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『影の調香師は王宮の謎を嗅ぐ ~没落貴族令嬢、香りで真実を暴く~』  作者: 9 10
第一章 王宮の調香師

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第16話 静かな午後の調べ物

 王宮の奥にある小さな中庭は、春の柔らかな陽光が石畳に落ちる静かな場所だった。ハーブと早咲きの薔薇が控えめな香りを漂わせている。

 エレノアは香房の休憩時間を活用し、古い香料の記録を広げていた。母の形見のノートを横に置き、伝統的な調香技術を丁寧に整理していく。

 

「ここにいたのか」

 

 低く落ち着いた声に、エレノアは肩を震わせてノートを閉じた。

 ラインハルト・フォン・ローエングラム王太子が、近衛騎士を一人連れて中庭に入ってきた。

 

「殿下……!」

 

 エレノアは慌てて立ち上がり、深く頭を下げる。

 王太子はゆっくりと近づき、彼女が広げていた写本に視線を落とした。

 

「最近、騎士団の若手たちと顔を合わせることが多いらしいな」


「……はい。香油や馬具の調整で、たまたまお会いする機会が増えただけです。私はただ、香りを確認しているだけで……」

 

 ラインハルトはしばらく無言で彼女を見つめていたが、わずかに声を和らげて言った。

 

「無理をするな。お前は目立たなくて良い。異常を感じたら、遠慮せず私に伝えるように」

 

 そう言い残すと、王太子は踵を返して去っていった。残されたのは、冷たい鋼と清潔な石鹸、そしてほのかな森林を思わせる香りだけだった。


 エレノアは胸を押さえ、深く息を吐いた。

 

 その少し後、中庭の近くで待っていたエレノアにガスパールたちが合流した。

 四人は彼女と共に座り、最近の些細な宮廷の話や自分たちの故郷、領地の話をした。


 穏やかな時間が流れていくのであった。

 

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