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一度すべてを失った私が、「選ばない」という選択で世界を壊すまで  作者: 優雨セレス


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第12話 先に崩れるのは

 「先に動いた方が負けます」


 私の言葉が、静かに残る。


 誰もすぐには動かなかった。


 さっきまでの“戦い”とは違う。

 これは、待つことが前提の戦い。


 動けば、狙われる。


 観測を止める者――あの影は、そういう存在だった。


「……じゃあさ」


 最初に口を開いたのは、男だった。


「何もしないの?」


 軽い声。

 でも、試している。


「いいえ」


 私は首を振る。


「何もしないのではなく」


 一歩だけ歩く。


「“動かされるのを待つ”のです」


 リディアが、わずかに眉を寄せる。


「それは……受け身ではありませんか」


「はい」


 私はあっさりと頷く。


「ですが、今はそれが最善です」


「……」


 彼女は納得していない。

 当然だ。


 彼女は“正しく動く側”の人間だ。


 止まることに価値を見出しにくい。


「リディア様」


 私は静かに呼ぶ。


「今、あなたが最も優先すべきことは何ですか」


「……被害の最小化です」


 迷いなく答える。


 いい。


 ぶれていない。


「では」


 私は一歩、近づく。


「この場で動いて、あの影を刺激することと」


 少しだけ間を置く。


「動かず、次の異常を待つこと」


 視線を合わせる。


「どちらが、被害を減らせますか」


 沈黙。


 彼女は、答えを持っている。


 でも、それを選びたくないだけだ。


「……後者、です」


 小さく。


 絞り出すように。


「ええ」


 私は頷く。


「それが正解です」


 リディアが目を閉じる。


 納得ではない。


 受け入れだ。


 それでいい。


「……でも」


 アルベルトが、低く言う。


「待っているだけでは」


「いいえ」


 私は遮る。


「観察します」


 短く。


 はっきりと。


「“どこが崩れるか”を」


 男が、くすりと笑う。


「それで?」


「そこにだけ、介入します」


 選択。


 最小限の。


 最適化された。


「……なるほどね」


 彼は頷く。


「全部じゃなくて、“一点”」


「ええ」


 私は目を細める。


「それが、この状況での唯一の勝ち方です」


 沈黙。


 今度は、全員が納得した。


 完全ではない。


 でも。


 理解した。


「……では」


 リディアが言う。


「どこを見ればいいのですか」


 いい問いだ。


 だから私は。


「人です」


 即答する。


「え?」


「場所ではなく」


 ゆっくりと、周囲を見る。


「人の動きを見ます」


 廊下。

 騎士。

 侍女。


 全員が動いている。


 でも。


 その中に。


「……一人だけ」


 私は、視線を止める。


「動きが“遅い”人がいます」


 リディアも、同じ方向を見る。


 気づく。


 すぐに。


「……あの方」


 廊下の端。


 壁際。


 一人の騎士が、立っている。


 動いている。


 でも。


 どこか、遅れている。


「……違和感」


 ミレイユが、小さく呟く。


「はい」


 私は頷く。


「“繋がりが弱い”」


 それが意味するのは。


「……狙われている?」


 アルベルトが言う。


「ええ」


 私は答える。


「次に“切られる”のは、あの人です」


 空気が、張り詰める。


「どうする」


 男が、低く言う。


「今なら、間に合うかもよ」


 選択だ。


 ここで。


 動くか。


 待つか。


 私は、騎士を見る。


 彼は、まだ気づいていない。


 自分が。


 切られる対象であることに。


「……セレスティア様」


 リディアが、私を見る。


「助けますか」


 問い。


 そして。


 期待。


 私は、少しだけ目を閉じた。


 あの夜を思い出す。


 全部を助けようとして。


 全部を失った夜を。


 そして。


 目を開ける。


「……いいえ」


 静かに答える。


 その瞬間。


 空気が凍る。


「見ます」


 続ける。


「ここで動けば、次が読めなくなります」


 リディアの顔が、歪む。


「それは……!」


「必要な犠牲です」


 言い切る。


 はっきりと。


 逃げずに。


「……」


 彼女は、言葉を失う。


 否定したい。

 でも、否定できない。


 それが、わかる。


「……来る」


 男が、低く言う。


 その瞬間。


 騎士の動きが、止まった。


 完全に。


「……あ」


 ミレイユが、息を呑む。


 騎士の目が、虚ろになる。


 そのまま。


 崩れる。


 音もなく。


 ただ。


 “切れた”。


 誰も、すぐには動けなかった。


 わかっていたのに。


 見ていたのに。


 止めなかった。


 その事実が。


 重く、残る。


「……っ」


 リディアが、一歩前に出る。


 でも。


 止まる。


 理解している。


 もう、遅いと。


 私は、静かに息を吐く。


「……これで」


 呟く。


「見えました」


 全員が、こちらを見る。


「何がだ」


 アルベルトが問う。


 私は答える。


「順序です」


 短く。


 明確に。


「切られる対象は」


 指を一本、立てる。


「“遅れている者”」


 次に、もう一本。


「そして」


 視線を、リディアに向ける。


「次は」


 彼女の目が、見開かれる。


「……私?」


「可能性が高いです」


 沈黙。


 空気が、一瞬で変わる。


 観察から。


 当事者へ。


「……なるほど」


 男が、笑う。


 今度は、低く。


「やっとゲームになってきた」


 私は、リディアを見る。


 まっすぐに。


「選んでください」


 静かに言う。


「動くか、待つか」


 今度は。


 彼女の番だ。


 そして。


 未来が、次に動く。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


“助けられたはずの一人”を、あえて見送る。

この選択で、物語のルールが一段深くなりました。


そして次は、リディア自身が選ばれる側に入ります。


ここから先は「正しさ」だけでは進めません。

誰が何を選ぶのか、その一手で流れが変わります。


もし続きを気にしていただけたら、

ブックマークや評価をいただけるととても励みになります。


次話は「リディアの選択」です。

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