第33話 創る責任
――“核”が、手の中にある。
白い空間。
果てが見えない。
上下も、距離も、時間も曖昧な場所で。
それだけが、確かに存在していた。
「……これが」
私は、手を開く。
そこにあるのは、小さな光。
触れれば、壊れそうなほど脆く。
だが。
理解できる。
これは。
――世界そのものだ。
「セレスティア様……!」
ミレイユの声がする。
振り返る。
いる。
全員が。
だが。
違う。
距離が曖昧だ。
近いのか遠いのか分からない。
「これ……何ですか……」
彼女が、震えながら言う。
「……創る側の“核”だ」
アルベルトが、低く言う。
だが、その声にも迷いがある。
確信ではない。
推測だ。
「ええ」
私は頷く。
「そして」
視線を落とす。
「今は、私たちが持っています」
沈黙。
重い。
逃げ場のない。
「……つまり」
リディアが、静かに言う。
「ここから先は」
一歩、近づく。
「私たちが決める、ということですか」
「ええ」
私は答える。
短く。
だが。
確定している。
その瞬間。
空間が、わずかに揺れる。
反応している。
この“核”が。
思考に。
意思に。
「……っ」
ミレイユが、後ずさる。
「そんなの……無理です……」
正しい。
それが普通だ。
これを持てば。
全てを決めることになる。
救うか。
捨てるか。
維持するか。
壊すか。
「……どうする」
アルベルトが、低く言う。
問いではない。
覚悟の確認だ。
私は、少しだけ考える。
そして。
答える。
「何も決めません」
沈黙。
空気が、止まる。
「……は?」
ミレイユが、間の抜けた声を出す。
リディアが、眉を寄せる。
アルベルトが、目を細める。
当然の反応だ。
「……今、何と言いましたか」
「何も決めません」
私は、もう一度言う。
はっきりと。
「……それでは」
リディアが言いかける。
「何も変わらない」
「ええ」
私は頷く。
「その通りです」
だが。
「それが、必要です」
その瞬間。
空気が、わずかに揺れる。
“核”が、反応する。
「……どういう意味ですか」
リディアの声が、少しだけ強くなる。
いい。
反発がある。
それは、思考が動いている証拠だ。
「今まで」
私は言う。
「すべての問題は、“決めたこと”から始まっています」
一歩、前に出る。
「一回目は」
指を立てる。
「決められなかった」
もう一本。
「そして今は」
視線を上げる。
「決めさせられている」
だから。
「ここで決めれば」
“同じ構造”に入る。
沈黙。
全員が、考える。
「……なら」
アルベルトが言う。
「ずっと決めないのか」
「いいえ」
私は首を振る。
「違います」
そして。
一歩、踏み出す。
「“決めるタイミング”を奪います」
その瞬間。
空気が、強く揺れる。
核が、明確に反応する。
「……奪う?」
「ええ」
私は頷く。
「創る側は、“今決めろ”と言ってきた」
だから。
「その前提を壊します」
沈黙。
そして。
創る側の声が、響く。
「……それでどうする」
姿は見えない。
だが。
確実に、見ている。
「簡単です」
私は答える。
「決めるまで、維持します」
「……何を」
「すべてを」
その一言で。
空間が、歪む。
強く。
激しく。
「……不可能だ」
創る側の声が、低くなる。
初めての否定。
はっきりと。
「ええ」
私は頷く。
「だからやります」
一歩、前に出る。
核を、強く握る。
「これは」
視線を上げる。
「完成させるためのものではありません」
そして。
「“保留するためのもの”です」
その瞬間。
世界が、揺れる。
今までとは違う。
崩壊ではない。
停滞。
止まる。
すべてが。
「……」
ミレイユが、息を呑む。
「時間が……止まってる……?」
「ええ」
私は答える。
「まだ、終わっていません」
リディアが、静かに言う。
「……これは」
「ええ」
私は頷く。
「延命です」
だが。
それでいい。
今は。
「……セレスティア」
アルベルトが言う。
「それで、何を待つ」
いい問いだ。
私は、少しだけ笑う。
「簡単です」
そして。
答える。
「“正しい選択ではない選択”です」
その瞬間。
空間が、大きく揺れる。
創る側の気配が、明確に変わる。
「……何だそれは」
苛立ち。
困惑。
そして。
――理解できないものへの拒絶。
「ええ」
私は頷く。
「だから、ここまで来ました」
視線を上げる。
どこにいるか分からない存在へ。
「あなたは、正しいものしか扱えない」
だから。
「間違いを、扱えない」
その瞬間。
完全に。
均衡が崩れる。
「……」
創る側が、沈黙する。
長く。
深く。
そして。
「……なら」
その声が、静かに響く。
「見せてみろ」
その瞬間。
核が、強く光る。
手の中で。
暴れるように。
理解する。
これは。
最後の問い。
逃げられない。
私は、目を閉じる。
そして。
小さく息を吐く。
「……ええ」
答える。
迷いなく。
「見せます」
その瞬間。
光が、弾けた。
すべてが。
白に飲まれる。
そして。
――次の選択が、始まる。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ついに「創る責任」に対して、
主人公は“決めない”という選択を取りました。
ですがそれは逃げではなく、
構造そのものを壊すための一手です。
そして次は、
「正しくない選択」という未知の領域へ。
ここが本当のクライマックスです。
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次は「間違いの選択」です。




