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一度すべてを失った私が、「選ばない」という選択で世界を壊すまで  作者: 優雨セレス


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第3話 同じ未来を見ている者

 ――これで、三人目だ。


 その言葉が、指先から離れない。


 手を離しても、まだ触れている気がした。

 まるで、選択そのものを掴まれたように。


「三人目、とは」


 私はすぐに問い返した。

 間を置けば、飲み込まれる。


 彼は、あっさりと笑った。


「そのままの意味だよ」


 曖昧な答え。

 けれど、隠す気もない。


 いや、むしろ――。


 試している。


「私と、あなた。それで二人」


「うん」


「では、あと一人」


「いるね」


 彼は楽しそうに頷く。


「君も、もう見たんじゃない?」


 その言葉で、すぐに思い出す。


 あの瞬間。

 断罪の場で、唯一反応した視線。


 ――リディア・エルフェルン。


「……彼女ですか」


「正解」


 軽い拍手。

 腹立たしいほど、楽しそうだ。


「でもちょっと違う」


「違う?」


「君と僕は、“覚えてる側”。あの子は、“感じてる側”」


 意味が、少し遅れて理解される。


 つまり。


 リディアは未来を“知っている”わけではない。

 ただ、違和感を持っている。


「……不完全な観測」


「そういうこと」


 彼は机に腰掛けたまま、足を組んだ。


「だから面白い」


「……何が」


「ズレるんだよ、全部」


 その言葉は、軽いのに重かった。


 未来は、固定ではない。

 観測されると変わる。


 そして今、その観測者が三人いる。


「……あなたは、それを望んでいるのですか」


「うん」


 迷いがない。


「だってさ、つまらないじゃん」


 さらりと言う。


「決まった未来をなぞるだけなんて」


 私は少しだけ目を細めた。


 理解できないわけではない。

 むしろ、理解できてしまう。


 けれど。


「その結果、誰がどうなっても?」


「なるようになるでしょ」


 あまりにも軽い。


 あまりにも、無責任だ。


「あなたは」


 言葉を選ぶ。


 怒るのは簡単だ。

 でも、それでは意味がない。


「……誰も救うつもりがないのですね」


「うーん」


 彼は少しだけ考える仕草をした。


「“誰も”じゃないよ」


「では?」


「面白いやつだけ」


 笑う。


 その基準が、何より危険だった。


 私は、ひとつ息を吐く。


「安心しました」


「え?」


「あなたは信用できません」


 はっきりと言うと、彼は一瞬だけきょとんとした。


 それから、吹き出す。


「ははっ、いいね」


 心底楽しそうに。


「そういうの、好きだよ」


 同じことを二度言う男は信用できない。


 その評価は、変わらない。


「では、条件です」


 私は視線を逸らさない。


「私に協力するのであれば、あなたも制限を受けていただきます」


「制限?」


「未来に干渉する際、独断で動かないこと」


「無理」


 即答だった。


「それは飲めない」


「では交渉は成立しません」


 同じ速度で返す。


 沈黙が落ちる。


 互いに引かない。


 先に動いたのは、彼だった。


「……じゃあさ」


 少しだけ声の調子が変わる。


「君は何がしたいの?」


 単純な問い。


 でも、それが一番難しい。


「未来を変えること」


「曖昧」


「滅びを回避すること」


「それも曖昧」


 彼は肩をすくめる。


「どこまで?」


「……」


「誰まで?」


 言葉が詰まる。


 その問いは、避けてきたものだった。


 誰を救うのか。

 どこまで守るのか。


 考えれば考えるほど、答えは重くなる。


 彼はそれを見逃さない。


「ほらね」


 にやりと笑う。


「君だって、決めてない」


 悔しいが、否定できない。


 私はまだ、“知っている側”に留まっている。


 “選ぶ側”には、なっていない。


「……だから」


 私はゆっくりと言葉を紡ぐ。


「決めるために、ここにいます」


 彼の目が、少しだけ変わる。


 興味から、評価へ。


「いいね」


 小さく呟く。


「じゃあ、一個だけ条件変えよう」


「……聞きましょう」


「独断で動くのはやめない。でも」


 彼は指を一本立てた。


「君の“邪魔”はしない」


 それは、妥協のようでいて。


 何も譲っていない。


 でも。


 完全に拒絶するよりは、ましだった。


「……それで構いません」


「ほんと?」


「ええ」


 私は頷く。


「あなたを止めることはできない。なら、利用します」


「言い方」


 彼は笑う。


 でも、嫌そうではない。


 むしろ歓迎している。


「じゃあ、契約成立ってことで」


「まだです」


 私は首を振る。


「ひとつだけ、確認があります」


「なに?」


「あなたは、どこまで知っているのですか」


 同じ質問。


 けれど今度は、意味が違う。


 彼は少しだけ考えてから、答えた。


「君が知ってる未来」


「ええ」


「そこまでは同じ」


 胸の奥が、わずかに緩む。


 少なくとも、完全に未知ではない。


 だが、次の言葉でそれは崩れる。


「その先は、違う」


「……何が」


「分岐してる」


 短い言葉。


 けれど、十分だった。


「君の未来は、一回目」


「……一回目?」


「僕のは、二回目」


 思考が止まる。


 理解が追いつかない。


「……どういう」


「つまりさ」


 彼は、楽しそうに笑った。


「君が失敗した未来の“続き”を、僕は知ってる」


 ――。


 血の気が引く。


 それは、ありえないはずの情報だった。


 未来は一度しかない。

 そう思っていた。


 けれどもし。


 もし、それが連続しているのだとしたら。


「……では、あなたは」


「うん」


 あっさりと頷く。


「一回目の君が、何を間違えたか知ってる」


 喉が、ひどく乾く。


 聞きたくない。


 でも、聞かなければならない。


「……何を」


「それは」


 彼はわざとらしく間を置く。


 私の反応を楽しむように。


「まだ教えない」


 その瞬間。


 怒りが、初めて明確に湧いた。


「……あなたは」


「うん?」


「本当に、性格が悪いですね」


 言い切る。


 彼は、嬉しそうに笑った。


「褒め言葉として受け取っておくよ」


 この男は。


 本当に最悪だ。


 でも。


 必要だ。


 私はゆっくりと息を吐いた。


「……では、始めましょう」


「なにを?」


 彼は首を傾げる。


 わざとらしく。


「未来の選び直しを」


 そう言うと、彼の目が少しだけ細くなった。


 興味。

 期待。

 そして、ほんのわずかな警戒。


「いいね」


 低く呟く。


「それ、面白そうだ」


 その時だった。


 廊下の向こうで、足音が響く。


 複数。


 急いでいる。


「……来た」


 彼が小さく言う。


「何がですか」


「予定外」


 その一言で、すべてが繋がる。


 未来のズレ。


 観測の影響。


 そして――。


 扉が、強く叩かれた。


「開けろ!」


 怒声。


 さっきまでとは違う、明確な敵意。


 彼は楽しそうに笑う。


「ほら、もう変わってる」


 私は、静かに立ち上がった。


 選択の時間が、思ったより早く来た。


 扉が開く。


 そこに立っていたのは――。


「……セレスティア様」


 リディア・エルフェルンだった。


 青ざめた顔で。


 それでも、まっすぐに私を見ている。


 そして。


「話があります」


 そう言った。


 未来が、音を立てて軋む。


 私は、ほんの少しだけ口元を緩めた。


「ええ」


 静かに答える。


「ちょうど、私もです」


 選び直す。


 今度こそ。


 間違えないために。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


未来を知っているはずの物語が、

少しずつ「知らないもの」に変わってきました。


そしてついに、リディアが動きます。

“正しさ”の側の彼女が、何を選ぶのか。


もし少しでも続きを気にしていただけたら、

ブックマークや評価をいただけるととても励みになります。


次話は、三人が初めて正面からぶつかります。

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