四郎の憧れた六三郎と赤備え達は
慶長元年(1596年)三月三十日
常陸国 水戸城近く
「柴田様!こちらが、前日に柴田様が希望なされた甲冑職人の家です」
「次郎殿。忝い」
皆さんおはようございます。佐竹家にお世話になっております柴田六三郎です。前日に常陸国に到着して
「さあ帰るぞ!」と意気込んでおりましたが、源次郎と銀次郎と新左衛門が船酔いでダウンしたので
佐竹さんに「一日だけ休ませて」とリクエストしたら、「四郎の葬儀に出てくれるなら」と条件付きで了承されました
まあ、これは断る事は出来ません。船酔いの3人の事もそうですが、四郎殿は俺や赤備えの皆の戦の話を聞いて
「いつか自分も」と、強い憧れを俺達に持っていたそうです。そこまで言われたら、葬儀に出席する事は当然ですよね
ですが、それだけだと俺が甲冑職人を紹介してくれ!なんて佐竹殿に頼むなんてしません
俺は今回、四郎殿が勝四郎くんの父の勝頼の様に、命懸けで妊娠中の嫁さん2人を逃した事に敬意を評して、ある事をやりたいんです!
前日の夜に、俺の提案を聞いた赤備えの皆は
「是非ともやりましょう!」
「四郎殿への手向けと言う事ですな!」
「その様な粋な事を実行してこそ、四郎殿が憧れを抱いた殿ですな!」
と、全員納得してくれたので、今日に至るわけです!で、改めて甲冑職人のおっちゃんに
「甲冑職人の方、拙者、織田家家臣の柴田播磨守六三郎と申します!実は、急ぎで甲冑を1つ作っていただきたいのです!」
リクエストを出しますと、おっちゃんは
「作るのは構いませんが、期日はどれくらいなのですか?」
そう聞いて来たので、俺は案内役の次郎くんに
「次郎殿!四郎殿の葬儀の日取りは何日後に決まりましたかな?」
葬儀の日取りを確認すると、次郎くんは
「六日後に決まりましたが」
卯月の5日に決まったと教えてくれたので
「職人の方、聞きましたな?遅くとも六日後には完成させていただきたい!」
俺がそう伝えると、おっちゃんは
「六日以内に甲冑を作るのは、一人分なら可能ですが、何人分の甲冑を作るのですかな?」
人数確認をして来た。まあ、当然と言えば当然だよな。なので
「一人分を頼みたい!勿論、急ぎなので銭は多めに払う!」
一人分の甲冑を急ぎで頼むと、おっちゃんは
「一人分ですな。それならば受けましょう!それで柴田様、どの様な甲冑をご希望なのでしょうか?
あまりに細かい作りですと、一人分でも、日数がかかりますし、その方の身の丈も如何程なのかも教えていただきたく」
サイズを含めた色々な事を質問して来たので、おおよそにはなりますが
「そうですなあ、此方の佐竹次殿と同じくらいの身の丈と身幅の甲冑で、赤で統一していただきたいので、そこは特によろしくお願いしますぞ!」
サイズと色を説明しますと、次郎くんは
「し、柴田様!赤の甲冑とは、もしや!」
俺の考えに気づいた様ですが
「次郎殿、そこから先は当日まで誰にも言わないでくだされ。それこそ、お父上にもですぞ?」
当日まで他言無用を守ってくれと伝えましたら、次郎殿は
「柴田様。四郎の為にそこまでやっていただけるとは。誠に、誠に、どれほどの御礼を申し上げたら良いか」
この時点で、大泣きしてしまいました。だけど、此処でツッコミを入れるのも野暮ですから
「次郎殿。拙者としては、佐竹殿が名付けた四郎殿の息子の孫四郎殿、娘の四葉姫が幼いながらに
「父上はこれ程に慕われていた」と思ってもらいたいので、此度の事を実行するのです
まだ赤子なので、しっかりと覚えていない可能性もあるでしょうが、
断片的にでも覚えられる様にしたいと思っております。なので、当日までは他言無用でお願いしますぞ?」
当日までは他言無用を念押ししました。次郎殿も
「はい!」
と、強く返事をしたので、まあ大丈夫でしょう。
そして、あっという間に葬儀当日になりました
慶長元年(1596年)四月五日
常陸国 正宗寺
「四郎、四郎の葬儀に柴田の鬼若子殿と赤備えの方々が来てくれたぞ。四郎、喜んで良いのだぞ。四郎、四郎」
「四郎、父上がこれ程、仰っておるのじゃぞ、何か無いのか?四郎よ、兄は、、」
皆さんおはようございます。朝から佐竹家の菩提寺である正宗寺で行なわれている四郎殿の葬儀に赤備えの皆と出席しております柴田六三郎です
佐竹殿の言葉は、子に先立たれた親の言葉なので、やはり胸に来るものがあります。
それこそ、俺の嫡男の甲六郎が元服前や元服直後に亡くなろうものなら、俺も佐竹殿と同じ様になると確信しておりますから
改めてですが、四郎殿の嫁さん2人と子供達、そして佐竹家の一門や親族の皆さん、更には家臣の皆さん、
四郎殿の為に手を合わせております。俺達が今からやるのは、常識的に考えてとても失礼な事だろう
でも、四郎殿が憧れていた俺達は、常識に囚われない戦い方で武功を挙げて、勝利を掴んで来たんだ!それなら、四郎殿が喜ぶ事をやるだけだ!
そうと決まれば
「次郎殿。例の事をやりますので」
次郎くんに声をかけましたら、次郎くんは
「分かりました。父上、そして各々方!柴田様と赤備えの皆様が、四郎の為にある事をやりますので、準備の為に暫し席を離れる事、ご容赦くだされ」
俺達が席を離れる事を説明してくれた。それを聞いた佐竹殿は
「良かろう。四郎の為とあっては、待つとしよう」
了承してくれたので、他の人達も了承してくれました。それじゃあ移動して準備しましょうか!
六三郎達が移動して、準備に取り掛かる事およそ15分。準備を終えた六三郎は
「次郎殿!先導をお願いします!」
義宣に先導役を頼み、義宣も
「ははっ!四郎の為にありがとうございます!」
喜び溢れた声で返事をし、六三郎達の元に向かう。そして
「柴田様と赤備えの皆様を先導します!」
義重達に聞こえる様に先導開始を叫びながら、歩き出す。義宣の後ろに居る六三郎達を見た義重は
「し、柴田殿!赤備えの面々も、全員甲冑を着て、どう言う事なのじゃ?」
六三郎達が葬儀に甲冑を着ている事に対して、質問する。質問に対して答えたのは六三郎ではなく
「父上!柴田様達が甲冑を着ている理由はこれから分かります!なので、お待ちくだされ!」
義宣だった。義宣の言葉に義重は
「分かった」
そう答えるに留めた。そして、六三郎と赤備え達が四郎の亡骸の前に到着すると、六三郎が
「佐竹四郎殿!お父上の佐竹常陸介殿より四郎殿が、我々「柴田の赤備え」に憧れを抱いておると、教えていただいたが
この「柴田の鬼若子」こと、柴田播磨守六三郎!四郎殿が命をかけて2人の奥方殿、そしてお子達を守り抜いた事に感服仕った!
四郎殿の見事な軍略の才と武勇に敬意の形を示す為、この赤備えの甲冑を授ける!
これで四郎殿も赤備えの1人じゃ!これからは、その見事な軍略の才と武勇で、お子達と奥方達、そして佐竹家を守ってくだされ!」
四郎へ「四郎殿も赤備えの一員だ!」を含む口上を述べる。述べ終えると義重が
「柴田殿。四郎の為にやりたかった事は、これだったのじゃな。四郎を赤備えの一人と言ってくれた事、きっと四郎も喜んでおるじゃろう。
赤備えの皆も感謝致す。そして次郎よ。此度の事を黙っていた事、良くぞ耐えたものじゃ」
六三郎と赤備え達に感謝を示しながら、義宣に黙っていた事を褒めた。
何とか話せた義重は、涙が止まらなかったが、他の出席者、特に四郎の嫁2人は子供を抱えながら
「四郎様、赤備えの一人として認めていただきましたよ」
「これも、四郎様が、四郎様が」
四郎の命懸けの行動が無駄ではなかった事を涙ながらに褒めていた
こうして、葬儀に甲冑を着て出席して、故人に甲冑を贈るという前代未聞な葬儀は、家族及び関係者全員が喜ぶ結果となった。




