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第9話 母の影

事件から三日後、エレノアは香房の古い記録室にいた。

埃っぽい棚の奥から、母の名前を見つけた瞬間、心臓が大きく跳ねた。


『ローゼンフェルト家 元調香師 マリア・ローゼンフェルト』


八年前の記録だった。母は当時、王宮香房で下級調香師として働いていた。記録には「特別な香りの調合を任された」とあるが、詳細は黒く塗りつぶされていた。

エレノアは古い香料サンプル箱を開けた。母の字で書かれた小さなラベルが残っている。


「『忘却の霧』……?」


中身はすでにほとんど蒸発していたが、微かな残り香がした。

甘く、穏やかで、しかし長く嗅いでいると記憶がぼやけるような、不思議な香り。


その夜、リリアと二人で古記録を調べていると、一つの事件記録が見つかった。

八年前、王の側近が突然の昏睡に陥り、後に死亡した事件。公式には病死とされたが、当時母がその側近の愛用香油を調整していたという記述があった。


「母様……あなたは何を嗅いだの?」


エレノアは母の形見の香水瓶を握りしめた。

母は病死したと聞かされていたが、今になって疑問が膨らむ。

香房の外、廊下の暗がりで誰かの気配がした。

エレノアが振り返った時、そこには誰もいなかったが、微かなムスクの残り香が漂っていた。


ハインリヒ首席の香りだった。

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