表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一度すべてを失った私が、「選ばない」という選択で世界を壊すまで  作者: 優雨セレス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/26

第4話 正しい側の違和感

 「話があります」


 リディアの声は震えていなかった。

 けれど、完璧でもなかった。


 ほんのわずか。

 本当にわずかだけ、迷いが混じっている。


 ――やはり。


 私は一歩だけ前に出る。


「騎士の方々は?」


 廊下の奥には、さっきまでいたはずの気配がない。


 リディアは一瞬だけ視線を逸らした。


「下がっていただきました」

「理由は?」

「……二人で話したかったので」


 正確ではない。


 “二人で”ではない。


 私は、横に立つ男に視線を向ける。


「三人で、の間違いでは?」


 リディアの視線が、初めて彼に向く。


 その瞬間、空気が変わった。


 わかる。


 彼女も“感じている”。


 この男が、普通ではないことを。


「……あなたは」


 警戒。

 それでも踏み込む勇気。


 いい。

 この人は、やはりただの令嬢ではない。


「通りすがり」


 男は軽く手を振った。


「気にしないでいいよ」


「気にしないわけにはいきません」


 即答だった。


 リディアは一歩踏み出す。

 彼と私の間に入る形で。


 庇っているのか。

 牽制しているのか。


 たぶん、その両方だ。


「ここは拘束室です。無関係の方が立ち入る場所ではありません」


「関係あるよ」


 男はあっさりと言う。


「この人と」


 私を指さす。


 リディアの視線が、私に戻る。


「……どういう関係ですか」


「まだ決まっていません」


 私が答えると、リディアは一瞬だけ言葉を失った。


「……決まっていない?」


「ええ。これから決めるところです」


 正確には、もう半分決まっている。


 けれど、彼女にそれを見せる必要はない。


「ふざけているのですか」


 リディアの声が、ほんの少しだけ強くなる。


「いいえ」


 私は首を横に振る。


「むしろ、真面目です」


 沈黙。


 彼女は、私を見つめる。


 あの断罪の場と同じ目。

 まっすぐで、揺るがない。


 けれど。


 今は、少しだけ揺れている。


「……セレスティア様」


 ゆっくりと、彼女は言葉を選ぶ。


「先ほどの発言は、どういう意味ですか」


「どの発言でしょう」


「三年後、この国が終わるという話です」


 やはり、そこだ。


 彼女はそこに引っかかっている。


 “感じている側”。


 未来の断片を、理由もなく拒絶できない。


「冗談に聞こえましたか」


「いいえ」


 即答だった。


 迷いがない。


「冗談には、聞こえませんでした」


 空気が、少しだけ重くなる。


 男が、楽しそうにその様子を見ている。


 私は、リディアから視線を外さない。


「では、どう思われましたか」


「……わかりません」


 それが、彼女の正直な答えだった。


「ですが」


 一歩、踏み込む。


「無視していい言葉ではないと、感じました」


 ――それで十分だ。


 私は小さく頷く。


「正しい判断です」


 リディアの表情が、わずかに歪む。


「……皮肉ですか」


「いいえ」


 本心だった。


 彼女は、正しい。


 だからこそ。


「あなたは、間違っていない」


 その一言で、彼女の目が揺れる。


 前話と同じ言葉。


 けれど、今は意味が違う。


「……ならば、なぜ」


 彼女は、言葉を続ける。


「なぜ、あのようなことを」


「確認です」


「確認?」


「選択の」


 短く答える。


 彼女は理解できない顔をする。


 当然だ。


 理解できる方が、困る。


「セレスティア様」


 リディアは、さらに一歩近づく。


「あなたは、何を知っているのですか」


 核心に近い問い。


 そして。


 間違いなく、踏み込んではいけない領域。


 男が、横でくすりと笑う。


 試されている。


 どこまで見せるか。


 どこまで隠すか。


 私は一瞬だけ考えた。


 そして。


「少しだけ」


 そう答えた。


「未来を」


 リディアの呼吸が止まる。


「……未来?」


「ええ」


 あえて、曖昧に。


「すべてではありませんが」


「それは……」


 言葉を失う。


 信じたい。

 でも信じられない。


 その間で揺れている。


 いい状態だ。


 ここで無理に押せば、壊れる。


「証明はできません」


 先に言っておく。


「ですから、信じる必要もありません」


「……では、なぜ」


「あなたが信じるかどうかは、問題ではないからです」


 リディアの眉が寄る。


「問題は?」


「あなたが、どう選ぶかです」


 その瞬間。


 空気が変わる。


 “断罪する側”から、“選ばされる側”へ。


 立場が、わずかに反転する。


 リディアは気づいている。


 自分が、今、試されていることに。


「……選ぶ?」


「ええ」


 私は一歩、彼女に近づく。


「このまま、正しいと信じた道を進むか」


 さらに一歩。


「それとも、一度立ち止まるか」


 距離が、近い。


 息が触れそうなほどに。


「どちらでも構いません」


 静かに告げる。


「ただし」


 ほんの少しだけ、声を落とす。


「どちらも、結果は変わります」


 沈黙。


 長い沈黙。


 彼女の中で、何かが揺れている。


 正しさと、違和感。


 確信と、不安。


 どちらも本物だから、決めきれない。


「……私は」


 ようやく、彼女が口を開く。


「正しいと信じた道を、進みます」


 迷いを押し殺した声。


 けれど、それでも選んだ。


 それは、強さだ。


「そうですか」


 私は頷く。


 それでいい。


 今は、それで。


「では」


 リディアは、まっすぐに私を見る。


「あなたは、敵です」


 はっきりと言い切る。


 逃げない。


 曖昧にしない。


 いい。


 とてもいい。


「ええ」


 私は微笑む。


「その認識で構いません」


 男が横で、楽しそうに息を吐く。


「いいねえ」


 呟く。


「ちゃんと対立してきた」


 その言葉に、リディアがわずかに反応する。


「……あなたは」


「観客」


 即答だった。


「今のところはね」


 意味不明な言葉。


 でも、彼女はそれ以上踏み込まない。


 今は、私の方が優先だ。


「セレスティア様」


 リディアは、一度だけ深く息を吸う。


「私は、あなたを止めます」


「ええ」


「それが、正しいと信じているから」


「ええ」


 同じ言葉を返す。


 彼女の顔が、少しだけ歪む。


 それが、答えだ。


 私はもう一度頷いた。


「それでよろしいのですね」


 確認。


 彼女は、強く頷く。


「はい」


 その瞬間。


 何かが、確定した。


 未来の分岐。


 選択の確定。


 そして。


 対立の成立。


 私はゆっくりと息を吐いた。


「では」


 視線を外さずに告げる。


「また、お会いしましょう」


 リディアは一瞬だけ驚いた顔をした。


 ここで終わると思っていなかったのだろう。


 けれど。


 ここで終わりでいい。


 これ以上は、早い。


「……ええ」


 小さく答える。


 彼女は振り返り、扉へ向かう。


 そして。


 一度だけ、足を止めた。


「セレスティア様」


「はい」


「……三年後、本当に」


 言いかけて、止まる。


 言葉を飲み込む。


 それ以上は、踏み込まない。


 いい判断だ。


「……いいえ」


 首を振る。


「それは、まだ先の話です」


 彼女は何も言わず、扉を開けて出ていった。


 静寂が戻る。


 男が、小さく笑う。


「完全に敵になったね」


「ええ」


「後悔しない?」


「しません」


 即答する。


 迷いはない。


「だって」


 私は、ゆっくりと目を閉じる。


「彼女は、正しいので」


 目を開ける。


 男を見る。


「だからこそ」


 静かに告げる。


「負けるわけにはいかないのです」


 男は、ほんの少しだけ目を細めた。


 初めて、楽しさ以外の感情が混じる。


「……いいね」


 低く呟く。


「それ、すごくいい」


 そして。


 にやりと笑う。


「じゃあさ」


 軽く言う。


「どっちが正しいか、試してみようか」


 その一言で、すべてが次に進む。


 私は頷いた。


「ええ」


 静かに。


 でも、確実に。


「望むところです」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


ついに「正しさ」と「正しさ」が正面からぶつかりました。

どちらも間違っていないからこそ、ここからが本番です。


セレスティアは“選ばせる側”に回り、

リディアは“信じた道を進む側”として動き始めました。


もしこの対立の行方が気になったら、

ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次は、少しだけ“動き”が起きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ