表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一度すべてを失った私が、「選ばない」という選択で世界を壊すまで  作者: 優雨セレス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/25

第11話 観測を止める者

 ――そこに、立っていた。


 音もなく。

 気配もなく。


 ただ、“最初からいた”かのように。


「……誰」


 リディアの声が、かすれる。


 無理もない。

 誰も気づかなかった。


 この距離で。


 この人数で。


 それなのに。


 そいつは、そこにいる。


 黒い外套。

 顔は見えない。


 でも。


 視線だけが、はっきりとわかる。


 こちらを見ている。


 全員を。


「……」


 男が、初めて沈黙した。


 いつもの余裕が、ない。


 それだけでわかる。


 こいつは。


 今までとは違う。


「……下がってください」


 リディアが、低く言う。


 前に出る。


 庇うように。


 でも。


 私は動かなかった。


 動くべきではない。


 この場で、最初に動いた方が負ける。


「……あなたは」


 アルベルトが、かろうじて声を出す。


「何者だ」


 問い。


 正しい。


 けれど。


 返答はなかった。


 ただ。


 一歩、前に出る。


 それだけで。


 空気が、変わった。


「……!」


 ミレイユが、小さく息を呑む。


 “感じている”。


 危険を。


 直感で。


「来るよ」


 男が、低く言う。


 声が、わずかに硬い。


 私は、視線を外さない。


 逃げない。


 観測する。


 その瞬間。


 ――何かが、切れた。


「……っ!」


 頭が、揺れる。


 視界が、歪む。


 さっきまでの光景が、一瞬で遠くなる。


「……なに、これ」


 リディアの声。


 遠い。


 聞こえるのに、遠い。


「……切られてる」


 男が、低く呟く。


 その言葉で、理解する。


 これは。


 “同じもの”だ。


 さっき見た、あの状態。


 倒れていた人間たち。


 意識の切断。


 観測の断絶。


「……やめなさい」


 私は、声を出す。


 思ったよりも、静かだった。


 でも。


 届いた。


 黒い影が、止まる。


 ほんの一瞬だけ。


「……」


 無言。


 でも。


 わかる。


 こちらを“見た”。


 私は、一歩前に出る。


 リディアが止めようとする。


 でも、止めない。


 止められない。


「それ以上、近づかないでください」


 静かに言う。


 命令ではない。


 警告でもない。


 ただの“確認”。


 その瞬間。


 影が、わずかに傾いた。


 まるで。


 興味を持ったように。


「……なるほど」


 声がした。


 初めて。


 低く、くぐもった声。


「お前は、まだ繋がっている」


 意味は、すぐに理解できた。


 私は。


 まだ“観測できている”。


 だから。


 切られていない。


「……あなたは」


 私は問う。


「それを、切っているのですか」


 返答はない。


 でも。


 必要ない。


 答えは、もう出ている。


「……なぜ」


 リディアが、震える声で言う。


「そんなことを」


 影は、少しだけ動く。


 ゆっくりと。


 私たちを見渡すように。


「増えすぎた」


 短い言葉。


 それだけ。


 でも。


 十分だった。


「……観測者が」


 男が、低く言う。


「そういうことだね」


 影は、否定しない。


「分岐は、不要だ」


 続く言葉。


 冷たい。


 感情がない。


「一つでいい」


 その瞬間。


 全員が理解した。


 こいつは。


 “未来を固定する側”だ。


「……それが、あなたの正義ですか」


 私は問う。


 影は、答えない。


 でも。


 沈黙が、肯定だった。


「……なるほど」


 私は、小さく息を吐く。


 理解した。


 構造が。


 完全に。


 観測する者。

 選ぶ者。

 奪う者。


 そして。


 止める者。


「……いいですね」


 思わず、呟く。


 影が、わずかに動く。


 興味。


 あるいは。


 違和感。


「何がだ」


 初めて、問いが返ってくる。


 私は、笑う。


 ほんの少しだけ。


「やっと、対話が成立しました」


 沈黙。


 その一瞬で。


 空気が変わる。


 対峙ではなく。


 “交渉”へ。


「……お前は」


 影が言う。


「何を選ぶ」


 同じ問い。


 でも。


 意味が違う。


 私は、答える。


「決めません」


 即答。


「……なに?」


「選び続けます」


 はっきりと。


「一つに固定することはありません」


 影が、わずかに揺れる。


 初めての反応。


「それは、無意味だ」


「いいえ」


 私は首を振る。


「それが、最も現実的です」


 間。


 ほんの一瞬。


 そして。


「……排除する」


 影が、動く。


 速い。


 さっきとは違う。


 明確な敵意。


「――!」


 リディアが前に出る。


 でも、遅い。


 届かない。


 その時。


「やめときなよ」


 男が、割って入る。


 軽い声で。


 でも。


 確実に。


 影の動きが、止まる。


「……お前」


 影が、低く言う。


「知っているな」


「まあね」


 男は肩をすくめる。


「でもさ」


 少しだけ、声を落とす。


「今ここでやると、壊れるよ」


 影が、沈黙する。


 計算している。


 リスクを。


「……」


 長い、沈黙。


 そして。


 影が、ゆっくりと後退する。


「……次だ」


 それだけ言って。


 消えた。


 気配ごと。


 完全に。


「……」


 誰も、すぐには動かなかった。


 空気が、戻らない。


 緊張が、残ったまま。


「……なんなの」


 リディアが、ようやく声を出す。


 震えている。


「敵です」


 私は、答える。


 短く。


 はっきりと。


「明確な」


 男が、小さく笑う。


 さっきよりも、静かに。


「いいね」


 呟く。


「これで完全に、始まった」


 私は、息を吐く。


 少しだけ。


 本当に、少しだけ。


 肩の力を抜く。


 そして。


「……ええ」


 頷く。


「これで、選択の意味が変わりました」


 未来を変える話ではない。


 未来を奪い合う話でもない。


 これは。


 未来を“守るか、止めるか”の話だ。


 リディアが、こちらを見る。


 迷いと、覚悟の目で。


 アルベルトが、拳を握る。


 ミレイユが、不安そうに揺れる。


 全員が。


 同じ場所に立っている。


 でも。


 進む方向は、違う。


 私は、静かに言う。


「……次は」


 視線を上げる。


「先に動いた方が負けます」


 その言葉で。


 全員が、理解する。


 これは。


 “先手の奪い合い”ではない。


 “耐える戦い”だと。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


ついに「明確な敵」が登場しました。

そして構造も、「未来を変える」から「未来を止める者との対立」へ。


この作品の本当のルールが、ようやく見え始めています。


もし少しでも続きを気にしていただけたら、

ブックマークや評価をいただけると嬉しいです。


次は「誰が最初に崩れるか」です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ