お市様の大立ち回りを止めたのは
天正二十四年(1596年)一月二十日
近江国 安土城
「そろそろ権六からの文が届く頃じゃがのう、勘九郎!誠に権六へ文を書いて届たのじゃな?」
「はい。父上達が到着した翌日には家臣を出立させましたので
何も問題が無ければそろそろ権六からの文が来ると思うのですが」
「まあ、伊達家の面々は既に洛中に移動しておるから、儂としては件の京六郎が誠に美丈夫なのであれば、神戸家で働かせるだけじゃ」
信忠の文が勝家の元に届いてからおよそ2週間後、信長は信忠と京六郎達の到着を待っていた
その中で信長は
「そう言えば勘九郎!次三郎が藤吉郎の娘と夫婦になったそうじゃな?二人は現在、どうしておる?」
自身の初孫である次三郎の嫁取り後を質問した。質問された信忠は
「次三郎と吉姫は、今でも柴田家の寺子屋で鍛えられております。やはり嫁を取ったとはいえ、まだまだ領地を任せて良いとはなりませぬから」
「小さい領地すら任せぬとは、中々に厳しいのう。この近江国の一部で五百石くらいの領地を任せても儂は良いと思うぞ?
まあ、六三郎が元服前に権六の代わりに見ていた美濃国の三万石は流石に無理だと思うが」
「拙者も六三郎を基準としては駄目であると分かっているのですが、やはりそれでも半分も任せる事は出来ませぬ」
「次三郎に領地をもたせるのは、まだ早いから、柴田家で鍛え続けてもらう」
と答えて、信長も
「六三郎という傑物を基準にしない事は良い事じゃな」
信忠の基準を褒めつつ
「これで件の京六郎が、六三郎と同様に戦上手であったならば、かの足利尊氏公と直義公の様なとてつもない兄弟になるのう
改めて楽しみじゃな!今のところ、顔が織田家の血筋、身の丈が柴田家の血筋である事しか知らぬが、早く到着して欲しいものじゃ」
京六郎の到着を待っていた。そんな信長と信忠の元に
「柴田家からの文が届きました!」
勝家からの文が届けられた。信忠は文を受け取ると
「父上、自ら読みますか?それとも拙者が読みますか?」
文をどっちが読むのか確認すると、信長は
「勘九郎が読んでくれ」
信忠に読む様、促す。言われた信忠はそのまま読み上げる
「分かりました。では、「殿へ、柴田権六にございます。京六郎へのお役目、誠にありがたい限りです
殿からの文が届いたその日に、京六郎と江を安土城へ向けて出立させたのですが、
実は、京六郎と江を安土城へ連れて行く者達の代表を市が務めると言っており、更に高代が産んだ四人目の孫を見たいとの事でしたので
市に任せる事にした次第です。そこで一応殿へ伝えておかねばならぬ事なのですが、
市は大殿に対して「何故、六三郎がまだ戻って来ないのか?」と怒り心頭になっております
拙者や最上殿も、市を宥めるくらいしか出来ない状態ですので、もしかしたら殿や大殿も市への対応に苦慮するかもしれませぬ
改めてですが、市達の事よろしくお願いします」と、ありますが父上。叔母上への対応は父上がやると仰っていたので、是非ともお願いしますぞ?」
文を読み終えた信忠は、市への対応を信長に丸投げした。丸投げされた信長も
「分かっておる。だが、市の怒りを出来るかぎり早いうちに抑えぬといかんのう」
何とか市の怒りを出来るかぎり早い段階で抑えたいと思っていた。そして、文を受け取ってから3日後
天正二十四年(1596年)一月二十三日
近江国 安土城
「お市様御一行、参られました!」
「うむ。準備が整い次第、大広間に来る様に伝えよ」
「ははっ!」
とうとう、市達が到着した。信長は市達の準備を待つ事にした
そこからしばらくして準備が完了した事を市が家臣に伝えると家臣が慌てだす
その理由は
「お、お市様!お待ちくだされ!」
「お市様!長刀は大広間に持っていかないでください!」
「退きなさい!兄上に一撃入れないと気が済みませぬ!兄上!大広間で踏ん反りかえっているのであれば
六三郎が何故、陸奥国で子作り指導をする事になったのか説明しなされ!!」
市が長刀を持って、大広間に居る信長の元へ行こうとしていたからで、家臣達が止めようとしたが、
柴田家で20年かけて逞しくなった市を、普通の武士である家臣達が止められないので、女中に至っては市から出ている覇気に怖気付いていた
そんな市に対して、何とか止めようとしたのは
「母上、此度は拙者が右府様から直々のお役目を受けたのですから、長刀を持ち出すなど、やめてくだされ!」
京六郎だった。我が子の言葉に一瞬、市は止まったが
「京六郎!あなたは六三郎とお話ししたのも、顔を見たのも十年程昔の、たった一回だけなのですよ!
戦が立て続けにある場合は仕方ないと、私も納得出来ます!ですが、戦が無いのにも関わらず、あなたは兄上と十年以上も顔を合わせていないのです!
それに、六三郎は甲六郎や六花や六江にも数える程度しか顔を見てあげていないのです!戦が無い中で、その様な事が許されてはなりません!
だから私は、兄上を問いただします!京六郎!退きなさい!」
信長に六三郎の現状改善を訴える為に、京六郎へ退く様、伝える。しかし京六郎は
「母上!仰っている事は、拙者も理解出来ます!ですが、お話し合いに長刀は不要でしょう」
何とか市から長刀を取ろうとする。そんな緊張感ある空気の中
「宗六郎!待ちなさい!」
「嫌です!母上がとても美しいお方だと仰る祖母様を見るのです!」
高代が宗六郎を追いかけている声と、逃げている宗六郎の声が聞こえて来た
その声は市達の元へ近づいて来る。そして
「居ました!あなた様が拙者の祖母様ですか!?お初にお目にかかります!柴田宗六郎です!母上が仰っていた様に美しいお方ですね!」
市に対して自己紹介をした。宗六郎の行動に、周りの者達は固まっていたが、孫の登場に市は
「あらあらあら!あなたが高代の産んだ子ですか!初めまして、祖母の市です。こんな状況にも恐れずに飛び込んで来るなんてとても肝の太い子ですねえ」
長刀を捨てて、宗六郎を抱っこしていた。この隙に京六郎は長刀を回収して
「母上、宗六郎を抱っこしたまま右府様の元へ行きましょう」
市に信長の元へ行こうと提案する。気分が良くなった市は
「そうですね、兄上への対応も少しは優しくしましょうか。さ、宗六郎も一緒に行きますよ」
「はい!」
「ふふっ。良いお返事ですね」
宗六郎を抱っこしたまま、大広間へ向かっていった。殺気立っていた市を止めた幼子に対して家臣達は
「父親である柴田様と同じく肝が太い!」
「あの状態のお市様を止められるとは」
「将来、とてつもない武将になるやもしれぬな!」
宗六郎に対して、早すぎる過大評価をしていた。




