた。
エレノアは四人の騎士——ガスパール、ルーカス、ディートリヒ、オスカー——と、回廊の太い柱の陰に隠れるように集まっていた。
雨音がちょうどいい遮音になってくれるため、短い時間だけの密談をするのには適した場所だった。
オスカーがいつもの明るい調子で、宮廷の軽い噂話をしていた。
「最近、ヴォルフ公爵派の宴会で使われる葡萄酒が、妙に甘くなったって話だぜ」
すると、筋肉質のディートリヒが真剣な顔で切り出した。
「実は今日、騎士団の休憩室で使われる銀の杯にも妙な香りがした。甘ったるくて、なんだか気持ち悪い匂いだったんだ」
エレノアはすぐに反応した。
「その杯を見せていただけますか?」
ディートリヒが隠し持ってきた銀の杯を差し出すと、エレノアは慎重に内側に鼻を近づけた。
微かな油性の香料が塗られており、飲み続けると軽い頭痛や胃の不調を起こす可能性のある成分だった。
「……これは意図的に異物が塗られています。毒というほど強くはありませんが、長期的に摂取すると体調を崩す恐れもあります」
四人はすぐに動き、該当する杯を洗浄し、安全なものと交換した。
作業は雨音に紛れて素早く終わり、事件は小さく収まった。作業が終わった後、四人は柱の陰に寄りかかり、雨音の中で故郷の話や日常の苦労を静かに語り合った。
ガスパールは地方の領地で起きた小さな争いの話、ルーカスは騎士としての理想と現実の狭間について、ディートリヒは力仕事の大変さを、オスカーは宮廷の面白い失敗談を、それぞれ話した。
エレノアはほとんど聞き役に徹しながら、時折相槌を打つ。
雨の冷たい湿り気と、騎士たちの温かい声が混じり合う不思議な時間だった。
(皆さんがいてくれるのは嬉しい……でも、こうして関わりが深まるたび、私は目立たないという願いから遠ざかっていく)
雨は一向に止む気配がなく、回廊に響く水音だけが、静かに五人を包んでいた。




