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一度すべてを失った私が、「選ばない」という選択で世界を壊すまで  作者: 優雨セレス


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第13話 正しさを捨てるか

 「選んでください」


 私の言葉は、逃げ場を残さなかった。


 リディアは、動かない。


 さっきまでと同じ場所に立っている。

 けれど、立っている“意味”が違う。


 もう彼女は観察者ではない。

 対象だ。


「……私が、次」


 小さく、呟く。


 声は震えていない。

 でも、息が浅い。


 理解している。


 自分が、さっき倒れた騎士と同じ立場にいることを。


「……そうです」


 私は、静かに答える。


 余計な慰めはしない。


 必要ない。


 今必要なのは、選択だ。


「……どうすれば」


 彼女は、私を見る。


 初めて。


 助けを求める目で。


 その瞬間。


 空気が変わった。


 対立ではない。


 依存でもない。


 ――委ねる。


 その一歩手前。


 私は、わずかに目を細める。


「先ほどと同じです」


 短く言う。


「動くか、待つか」


「……」


「ただし」


 一歩、近づく。


「今回は、あなたが対象です」


 リディアの喉が、わずかに動く。


 選択の重さを、理解した証拠だ。


「……待てば」


 彼女が言う。


「どうなりますか」


「切られます」


 即答する。


 沈黙。


 それは、優しさではない。


 事実だ。


「……動けば」


「回避できる可能性があります」


「可能性、ですか」


「ええ」


 私は頷く。


「保証はありません」


 男が、くすりと笑う。


「厳しいねえ」


 無視する。


 今は重要ではない。


「……なら」


 リディアは、目を閉じる。


 ほんの一瞬。


 そして。


 開く。


「動きます」


 迷いはなかった。


 決断だ。


「……いい選択です」


 私は、頷く。


 その瞬間。


 空気が、わずかに動いた。


 ――来る。


「下がってください」


 私は、リディアの腕を引く。


 強く。


 予想よりも、強く。


「っ……!」


 彼女の体が、わずかに崩れる。


 その位置に。


 “何か”が通った。


 見えない。


 でも。


 確実に、あった。


「……今の」


 リディアが、息を呑む。


「ええ」


 私は、短く答える。


「切断です」


 彼女の元いた場所。


 そこにあった空気が、わずかに歪んでいる。


 何もないのに。


 何かがあった痕跡だけが残る。


「……見えない」


 アルベルトが、低く言う。


「当然です」


 私は頷く。


「観測できないものですから」


「……でも」


 リディアが、こちらを見る。


「今、避けましたよね」


「ええ」


「どうやって」


 いい問いだ。


 でも。


「勘です」


 私は、あっさりと答える。


 リディアの表情が固まる。


「……本気ですか」


「はい」


 嘘ではない。


 完全な。


 でも。


「ただし」


 私は、付け加える。


「“知っている勘”です」


 それだけで、彼女は黙った。


 理解したからだ。


 それ以上聞いても、意味がないと。


「……来るよ」


 男が、低く言う。


 さっきよりも、真面目な声で。


 空気が、また動く。


 今度は。


 広い。


「全員、下がってください」


 私は言う。


「ここは危険です」


「でも――」


 リディアが言いかける。


「今は退くべきです」


 強く言う。


 彼女は、言葉を飲み込む。


 判断した。


 従うべきだと。


 それでいい。


 全員が、少しずつ後退する。


 その瞬間。


 空間が、歪んだ。


 さっきよりも、はっきりと。


 そして。


 床が、裂けた。


「――っ!」


 轟音。


 石が砕ける。


 見えない“何か”が通った軌跡だけが、現実を壊していく。


「……これが」


 アルベルトが、息を呑む。


「観測を止める……」


「ええ」


 私は答える。


「“存在を切る”力です」


 リディアの顔が、青ざめる。


 当然だ。


 これは。


 止めるものではない。


 避けるものだ。


「……どうすれば」


 彼女が、再び問う。


 今度は、はっきりと。


 私は、答える。


「選び続けてください」


「え?」


「止まらずに」


 視線を合わせる。


「考え続けてください」


 その瞬間。


 リディアの目が、わずかに変わる。


「……考える?」


「ええ」


 私は頷く。


「“遅れる者”が狙われる」


 彼女は、理解する。


 さっきの騎士。


 その意味を。


「……つまり」


「止まった瞬間に、切られます」


 静かに告げる。


 それが、ルールだ。


「……なるほど」


 男が、笑う。


 今度は、本当に楽しそうに。


「動き続けるゲームか」


「ええ」


 私は答える。


「それが、最初のルールです」


 リディアが、息を吸う。


 深く。


 そして。


 一歩、踏み出す。


 次の一歩を考える。


 その先を考える。


 止まらない。


 止まれない。


「……来ない」


 彼女が、呟く。


 さっきの“何か”は、反応しない。


 当然だ。


 今、彼女は“遅れていない”。


「……できる」


 小さく。


 でも、確かに。


 自分の力で、理解した。


 その瞬間。


 私は、わずかに口元を緩めた。


「ええ」


 静かに。


「それが、あなたの戦い方です」


 リディアが、こちらを見る。


 さっきまでとは違う目で。


 迷いではない。


 覚悟でもない。


 ――理解だ。


 その時。


 男が、ふと視線を上げた。


「……あれ」


 軽く言う。


 でも。


 その声には、わずかな違和感があった。


「どうしました」


 私は問う。


「いや」


 彼は、少しだけ眉をひそめる。


「今のやつ」


 廊下の奥を見る。


「消えてない」


 その一言で。


 空気が、変わった。


「……どういう」


 アルベルトが言いかける。


 その瞬間。


 背後で、音がした。


 振り返る。


 さっき倒れた騎士。


 その体が――


 ゆっくりと、持ち上がる。


「……っ」


 ミレイユが、声を失う。


 騎士の目が、開く。


 でも。


 焦点が合っていない。


 そして。


「――」


 口が、動く。


 声にならない言葉。


 でも。


 意味は、わかった。


 ――“遅い”。


 その瞬間。


 騎士の体が、こちらに向く。


 動く。


 ぎこちなく。


 でも、確実に。


 リディアの呼吸が、止まる。


「……これ」


 彼女が呟く。


「終わってない」


「ええ」


 私は答える。


 静かに。


 でも、はっきりと。


「“次の段階”です」


 未来は。


 もう、止まらない。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


“止める者”との戦いは、ただ避けるだけでは終わりませんでした。

ルールが一つ見えた瞬間に、次の段階が始まります。


リディアは一歩進みましたが、

同時に“戻ってくるもの”が現れました。


もし続きが気になったら、

ブックマークや評価をいただけるととても励みになります。


次は「切られた後の世界」です。

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