嫡男の誕生と六三郎の帰宅
次郎殿を先頭に、主だった面々で神棚のある部屋に移動して、安産祈願を開始したのが、推定午前10時頃だったのですが
「オギャー!オギャー!オギャー!」
まさかの30分くらいで産声が聞こえて来ました。驚く程の安産だったので
「う、産ま、れ、た。儂の、子、が。儂、の、子、が」
次郎殿の心の準備もまだだった様でしたが
「次郎!早く清の元に行ってあげなさい!しっかりと感謝を伝えるのですよ!」
次郎殿の姉の愛姫さんが、次郎殿の尻を叩くかの様な言葉で叱咤すると、正気を取り戻した様で
「は、はい!清!清!!」
清姫さんの名前を叫びながら、出産部屋に行きました。まあ、初めての子供ですからね、あの姿は何歳になっても初々しいです
六三郎が氏顕の後ろ姿を見送っていると、やがて出産部屋の前に到着した
そして
「き、き、清。は、は、入、る、ぞ!」
緊張を隠しきれないまま、清姫に声をかけながら、襖を開けると
「田村様!おめでとうございます!若君がお産まれになりました!」
産婆が男児の赤子を氏顕に見せた。男児を見た氏顕は
「誠に、儂に、子が、産まれた、のじゃな。清、どれだけの感謝を述べたら良いか誠に、誠に」
男児を抱っこする前に泣き崩れていた。そんな氏顕に清姫は
「次郎様!嬉し泣きしてくれるのは、大変嬉しいかぎりですが、しっかりしてください!そして赤子を抱き上げてください!そして、私にもしっかりと顔を見せてください!」
遠回しに「しっかりしろ!」と、氏顕に喝を入れる。清姫に喝を入れられた氏顕は
「わ、分かった。産婆殿、赤子の抱き方を教えてくだされ」
産婆に抱っこの仕方を教わり、何とか形にすると
「清!この子が、儂達の子であり、次の田村家の当主じゃ!この子が、この子が」
清姫に見せながら、気づいたら泣いていた。そんな氏顕に清姫は
「次郎様。これから私達は、この子に恥じない親にならないといけないのですから、お互いに強くなりましょう」
「この子の為に」との言葉で、氏顕を叱咤した。それに氏顕も
「そうじゃな。しっかりせんといかん!」
決意も新たに、親としての自覚が芽生えていた。そこから氏顕は
「そうじゃ、清!実はな、今日、義兄上が姉上を迎えに来ておるのじゃが柴田様と佐竹様もご一緒なのじゃ!
そこでじゃが、お三方から子供の幼名の為に一字をいただきたいと思う。良いか?」
政宗と義重と六三郎から一字ずつもらって幼名に付けたいと、清姫に提案した。氏顕の提案を聞いた清姫は
「それは良い考えですねえ。きっと、お三方共、了承してくれるでしょう!是非とも伝えてください!」
氏顕の背中を押した。背中を押された氏顕は
「よし!清、今からお三方の元に行ってくる!その間はしっかり休んでおいてくれ」
そう言って、3人の居る神棚の部屋に向かった。部屋には3人共、残っていたので
義兄上、佐竹様、柴田様!嫡男が産まれました!皆様の安産祈願もあり、清も子供も無事です!誠に、誠に!」
3人に嫡男が産まれた事、母子共に無事である事を伝えると
「改めてですが、義兄上、佐竹様、柴田様!お三方の名字と仮名と諱から一字ずついただき、嫡男の幼名としたく!使わせてくだされ!」
頭を下げて、一字ずつ使わせてくれと頼んだ。嫡男の誕生という、武家にとって最大の慶事に3人も
「「「良かろう!」」」と了承し、最初に一字を提案したのは
「我々佐竹家からは、「竹」の字を使ってもらおう!竹は立派に成長する植物じゃ!大きく育って欲しい頃の幼名には持って来いじゃ!」
義重で、佐竹家の竹を使えと言い、次に
「それでは、柴田家からは通字の勝を使いなされ。どの様な困難にも勝ち進む子になる様に」
六三郎で、柴田家の男の通字の勝を使わせて、最後に
「ならば、伊達家からは次郎を使ってもらおう!奇しくも、義弟よ。お主の仮名と同じじゃ!どの様に組み合わせるのか、教えてもらおうではないか!」
政宗は「「次郎」を使え!」と2文字を使わせた、更には「幼名をこの場で決めろ」と無茶振りをして来た
その無茶振りに氏顕は、少し考えたが
「幼名が決まりました!」と宣言し、墨と筆と紙を準備して、幼名を書き始めると
「出来ました!」と紙を3人に見せた。紙に書かれていたのは
「勝竹次郎」だった。それを見た義重は
「おお!勝ち進む事を竹の様に真っ直ぐに諦めぬ子になりそうじゃな!」
と、褒め称え、政宗は
「田村勝竹次郎か、うむ。良い名じゃ!亡きお父上も兄君も喜んでおられよう!」
と、褒めていた。そして六三郎は
「拙者の勝の字を最初に使ってくださるとは、なんともありがたい!きっと、どの様な困難にも負けない強い子に育つでしょうな!」
早く帰りたいので、義重や政宗と同じく褒め称えていた。こうして、2年と少しの間に色々とあった陸奥国出張だったが
田村家の嫡男誕生により、帰国の目処がついた。しかし、六三郎は元号が変わった事に加えて、大和国で働かされる事、素直に播磨国に帰れない事を、この時はまだ知らないのであった。




