第31話 一回目
――引き裂かれる。
意識が。
視界が。
“今”が。
「――っ!」
息を吸う。
だが、空気が違う。
重い。
冷たい。
血の匂いがする。
「……」
私は、立っていた。
王宮の中庭。
だが。
壊れている。
石畳は砕け、壁は崩れ、空は灰色に濁っている。
人が、倒れている。
無数に。
動かない。
声もない。
「……これが」
理解する。
遅れて。
だが。
確実に。
――一回目。
「……やっと来たか」
声がする。
振り返る。
そこに、いた。
アルベルト。
だが。
違う。
鎧は砕け、血に染まり、立っているのが不思議なほど傷だらけだ。
「……殿下」
自然に名前が出る。
それで、確信する。
これは幻ではない。
記憶だ。
私の。
「……遅いな」
アルベルトが、かすかに笑う。
その目は、どこか諦めている。
「もう終わりだ」
その言葉。
重い。
だが。
事実として、そこにある。
「……何が」
私は、問う。
震えないように。
「全部だ」
短い答え。
だが。
十分だった。
視線を動かす。
中庭の中央。
大きく崩れた場所。
そこに――
「……っ」
息が止まる。
リディアが、倒れている。
剣を握ったまま。
動かない。
血が、広がっている。
「……」
足が動かない。
動かない。
いや。
動かないのではない。
――動かなかった。
それが、正しい。
「……見ているのか」
アルベルトが、低く言う。
「ええ」
私は答える。
目を逸らさずに。
「これが」
「お前の選択だ」
その言葉が、突き刺さる。
逃げ場がない。
否定もできない。
「……」
私は、何も言わない。
言えない。
代わりに、歩く。
ゆっくりと。
リディアの方へ。
足音が、やけに大きく響く。
誰もいないからだ。
止まる。
すぐ手が届く距離で。
彼女の顔を見る。
目は閉じている。
もう、開かない。
「……遅かった」
後ろから声がする。
振り返らない。
「間に合わなかった」
違う。
間に合わなかったのではない。
私は、目を閉じる。
そして。
言う。
「……選ばなかった」
その瞬間。
空気が止まる。
アルベルトが、黙る。
「……何?」
「私は」
ゆっくりと。
言葉を紡ぐ。
「選ばなかった」
もう一度。
はっきりと。
「誰も」
沈黙。
重い。
だが。
これが、答えだ。
「……は」
アルベルトが、笑う。
乾いた。
力のない笑い。
「それが、一番悪い」
「ええ」
私は頷く。
否定しない。
「だから」
リディアを見る。
そのまま。
「こうなりました」
事実。
逃げない。
これは。
私の結果だ。
「……じゃあ」
アルベルトが、低く言う。
「なぜ、戻った」
その問い。
今と同じだ。
私は、少しだけ考える。
そして。
答える。
「間違えたからです」
同じ言葉。
だが。
重みが違う。
「……どこを」
「全部です」
即答する。
迷いなく。
「私は」
続ける。
「“正しく選ぼう”としました」
その瞬間。
空気が、わずかに揺れる。
「……それの何が悪い」
「簡単です」
私は言う。
「時間が足りなかった」
沈黙。
アルベルトが、黙る。
「全員を救うには」
一歩、前に出る。
「“考えている時間”が長すぎた」
だから。
「何も選べなかった」
結果。
全てを失った。
「……」
アルベルトが、目を閉じる。
理解している。
これは、言い訳ではない。
事実だ。
「……なら」
彼が言う。
「今回は、どうする」
その問い。
重い。
だが。
もう迷わない。
「選びます」
私は答える。
はっきりと。
「何を」
「優先順位を」
その瞬間。
空気が変わる。
過去が、揺れる。
記憶が。
更新される。
「……遅いな」
アルベルトが、静かに言う。
「ええ」
私は頷く。
「ですが」
彼を見る。
「二回目です」
その瞬間。
世界が、ひび割れる。
過去が、崩れる。
アルベルトの姿が、歪む。
「……なるほど」
その声は、少しだけ軽くなる。
「だから、お前は変わったか」
「ええ」
私は答える。
「選ばなかった者から」
一歩、前に出る。
「選び続ける者へ」
その瞬間。
すべてが崩れる。
中庭が、消える。
空が、砕ける。
音が消える。
そして。
――戻る。
元の廊下へ。
だが。
違う。
空気が、完全に変わっている。
「……っ」
ミレイユが、息を呑む。
リディアが、強くこちらを見る。
アルベルトが、静かに頷く。
全員が。
理解している。
今のが。
“本当の失敗”だったと。
そして。
創る側が、そこにいる。
だが。
さっきとは違う。
明らかに。
警戒している。
「……見たか」
低く言う。
「ええ」
私は答える。
「全部」
その瞬間。
完全に。
立場が変わる。
「……なら」
創る側が、ゆっくりと手を上げる。
「次は」
その声が、深くなる。
「“選ばせない”」
その言葉で。
空気が凍る。
理解する。
遅れて。
これは。
最後の段階。
――選択の剥奪。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ついに「一回目」が明らかになりました。
主人公は「選ばなかった」ことで、
すべてを失っていた。
そして今、
“選び続ける者”へと変わります。
ですが敵も最終段階へ。
次は「選択そのもの」が奪われます。
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次は「選択の剥奪」です。




