表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一度すべてを失った私が、「選ばない」という選択で世界を壊すまで  作者: 優雨セレス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/38

第29話 絆の切断

 ――遠い。


 それが、最初の違和感だった。


「セレスティア様?」


 ミレイユが、こちらを見る。


 だが。


 その声に、温度がない。


 心配しているはずなのに。


 “他人”の声のように聞こえる。


「……」


 私は、何も言わない。


 いや。


 言えないのではない。


 言う意味が、薄れている。


 目の前にいるのは、ミレイユだ。


 それはわかる。


 名前も、記憶も、顔も。


 全部一致している。


 なのに。


 ――繋がっていない。


 リディアが、剣を下げる。


「……どういうことですか」


 冷静な声。


 だが、そこにも熱がない。


 アルベルトが周囲を見渡す。


「何か……おかしい」


 その言葉は正しい。


 だが。


 “共有されない”。


 違和感が、孤立している。


 私は、ゆっくりと息を吐く。


 整理する。


 ・記憶はある

 ・関係も理解している

 ・だが、感情が繋がらない


 つまり。


「……切られたのは」


 私は呟く。


「“意味”ですね」


 三人が、こちらを見る。


 だが。


 その視線は、ただの確認だ。


 共感ではない。


「意味?」


 ミレイユが首を傾げる。


 その仕草も、知っている。


 だが。


 何も動かない。


「ええ」


 私は頷く。


「あなたがあなたである理由」


「……?」


「私があなたを守る理由」


 ミレイユが、少しだけ黙る。


 理解しきれない顔。


 当然だ。


「それが、切られています」


 その瞬間。


 空気が、わずかに沈む。


 理解ではない。


 ただの情報として、処理される。


 ――やはり。


 これは厄介だ。


 創る側が、少し離れた場所でこちらを見ている。


「どうだ」


 低い声。


「これで、“分け合う”こともできない」


 その通りだ。


 今は、誰も誰かを選ばない。


 いや。


 選べない。


 理由がないからだ。


「……」


 私は、目を閉じる。


 考える。


 これは。


 “関係の前提”を切られた状態だ。


 なら。


 どうする。


 答えは、すぐに出た。


「……作ります」


 目を開ける。


 創る側を見る。


「何?」


「関係を」


 私は言う。


「今、この場で」


 リディアの眉がわずかに動く。


 アルベルトも、視線をこちらに向ける。


 ミレイユは、まだ理解しきれていない。


 それでいい。


「記憶は使えません」


 私は続ける。


「過去も、理由も、意味も切られている」


 だから。


「今、この瞬間だけで繋ぎます」


「……そんなことが」


 リディアが言いかける。


「できます」


 私は、遮る。


 そして。


 一歩、前に出る。


「ミレイユ」


「は、はい」


 彼女が、反射的に返事をする。


 いい。


 まだ、反応は残っている。


「あなたは、今ここで死ぬ可能性があります」


「……え?」


 唐突な言葉に、彼女の目が揺れる。


「そして私は」


 続ける。


「それを見ても、何も感じない可能性があります」


 沈黙。


 重い。


 だが。


 確実に。


 何かが動く。


「……それは」


 ミレイユが、言葉を失う。


「でも」


 私は言う。


「それを、許容しません」


 その瞬間。


 彼女の目が、わずかに変わる。


「……え?」


「理由はありません」


 私は言い切る。


「意味もありません」


 だが。


「私は、そう決めます」


 その一言。


 重い。


 だが。


 確定している。


「……」


 ミレイユが、こちらを見る。


 さっきとは違う。


 ほんの少しだけ。


 温度が戻る。


「……どうして」


「必要ないからです」


 私は答える。


「理由は、後でつければいい」


 今は。


「選択だけで十分です」


 その瞬間。


 空気が、わずかに戻る。


 繋がりが。


 ほんの少しだけ。


「……」


 リディアが、こちらを見る。


 強く。


 そして。


「……私は」


 彼女が、ゆっくりと口を開く。


「正しさで動いていました」


 その言葉。


 少しだけ、重みがある。


「ですが」


 一歩、前に出る。


「今は違います」


 剣を、軽く持ち上げる。


「あなたの判断に、乗ります」


 それは。


 信頼ではない。


 だが。


 委ねる意思。


 十分だ。


 アルベルトが、ため息をつく。


「……面倒だな」


 だが。


 その口元が、わずかに緩む。


「だが」


 剣を拾う。


「悪くない」


 その瞬間。


 完全ではないが。


 繋がる。


 関係が、再構築される。


 創る側が、明確に動いた。


「……ありえない」


 初めての否定。


 強く。


 はっきりと。


「記憶も意味もない状態で、なぜ成立する」


「簡単です」


 私は答える。


「今、決めているからです」


 過去ではない。


 理由でもない。


「現在の選択です」


 その瞬間。


 創る側の輪郭が、大きく歪む。


 不安定になる。


「……それは」


 低く言う。


「制御できない」


「ええ」


 私は頷く。


「だから、強い」


 空気が、震える。


 構造が、崩れる。


 そして。


 創る側が、一歩下がる。


「……面白い」


 その声は、はっきりと揺れていた。


 初めてだ。


 完全な優位が崩れた。


「だが」


 その目が、鋭くなる。


「それも、ここまでだ」


 嫌な予感。


 強い。


 明確に。


「次は」


 その声が、深くなる。


「“お前自身”を切る」


 その瞬間。


 胸に、違和感が走る。


 今までとは違う。


 もっと、深い。


「……っ」


 思考が、揺れる。


 自分が、自分である感覚が。


 崩れかける。


「……これは」


 理解する。


 遅れて。


 だが、確実に。


 ――自己の切断。


 そして。


 それが、最も危険な段階だ。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回は「関係が切られる」という絶望的な状況から、

“今この瞬間の選択”で繋ぎ直す回でした。


ただし、敵はさらに一段階上へ進みます。

次は「自分そのもの」が崩される段階です。


ここから一気にクライマックスに入ります。


もし続きを読みたいと思っていただけたら、

ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次は「自己の切断」です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ