信長一行が到着してやる事は
天正二十三年(1595年)十二月六日
伊勢国 神戸家屋敷
「それでは三七。儂達は出立するが、何か勘九郎に伝えておく事はあるか?」
「そうですな、伊賀国を見ております家臣からの報告ですが、伊賀国の隣の大和国の情勢が不安定だと伝えていただきたく」
「どの様に不安定なのじゃ?」
「大まかに言いますと、百姓達が大和国から伊賀国へ流れて来ております。年貢の取り立てが苛烈なのか、それとも別の理由かあるのかは、分かりませぬ」
「う〜む。松永弾正が死んだ後は、筒井に任せておいたが、一度、勘九郎と話し合った方が良いな!
分かった、三七!お主は引き続き大和国、それと紀州も注視しておけ!何か起きたら報告せよ!」
「ははっ!それでは、父上達も徳川様達もお気をつけて!早馬で兄上へ父上達が安土城へ戻る文を届けておりますので!」
「うむ!それでは出立じゃ!」
「三七殿、世話になった」
信長一行は、信孝の屋敷に到着して僅か1日の滞在で再出発した。
信長一行が伊勢国から畿内を目指している頃、安土城の信忠はと言うと
天正二十三年(1595年)十二月二十日
近江国 安土城
「今年も残り十日程じゃな五郎左よ」
「そうですなあ。珍しく戦の無い一年と言っても過言ではありませぬなあ」
「まったくじゃ!これで父上と六三郎が何の問題も無く戻って来てくれたのであれば、来年から始める予定の九州征伐について評定を開ける!早く戻って来て欲しいものじゃ」
丹羽長秀と今年1年間を振り返っていた。信忠の言葉の中には、フラグとも取れる言葉があったが、当然信忠も長秀もそんな事は知らない
そんな中、狙ったかの様なタイミングで
「殿!丹羽様!早馬にて伊勢守様からの文が届きました!」
信孝からの文が到着した。文を受け取った信忠は
「早馬とは、また何かしらあったのか?まあ良い、とりあえず読んでみよう」
そう言いながら、文を読み出す
「どれ。「兄上へ。伊勢国の三七にございます。年の瀬にいきなりの文で驚かれたと思いますが
伝えておかなければならない事が出来ましたので、報告させていただきます
先ず最初に、この数ヶ月程拙者が見ております伊賀国に、隣の大和国から百姓達が移動しております
百人以上の大人数ではなく、四、五人位のの家族が複数入って来ていると家臣より報告がありました
伊賀国で武装蜂起したりしているわけではないので、現状静観しております
そして、二つ目の報告ですが、この文を書いた前日の師走の初頭頃に父上が徳川様を含めた大人数で滞在しておりました
父上は織田家に臣従した陸奥国の伊達家の財政改善の為、何やら陸奥国でしか作れない特産品を洛中の神戸家で販売するとの事で
父上が連れている大人数の中にも伊達家の人間が居ました。恐らく神戸家で働かせるのかもしれませぬ
そして六三郎殿の側室の高代殿と次男の宗六郎殿も連れておりました。そのまま柴田家に連れて行くとの事です
次に徳川様の事ですが、徳川様の長女で、徳川家家臣の奥平家に嫁いだ亀姫殿と子供達が同行しております
徳川様は久しぶりに神戸家の料理を食べつつ、御自身の次男で数年前に元服して現在は信濃国を任せている勝之尉殿の官位の申し出が同行の理由なのですが
亀姫殿は、先程名前が出た宗六郎殿に、自身の娘を嫁がせるか、許嫁の座を掴みたいと意気込んでいる様でして
その事で父上から、「それならば羽柴家の嫡男がお勧めだ!それに、畿内も見ていってみてはどうだ!」と言われた事で
子供達と同行しております。そんな父上達が安土城へ向かっておりますので、報告をしておきます
そして、最後に。父上なのですが、徳川様が六三郎殿の弟の京六郎殿が美丈夫だと聞いて、とても驚かれておりました
もしかしたら、兄上にも色々と聞いてくるかもしれませぬ。以上が報告しておきたい内容です。また何かありましたら、文を届けます」との事じゃが、
五郎左よ、今月の初頭頃に父上が伊勢国を出立したのであれば、明日か明後日には到着すると見てよいな?」
文を読み終えた信忠は信長一行の到着予定日を長秀に確認すると、長秀は
「そうですなあ。明日か明後日が可能性が高いと見た方が良いでしょう。遅くとも年内には到着するでしょうし」
信忠の意見を肯定する。それを聞いた信忠は
「急いで出迎えの準備をしておく!五郎左よ、年の瀬でだらけていた家臣達の尻を叩いておけ!」
「ははっ!それでは準備に取り掛かりますので、失礼!」
長秀に命令し、長秀も準備の為に動き出した。安土城内が慌ただしく動いた2日後
天正二十三年(1595年)十二月二十二日
近江国 安土城
「父上!お帰りなさいませ!」
「「「「「お帰りなさいませ!」」」」」
信長一行が安土城へ到着した。大広間にて信忠以外に重臣達、更に帰蝶も松姫も出迎えていた
「うむ。何とか年内に間に合ったな!三七からの文で知っておるじゃろうが、二郎三郎達も同行しておるからな」
「勘九郎殿!しばらく世話になりますぞ」
「徳川様がごゆるりと寛げる様、頑張りたいと思います」
「堅苦しくせずとも、気持ちだけで充分ですからな」
簡単な挨拶を済ませると、信長は早速
「さて、勘九郎。三七からの文で既に知っておると思うが、此度儂は陸奥国から伊達家の面々を連れて来た
その理由は、陸奥国の特産品を洛中の神戸家で販売して、伊達家の財政改善を実行する為なのじゃが、その為に儂からいくつかやってもらいたい事がある!」
「どの様な事でしょうか?」
「うむ。先ずは、現在村井に任せておる京都奉行所を簡易的で良いから、伊達家の人間が寝泊まり出来る様、場所を開けよ」
「それは可能ですが、他には何をやるのですか?」
「うむ。六三郎の弟を安土城へ呼ぶ事じゃな!」
「京六郎をですか?それは何故ですか?」
「二郎三郎が京六郎の事を美丈夫と言っておったからな!それならば、兄の六三郎と同じく、神戸家で働いてもらおうと思ってな
儂が以前寄った時の神戸家は、赤備えの面々がとても目立っておった!三七の家臣達がどれ程頑張っておるかは分からぬが、
件の京六郎が、周りの目を引く美丈夫ならば、売上も増えよう!なので勘九郎!
柴田家に京六郎を連れてくる様、文を書いて届けておけ!予想通りの美丈夫ならば、即、神戸家に連れて行く!」
信長はそう信忠に命令したが、信忠は
「父上、文を書くのも届けるのも構いませぬ。ですが、六三郎が居ない現状で、更に京六郎まで連れ出してしまうのは、叔母上がお怒りになるのでは?」
「六三郎が居ないのに、京六郎を働かせては、市がブチギレませんか?」とツッコミを入れる
それでも信長は
「大丈夫じゃ!市の事は、儂がどうにかする!だから勘九郎!お主は文を書け!」
根拠のない自信を見せる。それに信忠は
「分かりました。父上が対処するのであれば、今から書きましょう」
そう言って、文を書き出した。こうして、信長は市に怒られる事も考えないまま、京六郎の顔見たさに、柴田家へ文を送る事にした。




