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一度すべてを失った私が、「選ばない」という選択で世界を壊すまで  作者: 優雨セレス


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第5話 最初の改変

 「望むところです」


 そう言った瞬間、空気がわずかに軽くなった。


 対立が確定したからだ。


 曖昧だった関係が、はっきりと形を持つ。

 敵と味方。

 正しさと正しさ。


 そして――。


「じゃあ、まず何する?」


 隣の男が、軽く首を傾げた。


 あまりにも軽い。


 けれど、その問いは正しい。


「そうですね」


 私はゆっくりと椅子に腰を下ろす。


「まずは、確認です」


「確認?」


「はい」


 机の上に指先を置く。

 軽く、二度叩く。


「今の状況は、すでに“ズレている”」


「うん」


「ですが、どこまでズレているかは不明です」


「うんうん」


 適当に相槌を打つ。

 本当に理解しているのか怪しいが、今はどうでもいい。


「ですので」


 顔を上げる。


「一度、小さく動かしてみます」


 男の目が、少しだけ細くなる。


「未来を?」


「ええ」


 頷く。


「大きく変えれば、崩れます」


「そりゃそうだ」


「ですが、小さく変える分には――」


「影響を測れる」


 彼が言葉を継いだ。


 私は小さく頷く。


「理解が早くて助かります」


「こういうの好きだからね」


 にやりと笑う。


 本当に楽しそうだ。


 ――この男は、危険だ。


 でも、使える。


「で?」


 彼は身を乗り出す。


「何を変えるの?」


「簡単なことです」


 私は指を止めた。


「明日、起こる予定の出来事を一つ」


「へえ」


「それを、ずらします」


 彼の表情が、わずかに変わる。


 興味が、深くなる。


「具体的には?」


「明日の午前」


 私は記憶をなぞる。


 断罪の翌日。

 小さな事件が起きる。


 重要ではない。

 けれど、確実に未来に繋がる“歯車”の一つ。


「学園の倉庫で、火災が起きます」


「……ああ」


 彼はすぐに思い出したらしい。


「小さいやつね」


「ええ」


 死者は出ない。

 被害も限定的。


 だからこそ、誰も深く気にしない。


 でも。


「その火災が、後の資材不足に繋がります」


「連鎖の最初ってわけだ」


「そうです」


 私は頷く。


「ですから」


 静かに告げる。


「これを止めます」


 沈黙。


 ほんの一瞬だけ。


 そして。


「いいね」


 男は笑った。


「すごくいい」


 心から楽しそうに。


「で、どうやって?」


「簡単です」


 私は立ち上がる。


「現場に行くだけです」


「今、拘束されてるけど?」


「形式上、です」


 扉を見る。


 鍵はかかっている。

 騎士もいるはずだ。


 でも。


「出られない理由にはなりません」


「頼もしいなあ」


 彼は肩をすくめる。


「じゃあ、どうやって出るの?」


 私は一歩、扉に近づく。


 軽く触れる。


 冷たい。


 現実だ。


「正面から」


「は?」


「開けていただきます」


「いや、無理でしょ」


「無理ではありません」


 私は振り返る。


「説得します」


 男は一瞬だけ黙った。


 それから、吹き出す。


「ははっ」


 本当に楽しそうに。


「いいね、それ」


 笑いながら言う。


「それで通ると思ってるのが、いい」


「通りますよ」


「なんで?」


「通させるからです」


 短く答える。


 彼はしばらく笑っていたが、やがて少しだけ真面目な顔になった。


「……それ、できるの?」


「ええ」


 私は頷く。


「彼らは、私を敵として扱っています」


「うん」


「ですが、“危険”とは認識していない」


「まあ、今のところはね」


「だから、通ります」


 扉に手をかける。


「少しだけ、認識をずらせば」


 そのまま、ノックする。


 外で気配が動く。


「何か」


 騎士の声。


「話があります」


「……」


 一瞬の間。


「開けてください」


「できません」


 当然の返答。


 でも。


「では、ここでお話しします」


 私は声を落とす。


 廊下に届く程度に。


「明日、学園の倉庫で火災が起きます」


 沈黙。


 完全な沈黙。


 男が横で、息を止めているのがわかる。


「……何の話だ」


 騎士の声が、わずかに低くなる。


「事実です」


「証拠は」


「ありません」


「ならば」


「ですが」


 遮る。


「起きます」


 断言。


 迷いなく。


 嘘ではない。


 少なくとも、私の知る未来では。


「……」


 騎士は黙る。


 迷っている。


 当然だ。


 荒唐無稽。

 でも、完全には切り捨てられない。


 だから。


「確認していただければ、わかります」


 さらに押す。


「もし何も起きなければ、その時は」


 少しだけ、間を置く。


「私の言葉を、すべて無視してください」


 賭けだ。


 でも。


 勝てる賭け。


 長い沈黙の後。


 鍵が、外れる音がした。


 男が小さく息を吐く。


「……本当に通した」


 扉が開く。


 騎士が、警戒した目でこちらを見る。


「……確認するだけだ」


「ええ」


 私は頷く。


「それで構いません」


 外に出る。


 空気が、変わる。


 拘束される側から、動く側へ。


 たったそれだけで、世界の見え方が違う。


 男が後ろからついてくる。


「やるじゃん」


「当然です」


 短く返す。


「でもさ」


 彼は横に並ぶ。


「これ、失敗したらどうなると思う?」


「信用を失います」


「それだけ?」


「いいえ」


 私は前を見たまま答える。


「次は、閉じ込められます」


「それで済めばいいけどね」


 軽く言う。


 けれど、その言葉は正しい。


 未来はズレている。


 ならば。


 結果も保証されない。


 それでも。


「止めます」


 私は言う。


 はっきりと。


「最初の一歩です」


 彼は、少しだけ黙った。


 そして。


「……いいね」


 小さく呟く。


「それでこそ」


 その言葉に、私は答えなかった。


 必要ない。


 今は、動くことだけが重要だ。


 廊下を進む。


 夜は深い。


 でも、まだ終わっていない。


 倉庫は、すぐそこだ。


 そして。


 未来は、もう一つじゃない。


 私は静かに息を吐いた。


 ――ここから変える。


 最初の、改変を。


 その時だった。


 廊下の先で、誰かの影が動いた。


 見覚えのあるシルエット。


「……」


 足が止まる。


 リディア・エルフェルン。


 彼女が、そこに立っていた。


 まっすぐに、こちらを見ている。


 迷いのない目で。


「……やはり」


 小さく呟く。


「動くのですね」


 対立は、終わっていない。


 むしろ。


 始まったばかりだ。


 私は、ゆっくりと答える。


「ええ」


 視線を逸らさずに。


「当然です」


 火は、まだ上がっていない。


 でも。


 ここから先は――。


 誰が、最初に未来を変えるかの勝負になる。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


ついに“未来改変”が始まりました。

小さな一手ですが、ここから全てがズレていきます。


そして、セレスティアとリディア。

同じ正しさを持つ二人が、同じ場所に立ってしまいました。


この先どうなるのか、少しでも気になっていただけたら

ブックマークや評価をいただけると嬉しいです。


次は「どちらの選択が先に届くのか」です。

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